
「産んでよかったとはまだ思えない」「死んだらいいのに、と思ったことも」でも、いつかは「産んでよかった」という日が来ると信じたい【子どもの反抗期 体験談】
小学校1年生から高校入学までの「地獄のような10年間」
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―――この10年間を「地獄」のようだったと例えられましたが、どのようなことがあったのでしょうか?
息子は小さな時からトラブルが多く、周囲と違うと感じていました。保育園の頃は、砂場で友達と遊んでいる時におもちゃを取られたから砂をかける、友達の手が当たったから殴る、などのトラブルが絶えませんでした。小学校では、故意ではなく、気遣いが足りないことでのトラブルが続きました。例えば、ブランコから降りる際に動きを止めずに飛び降り、勢いよく動いているブランコが他の人に当たってしまう、といった行動です。
息子は学校の集団生活が合わないようで、小学校入学後、登校を嫌がるようになりました。私が毎朝仕事に行く前に学校まで連れて行くのですが、家に戻ってきてしまい、仕事中に学校からの電話が毎日かかってくる。それを怒ると、息子は家に帰らなくなり、無断外泊や深夜徘徊が始まりました。
―――その頃、学校とはどのように関わられていたのですか?
小学校3、4年生頃に担任の先生に「絶対に特別支援学級に行かせた方が良い」と言われて1年間行きました。息子の小学校には普通級と特別支援級(知的障害)(※1)しかなくて。その支援級の担任は若い講師の方で、発達障害などの知識がなく、息子はいつも学校で怒られていました。そして、私から家でも怒られ…。息子の反抗はそれ以降さらに強くなりました。もっとのびのびと育ててあげられればよかったのですが…。
発達障害の子を見てくれる特別支援級(自閉症・情緒障害)は、自宅から離れた隣学区の小学校にしかありません。そこに行ければよかったのですが、親の送迎が必要で、子どもだけのバス通学もダメでした。頼れる人はいないので、時間をつくるために正社員からパートになることを考えましたが、正社員に戻るのが難しいと思いやめました。
※1:特別支援学級の種類は7種類(弱視、難聴、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、言語障害、自閉症・情緒障害)。ただし、特別支援学級がない学校もあり、ある学校でも、この7種類すべての学級を設置しているわけではない(出典:特別支援教育の充実について(文部科学省, 2024年)。
―――発達障害の診断を受けたのはいつ頃だったのでしょうか?
小学校3、4年生頃に息子が児童相談所(児相)に一時保護された時です。そこに病院の医師が在籍していて、「 自閉スペクトラム症(ASD)」と「注意欠如・多動症(ADHD)」と診断されました。ショックでしたが、「やっぱりそうか」とも感じました。振り返ると、早くわかった方が適切な支援ができるので、診断を受けてよかったです。母親が受け入れられず、診断を受けていない子は意外と多く、グレーゾーンにいる子は少なくないと思います。児相との面談や児相に息子を預けることもしましたが、状況は大きく変わりませんでした。助けて欲しくて、限界を感じて子どもを預けたくても、平日の指定された時間にしか面談ができないため、働いている私には次第に通うことが難しくなりました。
中学校に入っても深夜徘徊は続き、私が「帰ってこないなら家に入れない」と家の鍵をかけて締め出すと、息子は鍵を壊して家に入ってきて…。中3の時には万引きで捕まり、14歳以上は窃盗罪になるので、裁判所に1度行きました。
高校は、私は無理に通う必要のない通信制高校がいいのではと思いましたが、先生から私立の普通科高校を勧められ、息子はそこを受験し合格しました。高校入学後、1学期はほぼ休みでしたが、2学期後半からは毎日通っています。先日、高校の面談があり、先生から「いつもニコニコしていて他の先生からも可愛がられている」と聞きました。家では「黙れ、喋るな、あっち行け」しか言わないのに…。将来のためにも、今のうちに人との関わりを学んでほしいです。少し落ち着き、やっと終わりが見えてきたので、気持ちはちょっと楽になりました。
◆発達障害のある子どもの現状と特別支援教育
Nさんが語った、地獄の10年の裏側にはどんなことがあったのでしょうか。
文部科学省の2022年の調査では、公立小中学校の通常学級に通う児童生徒の8.8%に発達障害の可能性があると報告しています(前回2012年の調査結果6.5%から2.3%増加)(※1)。この10年間で、特別支援教育を受ける子どもたちは約2倍に増加しており、子ども一人一人に応じた学びの場の提供が進んできた結果とも捉えられます(※1)。一方で、国連は2022年、 日本の特別支援教育は分離教育だとして、止めるように勧告しました(※2)。「分離教育」とは、障害のある子どもとそうではない子どもを別々の環境で教育する仕組みのことです。そこで導入されつつあるのが、障害や病気の有無、国籍や人種、宗教、性別といったさまざまな違いや課題を超えて、全ての子どもたちが同じ環境で一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」です。共に学ぶことで、自分とは異なる個性や価値観を受け入れる心を育み、誰もが活躍できる共生社会の創出を目指しています。しかし、その実現には、まだまだ多くの課題が残されています(※3)。
※2出典:「国連・障害者権利委員会勧告の波紋 日本の特別支援教育の行方」(教育新聞, 2022年11月4日付)https://www.kyobun.co.jp/article/20221104-03
※3参考:青木猛正.インクルーシブ教育システムの構築に向けた現状と課題.城西大学教職課程センター紀要 第7号.2023
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