子どもの習いごと、実は「恐怖感」で決めてない?「一生続けられる趣味」を見つけるためには【シン・子どもの習いごと】#1
小学生の習い事ランキング、順位の入れ替えはあっても、顔ぶれはだいたい同じですよね。22年では、1位水泳、2位音楽教室、3位塾、4位通信教育、5位英会話。(学研総合教育研究所「小学生白書」web版2022年9月)。
こうして見てみると、習いごと選びの最大基準は「うちの子だけが(授業で)できなかったらどうしよう」という「恐怖感」なのではないかと改めて感じます。
かくいう筆者も、中受しないのに小4から小5にかけて次々と習いごとをやめていく娘に腹を立てつつ、今になって習いとごとは「師との相性」や「一生のこと」という視点で探さねばならなかったと反省もしています。私は完全に「恐怖感」で決めていたなと思うので。
ですが、周囲を見回してみると、同じ年でも習いごとがすでに一生の趣味になり、レッスンに打ち込んでいるお子さんも。このような「続く習いごと」を選んだご家庭は、どのような指針でその習いごとを見つけ出したのでしょう? 働くママたちを中心に、その背景を聞いていきます。
【2020年代に考える『子どもの習いごと』】#1前編
男児には珍しい「合唱」。決めたのは本人でした、「やりたくてやりたくて仕方なくて」
1回目に登場するのは、中1・小5の兄弟を育てながらメーカーに勤務するアキコさん。IT企業勤務のご主人と家族4人で都内暮らしです。小5のタカシくんは小1から「合唱隊」に参加しています。都内には児童合唱団がいくつかあり、たとえば最大規模のNHK東京児童合唱団(以下N児)は入団時に選抜があることで知られます。タカシくんのご所属は?
「東京少年少女合唱隊(The Little Singers Of Tokyo、以下LSOT)です。東京ではN児のほか、杉並児童合唱団などそれぞれ特徴のある合唱団が活動しています。N児ならばオーケストラとの共演頻度が高く入団後も都度オーディションが行われますし、杉並児童合唱団は劇やミュージカルなど子どもらしい元気のよい楽曲が得意。そしてLSOTは大手では唯一、聖歌隊寄りのヨーロッパ音楽を中心にレッスンします。ウィーン少年合唱団をイメージしてください」
なるほど、「天使の歌声」ですね。LSOTは2021年に創立70周年を迎えた少年少女合唱の老舗なのだそうです。とはいえ、男児で合唱は珍しい習いごとに感じますが、アキコさんのご意向で始めたのでしょうか?
「いえ、意外かもしれませんが、完全に本人の意思です。というのも、実はタカシは『聖歌隊』に入りたかったんです。兄がカトリック系の一貫校に通っているため、学校行事に参加するたび聖歌隊に接し、自然と憧れを募らせたようです。本人もカトリックの幼稚園に通っていたので聖歌そのものになじみがあり、小さなころから大好きな『天使の歌声』の動画を再生しては見入っていました」
LSOTとの出会いは年長の2月に幼稚園で開催されたミニコンサートでした。この年からLSOTが隊員募集のためにキャラバンを始め、1回目にタカシくんの幼稚園を訪問したのだそう。
「LSOTの合唱を聞いて、ここに入りたい!とタカシが熱望しました。ただ、4月に入学した小学校が自宅から少々遠く、通学だけでクタクタ、習いごとはしばらくスタートできませんでした。ゆっくり探そうよと相談して、いろいろな合唱団の動画を聞き比べたのですが、調べれば調べるほどタカシが『LSOTに入りたい、ここ以外は考えられない』と意思を固めていきました。最終的に、学校の通学ペースがつかめた1年生の9月に晴れて入隊しました」
LSOTの場合、レッスンは週に何回なのでしょう。筆者の知り合いのN児ママ(すでに卒業)いわく「公演前は毎日レッスン通いで子どもも必死。結構大変よ」。LSOTも毎日毎日レッスンなんですか?
「公演前はやはりレッスンが増えますが、普段は思ったよりもレッスン回数は少なく、いまは週2回、1回3時間。小3までのCクラスは週1回。3年から5年のBクラスは週に2回で、現在Bのタカシは土日に通っています。入隊時期によってクラスが上がるタイミングはまちまちですが、このあと5年から中2の春までがAクラスで、貴重なボーイソプラノの時期。中3でいったんジュニアのクラスは修了、高校を受験する人たちはお休みをとって、その後もシニア&ユースクラスへ進級できます」
なるほど、ちょうど高校受験の時期と変声期が重なるので最初からお休みの前提なのですね。お月謝や発表会の費用はいかがでしょう?
