54歳、役職定年。900万あった夫の年収が半減。住宅ローン返済の危機は、夫婦の離婚危機に!【行政書士が解説】

突然ですが、質問です。せっかく縁があって結婚した夫婦も一定数は離婚するのですが、最近、離婚の件数は増えている、減っている。どちらだと思いますか?正解ですが、10年間で18%も減っているのです(2024年は18万組、2014年は22万組)。一方で結婚の件数も10年間で26%も減っています。(2024年は48万組、2014年は65万組)。

この統計(厚生労働省が公表している人口動態統計)では昨年、離婚した夫婦がいつ結婚したのかまで分からないのですが、離婚届を提出する夫婦が減っているのは確かです。なぜでしょうか?

 

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして2万件以上の夫婦の相談にのってきました。離婚しない理由は各夫婦によって異なりますが、相談の現場で感じるのは、離婚せずに夫とやり直そうとする妻が増えていることです。

いっそのこと、離婚してしまった方が楽かもしれません。完全に別れ、他人になり、連絡をとらなければ良いからです。一方、夫とやり直すには相手のことを許し、「同じことを繰り返さない」という約束事を交わし、そして約束が守られているのかを逐一、チェックしなければなりません。離婚するよりよほど大変です。

 

 

【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #14】

 

 

妻が離婚したいけど、しない理由は…

それなのに離婚しないのには「ワケ」があります。例えば、まだ子どもが夫を必要としているし、夫の稼ぎなしに子どもを育てられないし、何より夫と縁を切るのは勇気がいります。今回、紹介する相談者・島田由奈さん(仮名、42歳、専業主婦)も離婚を躊躇する一人です。「息子がいなけれりゃ、とっくに離婚していますよ。でも、息子がいる間だけは…」と言葉に詰まります。

 

由奈さんが筆者の事務所へ相談しに来たとき、かなり精神的にまいった状態でした。由奈さんはマンションの六階に住んでいるのですが、「完全にパニックになってしまい、思わずベランダに片足をかけて、飛び降りようとしてしまいました」と驚くような告白をし、先週の出来事を振り返ります。実際にはハッと我に返り、事なきを得たということです。

この出来事から夫の暴言や逆ギレ、いじめによって受けた心の傷が、いかに大きかったのが改めてわかったといいます。由奈さんは生きるか死ぬか、ぎりぎりのところで踏ん張っていたのです。「もう限界です。いくら息子のためと言ったって、主人がこのままじゃ、私は命がいくつあっても足りません!」と訴えかけますが、17年間の結婚生活のなかで何があったのでしょうか?

 

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦や子どもの年齢、不登校の理由や喫煙の有無、モラルハラスメントの内容、離婚せずにやり直す場合の条件などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

 

<登場人物(相談時点。名前は仮>

夫:島田圭太(54歳。会社員。年収500万円)
妻:島田由奈(42歳。専業主婦)☆今回の相談者
長男:島田康太(16歳。長男)
夫の母:島田和子(76歳。年金生活)

 

 

結婚後1年で「夫のために」の気持ちが消えた理由

ふたりが初めて知り合ったとき、夫は一部上場企業に勤めており、年収は700万円。年齢は38歳と、由奈さんの理想よりも年は離れていたけれど、いい人に巡り合えたと喜んだそうです。そして夫が仕事に打ち込めるように支えたいと思ったのです。当時、まだ26歳だった由奈さんはあまりにも純粋でした。苦労を共にしてでも夫に尽くしたいと思っていたのに、わずか1年目で希望が絶望に変わったのです。

 

当時の夫はプレイングマネージャーで一人二役の状態。自分の担当エリアで成績を残しつつ、部下の成績も上げなければならず、多忙を極めていました。

そのため、帰宅するのが終電になるのは当たり前だったそうです。それでも由奈さんは温かい食事を食べて欲しい。すぐにお風呂に入れるようにしてあげたい。そんな一心でどんなに夫の帰りが遅くとも起きていたのです。筆者が「旦那さんは感謝していたんですよね」と尋ねると由奈さんは首を縦ではなく横に振ります。

 

夫はあろうことか「余計なお世話だ。お前が待っていると思うと仕事に集中できないじゃないか!」と吐き捨てたそうです。

それだけではありません。結婚当初からずっと夫は家庭を見向きもせず、家事を手伝うことは一度もなかったそうです。そのため、由奈さんがワンオペですべてを担っていたのですが、少しでも大変そうな素振りを見せると大変です。夫は鬼の首をとったように「俺は頼んだ覚えはない。家のことはお前が勝手にやっているんだろ!」と八つ当たりをしてきたのです。

