52歳、梅宮アンナという女性が「変えたこと」と、これから「変えていくこと」とは

私が梅宮アンナにはじめて会ったのは意外に最近で、2021年の冬だった。主婦の友社から父である梅宮辰夫氏のレシピをまとめた書籍が発売されて、そのご縁でインタビューをすることになったからだった。

 

小さな神様としての梅宮アンナ

ハウススタジオにアンナが入ってきた瞬間、おかしな表現だが「わあ、神社みたい」と感じた。例えるなら早朝、伊勢神宮の清冽な空気、風をはらんで揺れる真っ白な御幌(みとばり)。凛とした光の塊のような人だと思った。「個人の神格化か」と言われるかもしれないが、その瞬間から私にとって今日まで、梅宮アンナはずっと「小さな神様」のままだ。

 

アンナから突然電話がかかってきたのは7月の終わりのことだった。「イノイチさん、私、がんになって」。事情を聞いた私はこのとき軽率にも「大丈夫だよ、いまがんは治るから全然平気」と口にした。近親に2004年にステージ4-4のがんを治療し、いまも元気で暮らしている者がいるからだ。もちろんがんの経過はその人ごとに大きく違うが、すべてが死の宣告ではないと伝えようとした。しかし、ご存じの通り、のちにアンナは「がんばって、大丈夫治るよ、という悪気のない言葉がいちばんつらい」と繰り返し発信している。私は記者として傾聴態度を見直す学習を始めた。

 

その後、アンナから詳しく心境を聞かせてもらう機会を得て、彼女が最初に「がんにかかった」と世間に公表するタイミングで長文のインタビュー記事を配信することになった。現在も連載の形式で3話まで配信しており、来年には闘病の経緯を書籍にまとめたいとも考えているが、とにかくアンナがすごいのは、2021年から今日にいたるまで「言っていることが細部までまったくブレない」点だ。普通の人はブレる、そこまで自分の言葉を覚えていないからだ。でもブレない、つまりすべてが芯の部分から発した言葉なのだ。

 

「国民的闘病」がさまざまな意識を変えていく

アンナの闘病は自身のインスタのみならず、さまざまなメディアからいろいろな姿で配信されているため、すでに彼女は「国民的闘病者」の域に達していると思う。これだけ注目を浴びても彼女がブレないのは、行動原理が「常に自分の言動が誰のためになるかを考えてから行う」だからだろう。

 

確かに20代の頃は大恋愛で世間の注目を集め、その後も「非常識っぽいコメント」を切り取られて報じられてきた結果、不本意にも長く「お騒がせタレント」のポジションにいたかもしれない。だが、50代に入ってから接した私にとっての彼女は、困難から逃げず向き合い続けてきた、驚くほど責任感の強い思慮深い賢者でしかない。多くのファンの皆様も同じ気持ちだろう。わかる。

 

つまり人はどの瞬間も変化を続けるし、ほとんどの場合は「よりよく」成長し続けるのだ。アンナは最初のインタビューですでに「がんにり患したことでいろいろなことが見通せるようになった」とメリットの側に言及している。同じようにり患した人が、ただ不安の中に打ちひしがれることがないよう、エールを送っているのだ。まだ毎日自分自身が泣いているというのに、すでにあとに次に続く人のことを考えて発言している。

 

「がんにり患したと言い出せない」風潮を変えたいというのもアンナの願いだろう。アンナは「包み隠さず」話し続けている。自分の闘病を隠さず、副作用や感染症など物理的なしんどさも、メンタルの動きも、市販品がなくて困っていることも、すべて伝えることが、いま闘う、またこれから闘う誰かの力になることを知っているのだ。中でも「標準治療を選んで闘病する」発信は国内の医療関係者から非常に大きな反響を得ている。医師から直接「ありがとう、これまで私たちが続けてきた努力が報われました」と御礼を言われた話も聞いている。

 

がんという病を前にすると、患者だけでなく家族も「少しでも生き残るチャンスを加えてくれそうな何か」を選びたくなってしまうのだ、ほぼ奏功しない高額な何かを。アンナも自身が一度は自費治療に行ったことを隠していない。彼女ほど「話を聞ける」人でも一度は行くし、行ったことを主治医に正直に話したら「よく隠さず話してくれました」と言われたことまでも話している。行った人が隠したくなる気持ちを理解しているから、そこもフォローしているというわけだ。あとからくる誰かがこうした記録を参照して「アンナが大丈夫だったんだから私も大丈夫って思ってもらえるように」と意識的に行動しているのだ。

 

そんな梅宮アンナが今日の朝から、報道されている通りに、右乳房及びリンパ節郭清手術を受けています。そろそろ終わるころでしょう。アンナさん、頑張れって言葉はイヤかもしれないけれど、日本語ではこれ以上にぴったりくる言葉が見つからないんだ。みんな頑張れって思っています。

 

この国のがん治療の意識を変えてくれたあなたを、報道に接した全員が心から応援しています。よりよい日本になるようにと、子どもの代によりよい日本を受け継いでいけるようにと、そういうことですよねアンナさんが言っていることって。

 

私たちオトナサローネも乳がん、がんのみならず、女性に起きるさまざまな困難を乗り越えるその過程に寄り添い、応援を続けます。

 

井一美穂(いのいち みほ) 主婦の友社オトナサローネ編集長 更年期障害の課題解決を中心に、女性医療にまつわる発信を続けています。53歳。

 

 

 

 

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