
開業医で稼いでる夫。裁判所の決定を無視して、生活費の振込拒否!サレ妻がとった、とっておきの「秘策」とは【行政書士が解説】
行政書士、ファイナンシャルプランナーとして20年間で2万人以上の夫婦の離婚相談にのってきた露木幸彦です。実際のところ、離婚しやすい職業、しにくい職業があるのは事実です。経験上、「医師」がその上位に入るのは間違いありませんが、なぜでしょうか?
今回の相談者は医者の夫と結婚した陣内美琴さん(40歳、仮名)。夫の不倫をきっかけに別居に至ったのですが、夫が不定期に振り込んでいた生活費が完全に止まってしまい…美琴さんは家庭裁判所で調停委員に対して「私立の小学校に通う娘を転校させたくない!」と訴えた結果、見事に相場である毎月61万円の金額で決着。しかし、夫は裁判所で決まった金額なのに1円も振り込まず、美琴さんは途方に暮れてしまったのです。どのようにして生活費を確保すれば良いのでしょうか?
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:陣内隼人(42歳)→整形外科クリニック経営(年収3,000万円)
妻:陣内美琴(40歳)→専業主婦 ☆今回の相談者
子:陣内真琴(9歳)
謎の女性:かおり→夫の大学病院時代の同僚のはずだが…
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【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 ♯6】後編
生活費を払わない夫、財産の差し押さえはできる?
裁判所が発行した調書には強制力があるので、婚姻費用の支払が止まった場合、元夫の財産を差し押さえることが認められています(民事執行法22条、債務名義)。ところでクリニックを法人化していれば、夫が法人から役員報酬を受け取っており、その報酬を差し押さえれば良かったのですが、クリニックは売上が順調に増えているにもかかわらず、面倒臭さがりの夫は法人化せず、個人事業主のまま。筆者は「役員報酬以外に差し押さえることができる財産は限られてますよ」と指摘。
例えば、元夫の預金残高を差し押さえるには口座番号等が、愛車のベンツを差し押さえるには車台番号等が必要ですが、美琴さんは何も知りませんでした。元夫の家を差し押さえようにも、元夫が住んでいるのは持ち家ではなく賃貸。夫の財産ではありません。もう美琴さんはあきらめるしかないのでしょうか?
高所得な医師の夫。未払いの母子への生活費を回収したい!!
美琴さんが九死に一生を得たのは夫の職業が医師で、診療報酬を受け取っていたことです。筆者は「診療報酬を差し押さえることが可能という判例が存在しますよ(平成17年12月6日、最高裁判決)」とアドバイスしました。
クリニックは患者に診察や治療等を行うと、患者が国民健康保険の場合は国民健康保険団体連合会、社会保険の場合は社会保険診療報酬支払基金に対してレセプトを提出します。
そうすると連合会や基金がクリニックに対して、レセプトに記入した額の診療報酬を支払います。そこで裁判所は連合会や基金に対して、クリニックに診療報酬を支払う前に、妻(美琴さん)の口座に未払い分を振り込むよう命じてくれます。(=債権差押命令)
いわゆる天引き状態を実現することが可能で、しかも1度、差押の手続を踏めば、最終回(子が20歳に達するまで)まで自動的に天引きされてくるので非常に便利です。(民事執行法152条2)あくまで裁判所と連合会や基金とのやり取りで、いわゆる天引きを行うので、債務者(夫)は邪魔のしようがありません。
すでに1ヵ月分の婚姻費用が滞納状態だったので、そのことを理由に、すぐに差押の手続に踏み切ることが可能でした。美琴さんは早速、債権差押命令の申立書を記入し、必要書類を一緒に地方裁判所へ提出したところ、裁判所はすぐにクリニックに対して差押命令の通知書を送付してくれたのです。そして無事、差押に成功し、長期安定的に婚姻費用を確保することができ、娘さんを引き続き、私立の小学校へ通わせることが可能になったのです。
サレ妻が、面倒な手続きを諦めずに完了できたワケ
ここまで美琴さんが婚姻費用を確保するまでの苦悩を見てきました。筆者が「どうして最後まで頑張ることができたのですか?」と聞くと、美琴さんは「夫に言いなりになりたくないんです!」と声を荒げます。
美琴さんという存在がありながら不倫に走ったのも、「もう会わない」と約束せずに別居に至ったのも、「終わりにしたいなら、それでいいや」と離婚を言い出したのも、すべて夫です。
もし、美琴さんが夫と別れたら、件の女性の思うつぼ。美琴さんはシングルマザーとして苦労を重ねるのは目に見えています。一方で夫と女性は同棲し、再婚し、幸せ一杯です。美琴さんは何も悪くないのに、このような顛末はあまりにも惨めです。
医療の現場で患者の命を預かるという重大な責任を負っており、現場の医師にのしかかるプレッシャーは計り知れません。他の職業に比べ、蓄積するストレスは大きいので、心身とも限界まで追いつめられた場合、はけ口を求める傾向が一部の人々にはあります。
例えば、ストレスを発散する対象が性欲なら、同僚の看護師を口説いたり、恋活サイトに登録したり、風俗店で検索したりすることもあるでしょう。
またストレスを抱え、イライラした状態で家庭に戻れば、家族に対して「お前のせいだ!」と八つ当たりをしたり、「何も分かっていない!」と言葉責めをしたり、「うるさい!」と手を上げたりすることも起こり得ます。他にもFXや仮想通貨、オンラインカジノなどで射幸心を刺激して気を紛らわすことも。
琴美さんにとって「医師の妻」であるということの意味
筆者が受け持った「医者の夫との離婚」の案件では、このようなトラブルがありました。このように医者の夫と結婚生活を続けることは特に大変なのですが、それでも美琴さんがやめないのは今まで「夫がお医者さん」という肩書きで良い思いをしてきたからです。
例えば、親戚や旧友、そして娘さんの同級生の親御さんの反応。必ずといっていいほど「すごいね!」と褒めてくれたそう。しかし、夫と離婚した瞬間に「家事手伝い」に転落します。美琴さんは「どうしても嫌なんです!」と憤ります。
夫の家事を何もしていなくても、離婚しない限り、その肩書きを続けることは可能といえば可能です。賛否両論はあるでしょうが、それが美琴さんの選択なのです。
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