さすがの由奈さんも頭にきて「手伝って欲しいなんて言ってないじゃない!」と怒ったところ、夫は「お前の気が強すぎるから、今まで何もできなかったんだ!」と畳みかけてきたのです。由奈さんは夫の身勝手すぎる言動に閉口するしかなかったそうです。

 

由奈さんが離婚の二文字が頭をよぎったのは、これが1回目です。法務省の司法統計(2020年)によると妻が離婚したい理由の38%は「性格があわない」です。それでも結婚生活を続けたのは、すでに息子さんを身ごもっており、一人の身体ではなかったからです。

 

 

子どもができれば夫は変わる、と思ったのが間違いだった

子どもの父親になれば、家庭に目が向くので、ひとの気持ちが分かるようになり、生活は穏やかになり、由奈さんに対しても優しくなるはず。そう信じていたそうです。筆者が「何か変わりましたか?」と尋ねると、由奈さんは「息子が産まれてからも、夫はそのままでした」とため息をつきます。実際には夫の言動は日に日に酷くなっていったのです。

 

例えば、由奈さんが息子さんと一緒に帰宅すると部屋中に煙草の煙が充満していたそう。もともと由奈さんは煙を吸うと咳が出たり、吐き気をもよおしたりするほど煙草を受け付けないタイプだそう。

そんな由奈さんでしたが、心配したのは自分よりも息子さんのこと。副流煙による健康への影響は大人より子どもの方が大きいので、由奈さんは結婚するにあたり「うちで吸うのをやめてほしい」と頼んていたそう。そして夫も「ああ、わかったよ」と承諾してくれたのですが、どういうことでしょうか?

 

由奈さんが「うちで吸わないって約束だったでしょ? 康太が小児がんになったらどうするのよ!」と詰め寄ると、「お前らがいるときに吸わなきゃいいんだろ!」と逆ギレ。結局、それ以降も夫は由奈さんが不在のときに家で吸っており、最初の約束はいつの間にかうやむやに。このように夫は営業職で口が達者なので、ああ言えばこう言うという感じで、由奈さんはいつもマウントを取られてしまうのです。

 

夫へのストレスで体調にも影響が!

夫の言動にキレそうなっては我慢する日々…由奈さんは特にストレスが大きいとき、視野が狭くなり、視線が定まらず、そのまま膝をついてしまうことがあったそう。そこで内科クリニックを受診したところ、下の血圧が110を超えていることが分かったのです。

 

当時はまだ32歳でしたが、高血圧と診断され、降圧剤を処方され、服用するように。「このままじゃ、死んじゃうかもしれない!」と夫との離婚を考えたのが、これが2回目でした。法務省の司法統計(2020年)によると妻が離婚したい理由の24%は「(夫が)精神的に虐待する」です。

 

このように夫は由奈さんを明らかに見下しているのですが、その根底には夫が十分な給料を稼ぐ会社員、一方の由奈さんは何の稼ぎもない専業主婦。二人の間には明らかな上下関係があったのですが、そのバランスが崩れる事態が発生したのです。

 

 

夫に落胆させられ、ついに離婚を決意させた出来事

夫は48歳で営業部長に昇進。年収は900万円まで上昇していました。しかし、夫の勤める会社は55歳になる前年に役職定年を迎えるルール。夫も54歳のタイミングで役職定年を言い渡されたのです。そのため現在の夫は、何の役職もないただの一兵卒。年収は20代後半の頃(500万円)に逆戻り。年収の半減によって危機に陥ったのは住宅ローンの返済です。

 

この夫婦の自宅は結婚10年目に6,000万円でマンションを購入。当時、夫の手取り額は毎月55万円だったので、毎月25万円の住宅ローンを返済しても家計的には問題ありませんでした。しかし、現在の手取り額は毎月35万円。毎月12万円の生活費がかかるのですが、それ以外の保険料(2万円)や携帯代(2万円)、自動車維持費(2万円)、固定資産税(4万円)などが発生するので、ついに家計は赤字に陥ったのです。

 

由奈さんはこれまでずっと毎月、夫から渡される12万円でやりくりをしていました。それ以外のお金は夫が管理していました。夫の年収が全盛期だったころ、いくら貯蓄できていたのかは把握できていません。12万円以外のお金の行方を問いただすことさえできない力関係だったため、「あなたの貯金で赤字を補填してください、なんて言えませんよ…」と嘆きます。それだけ夫に対して恐怖心を抱いてきました。

 

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