「えっ、私が旅館を!?」移住ママがシェアハウス3軒→湯治宿の運営をするまで

2025.08.24 LIFE

TOP画像:受け継ぐことになった旅館を「七日一巡り」として開業

日々が飛ぶように過ぎていくなか、自分のあり方に漠然と迷う40代50代。まるでトンネルのように横たわる五里霧中ですが、そんななか「ほんのちょっとしたトライ」で自分のあり方を捉えなおすには、「最初の一歩」に何をしてみればいいのでしょうか。体験談をご紹介します。

<<この記事の前編:「温泉に惚れて」別府に子連れ移住、41歳でシェアハウスをオープン。がむしゃらに働き続けてきた私の第二の人生は

 

◾️菅野静さん
大阪府出身、大分県別府市在住の47歳。夫、7歳の子どもと3人暮らし。6年前に大阪から別府・鉄輪温泉に移住

 

【私を変える小さなトライ#37】後編

 

シェアハウスをとんとん拍子で増設

2020年2月オープンのシェアハウス「湯治ぐらし1」

初めてのシェアハウス「湯治ぐらし1」を開いたのは、41歳のとき。5部屋の小さなスタートでしたが、入居者はすぐに埋まりました。すると流れに背中を押されるように、「湯治ぐらし2」(3部屋)、「湯治ぐらし3」(2棟・9部屋)と、とんとん拍子に拡大していきます。

 

十分な資金も地域の後ろ盾もなかった静さんでしたが、企画書を練り上げ、銀行に交渉し、融資を引き出しました。「無理」と思わず、「やってみよう」と一歩を踏み出した先に、道は開けていったのです。

地方移住では、よそ者が新しいことを始めると反発を受けたり、孤立したり……と、そんな「移住あるある」の話も少なくありません。けれど、静さんの場合はまったく逆でした。

 

「鉄輪は、もともと外から人を受け入れてきた湯治場だからでしょうか。心が広すぎるくらいで、『よくぞ来てくれた』『菅野さんのおかげでこの地域が元気になった』とまで言っていただけて、地域の方々がとっても応援してくださったんです」

土地の懐の深さと、人々の温かさ。移住者としての挑戦は、地域に歓迎される形で根づいていきました。

2021年2月オープンのシェアハウス「湯治ぐらし3母屋」のリビングルーム

ただし、「よそもの」として地元に敬意を払うことは、常に意識してきたといいます。相手への礼を欠かさない態度、多少のことでは揺るがない強さ、誰に対しても壁をつくらず自然に場に溶け込む愛嬌。そのどれもが、周囲の理解を得やすい要因になったのかもしれません。

 

「私が惚れ惚れする、この町の“湯治場”を形づくってきた先人たちを心からリスペクトしていますし、私はとにかく、この町が好きなんです。何にでも好奇心をもって面白がる性格なので、『なぜこの土地でこの食文化があるのか』『どうしてこの祭りがいまも続いているのか』『なぜここにお地蔵さんがあるのか』と尋ねると、『そんなことに興味をもつのね』と、不思議と地元の人が喜んでくれました。いまになって考えると、そういう姿勢も良かったのかもしれませんね」

自らの好奇心を手がかりに、町の歴史や人々に敬意をもって歩み寄る。そんな姿勢が、静さんを地域の一員として自然に受け入れさせたのでしょう。

 

「旅館をやってみませんか?」46歳で新たな挑戦

短期間でシェアハウスを次々に立ち上げた静さんのもとに、「大人のための上質なシェアハウスをつくってほしい」という声が寄せられるようになりました。そんな要望に応えて、それまでの施設を改修したり、「大人の空間」をめざして広々とした部屋をつくったり、仕事もできるハイスペックな部屋をつくったりしました。さらに新たな物件を探し始めた矢先、銀行から思いがけない提案が舞い込みます。

「空き予定の旅館があるのですが、やってみませんか?」

 

それは、シェアハウスとはまったく規模もリスクも違う新しい世界。億を超える資金が動く旅館業など、想像もしなかった話でした。さすがに足がすくむ思いもありましたが、銀行からの「応援します」という心強い後押しに背中を押されます。

「よし、やってみよう」

 

46歳にして、まったくの未経験で湯治宿の運営に乗り出すことを決意しました。

「別府に移り住んだばかりの頃は、ペーパードライバーで車の運転もできず、この土地のことをまったく知らない。そんな私が今では、4人の正社員を抱える会社を経営しているんですから……人生って、本当に面白いですよね」

湯治宿「七日一巡り」に込めた想い

2025年3月オープンの「七日一巡り」

宿の名前「七日一巡り」は、江戸時代の儒学者・貝原益軒が健康長寿の秘訣を説いた『養生訓』の一節に由来します。「湯治は七日一廻りで、二廻り、三廻りするとよい」

 

静さんが大切にしたのは、ただ温泉に浸かるだけではない、土地と体を響き合わせながら整える時間。宿では1泊2食の旅館形式ではなく、2泊以上の滞在を基本とし、自炊をしながら「食・運動・温泉」を体験できるプログラムを用意しました。

「土地と体がシンクロするには2泊以上必要だと思うんです。長く滞在して、歴史や地理を知り、その土地を楽しんでほしい」

そう語る静さんは、シェアハウス、湯治宿に加えて、地域づくりのコンサルタントや行政のアドバイザー、アプリ開発など、活動の幅をますます広げています。

専門家による入浴指導も行う

日常のリズムを大切にしながら

多忙な日々のなかでも、静さんの生活リズムは変わりません。朝6時に起き、朝食をつくり、子どもを学校へ送り出す。家事を整えてから9時に仕事を開始する。

日常をおろそかにせず、その上で「大好きなことを仕事にして楽しく生きる」という暮らしが実現しています。

移住をきっかけに、すべての歯車がかみ合い、人生は大きく開けていきました。

 

「各地にある温泉の価値をもっと爆発的に高めたい。そして温泉を軸に、衣・食・住のライフスタイルブランドを展開していきたいです」

50代を目前にしたいまも、新しい夢を胸に、一つひとつ形にしていく静さん。お湯の湧き出るように、尽きることのないエネルギーが、これからも彼女を未来へと導いていきます。

 

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白髪染めをやめた。矯正を始めた。ドライヤーを買い替えた。骨密度検査をした。習字を始めた。寝る前にストレッチを続けている。資格を再取得した。ママ友と温泉旅行に行った。2㎏やせた。子どもとオンライン英会話を続けている。断捨離した。終活してる。離婚を決意した……などなど、どんな小さなことでも大丈夫です!

(編集部より)

 

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■編集部より■

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