「スイミングなどの習いごとと同じくらい額のお月謝の他に、合宿時の費用、定期演奏会の参加費負担があります。定期演奏会でお月謝3回分くらいでしょうか。ですが、制服が決まっているので衣装代はかかりませんし、先輩たちからおさがりをいただけたりもします。お金がかかりそうでいて、思ったほどではないなという印象です」
確かに、イメージだけで言えば行事ごとに10万円単位の負担がありそうですが、そこまでではないですね。
「はい。さらに、合唱は習いごとでありながら、交響楽団やプロの音楽家と共演をします。LSOT全体で公演や録音に年間平均で30回出演するという点が、普通の習いごととは大きく違う最大の魅力だなと思っています」
習いごとでありながら「自分の存在がもたらす責任」を学んでいる
たとえばLSOTの最近の活動は、4月上野・東京文化会館『トスカ』、5月初台・新国立劇場『夏の夜の夢』、5月上野・東京文化会館『東京都交響楽団定期演奏会』といずれも大舞台ばかり。タカシくんはこのうち『トスカ』に参加しました。
「大きなホールで満席のお客様の全員から割れるような熱烈な拍手をいただく経験って、他にないですよね。子どもが参加することで私たち夫婦もオペラに触れ、日常の会話に『ここがマレンゴの戦いの舞台だね』なんて単語が自然に飛び出るようになる。舞台の当日は息子が歌い上げる姿を感動を持って見守り、そして息子がとても大きな達成感を得て帰ってくる姿を毎回一緒に喜ぶ。息子だって、やってやったぞ!あの大きな舞台で!と、自己肯定感がぐいぐいと上がります」
舞台のほか、日常のレッスンの中で中学・高校生らとともに合唱することで「自分の声が上手な人たちの声の中に溶け込み、響きあうことを体感する」経験も得難いといいます。
「高校生ともなれば、6歳から10年レッスンを続けている活動歴10年のベテラン。歌も圧巻です。しかも、小さなころから『お客様に誠心誠意の演奏を披露すること』と教えられて育ってきていますから、身のこなしのひとつひとつがとても優雅です。舞台に上がり続けることで、自分の姿そのものにも責任があると自然に理解していくのです。対価をいただくということは、責任を引き受けること。こうした一流の所作を目指しながら学んでいける習いごと、私は他に思いつきません」
しかも、一緒に舞台に上がるのはもれなく全員が国際的な一流音楽家。これはN児ママも言っていましたが、「世界の一流の音楽が向こうの側からどんどんきてくれる。子どもはもちろん、親としても得がたい経験」の塊なのだそうです。
「習いごと観」には親2人の成功と失敗の体験がそのまま反映されるかもしれない
しかし、これだけの大舞台に出るとなると、家でのサポートも必要なのでは? たとえばピアノなら毎日1時間練習しましょうというような努力が必要ですが、合唱の場合は毎日ママが伴奏しながらおさらいをしたりするのでしょうか。
「少なくともLSOTはレッスンだけで完結していて、家では全く何もしなくて大丈夫です。私も3歳から結婚前までピアノをずっと続けていたので、習いごととは自分で毎日練習をした成果を先生に見ていただくものだという感覚があります。でも、同じ音楽の習いごとでも、合唱には毎日の自宅での練習という要素はありません」
なるほど。話がちょっと脇道にそれますが、アキコさんは社会人までずっとピアノを続けていたのですね。だからこそお子さんにも一生の習いごとをという視点があったのでしょうか。
「いえ、そこまでは考えていません。そもそも私たちの時代って、自分で何を習いたいと決めたわけではなかったですよね。ピアノも親に言われて始めましたし、中学校受験、高校受験と受験があるたびにお休みをとって、通う教室も変えていました。ただ、記憶に残っているのが、中3のときの発表会。革命を弾いたのですが、そのあと近所で見知らぬ女性に声をかけられました。『あなた、革命を弾いた中学生でしょう?私の娘も友達もみんな中学受験で辞めちゃったけれど、ずっと続けていたらあんなに素敵に弾けるようになっていたのね』と言われて。そうか、長く続けるっていいことなんだなと感じました」
そういう経験があってこそタカシくんの意思を尊重して「続く習いごと」を選んであげたいと思った? 言われて始めた習いごとでもそれならば、自分でやりたいと思って始めた習いごとのほうがもっと長く続けられるでしょうし。
「そう言われると、それはあるかもしれません。たとえば、夫はずっとボーイスカウトを続けていて、とてもいい体験だったので息子2人とも入団させました。いっぽう、夫も音楽の習いごとをしたかったけれど、男が音楽?というような土地柄と時代背景だったそうで、姉がたちがエレクトーンを習っているのをうらやましく思っていたそうです。その分だけいまタカシを応援しているんですね。やっぱり、親が何を習い、どういう体験をしたかはかなり影響しています」
つづき▶そんなアキコさん一家。実は「あの受験」を経験していたってホント?「大変でした、育児ってままならないことばかりで」
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