「もう我慢の限界!」5600万円のマンションも慰謝料も、いらないから離婚して!!【行政書士が解説】

子どもを抱えて離婚、夫からもらえるお金は

筆者が「旦那さんがいくら持っているのかを知っていますか?」と尋ねると、麗奈さんは「いえ……」と下を向きますが、「分かっているのは」と前置きした上で話を続けます。まずは財形貯金。これは勤務先の会社の福利厚生で、毎月の給料から一部を天引きし、会社の方で預かります。財形の利息は市中の金融機関より高いので、それは社員にとってのメリットです。

 

まだ給与明細が電子化される前、麗奈さんが夫の明細が印刷されたものを目にしたことがあるそう。麗奈さんは「毎月2万って書かれていました!」と答えます。利息を抜きにしても12年間で288万円になります。

 

それ以外にも夫がパソコンの画面を開いたまま、トイレに行ったときのこと。画面には投資信託の取引残高報告書が表示されていました。これは3年前のことですが、当時の合計額は478万円。すべてが結婚以降の残高かどうかは分かりませんが、夫婦の共有財産が含まれているのは確かです。

 

一方、麗奈さんの財産はどうでしょうか?「貯金は200万くらいです。あとは娘の学資(保険)ですが、まだ保険料を払っている最中ですよ」と答えます。

 

学資を別にしても966万円。按分割合を折半にすると、お互いの取り分は483万円。夫の財産は283万円も減り、麗奈さんの財産は283万円も増える計算です。つまり、財産分与の原則通りに割り振った場合、夫は麗奈さんに財形をすべて渡さなければならないのです。しかも、これは麗奈さんが把握している夫の財産に限られます。夫の年収(800万円)を考えると、これ以外にも財産を持っている可能性が高いです。

 

麗奈さんは「一番大事なのは娘のことです。私はどうなってもいい」と言いますが、未成年の子どもを抱える夫婦が離婚する場合、どちらが子どもを引き取るのか。親権を決めなければなりません(民法819条)。今回の場合、夫は育児にノータッチなので、麗奈さんが親権を持つ前提で話を進めて良いでしょう。

 

家庭裁判所が公表している養育費算定表に夫婦の年収、娘さんの年齢を当てはめると養育費は毎月9万円が妥当な金額です。しかし、夫が今まで負担していたのは住宅ローン(毎月12万円)と生活費(毎月3万円)だけです。それ以外はすべて麗奈さんが負担していました。

 

もし、養育費として毎月9万円を請求した場合。夫が今まで出していた生活費3万円にプラスして、毎月6万円も負担が増えてしまいます。離婚したくないのに離婚させられた挙句、自分のこづかいが減るのなら、そもそも離婚に応じないでしょう。離婚しても懐が痛まないような条件。それは生活費と養育費の額を一致させることです。筆者は「養育費を毎月9万円から3万円に引き下げれば良いのではないでしょうか」と答えました。

 

 

夫に「離婚してもいい」と思わせるために…

ところで財産分与の根拠は内助の功。麗奈さんがワンオペで孤軍奮闘したからこそ、認められた権利です。しかし、麗奈さんは自分を犠牲にしてもいいから、とにかく娘さんを守りたい一心でした。

 

そのため、夫に対して「私のことはどうなってもいい。マンションの持分もあげるし、財形や投信もいらない。だから、せめて養育費だけは払って!」と訴えかけたのです。それから7ヵ月後。麗奈さんから「離婚、離婚」と言われるのが耐えられなくなったからなのか、妻子が出て行ったけれど離婚していない宙ぶらりんな状態を両親や上司に説明できなくなったからなのか、それともこの有利な条件を取り下げられる前に食いついた方がいいと思ったのかは分かりませんが、夫はとうとう観念しました、「どうしてもって言うならしょうがないな」という捨て台詞を残し、ついに離婚に同意したのです。

 

麗奈さんは「やっと終わりました。もう、あいつは家畜以下でした」と振り返ります。麗奈さんの父親は畜産の農業法人に勤務していたことがあり、子どもの頃に仕事の様子を見学したことがあるそう。餌を用意し、小屋を掃除し、そして藁の上で寝かせる…そんな上げ膳据え膳状態は夫も家畜も同じですが、基本的に家畜は何も言いません。文句ばかり言う夫はそれ以下だと感じたそうです。

 

麗奈さんは得られるお金を大幅に手放すことで「離婚」を手に入れたのですが、もちろん、金銭面で妥協せず、無理に離婚せず、別居を続けるという選択肢もあったでしょう。どちらを選ぶのかはその人次第ですが、離婚という区切りを第一に考えるのなら、金銭面で妥協しても仕方がないと割り切るのも一つの考え方です。

 

 

<出典>
家庭裁判所の養育費算定表
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html

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