54歳、役職定年。900万あった夫の年収が半減。住宅ローン返済の危機は、夫婦の離婚危機に!【行政書士が解説】
役職定年を迎えた夫に、マンション売却を提案するも…
そのため、由奈さんは自分の貯金を食いつぶすしかなかったのですが、あと1年も持たない状態。「このままじゃ、大変なことになる」という一心で「もう限界です。(マンションを)売りに出してください」と打ち明けたのです。由奈さんが不動産屋に無料査定を頼んだところ、売却予定価格は5,500万円。住宅ローン(4,900万円)や諸費用(300万円程度)を差し引いても300万円の利益が出る計算です。
しかし、夫は由奈さんの切実な訴えに耳を貸そうとしません。「馬鹿にするな!今さら他のところに住めるかよ。俺の人生を否定する気か?」と激しく抵抗。売却する場合、しない場合のシミュレーションを少しも検討せず、感情だけで返してきたのです。
実は夫の父親は3年前に逝去。夫は父親の遺産を相続しているはずですが、相続に無関係の由奈さんが「当然、遺産をもらっている」という前提で、家計危機の話をするわけにはいきません。そこで由奈さんは「でも、いつまでも赤字ってわけにいかないんです。何とかしてください。あなたは一人息子だし、実家に頼めませんか?」と続けたのです。
しかし、ますます夫の機嫌を損ねてしまったようで「旦那の稼ぎが悪くてローンを払えないので援助してください!? そんなことは口が裂けても言えるか!」と激怒。とにかく夫はプライドが高いので、実の親にさえ弱みを見せたくないのです。しかも、両親が抱いている「いい大学、いい会社に入り、出世している息子」という印象を少しでも崩したくないのでしょう。由奈さんが「なんで?」と尋ねても「どうしてもだ!」の一点張りで埒が明かない様子でした。
追い打ちをかけるように、いじめられた息子が精神不安に
由奈さんは専業主婦です。筆者が「由奈さんが働き始め、給料を得て、赤字を穴埋めできませんか?」と投げかけると「家から出られないんです」と答えます。なぜなら、息子さんのことを付きっきりで見なければならないからです。息子さんは高校に入学すると同級生に無視されたり、仲間外れにされたり、持ち物を隠されたり…典型的ないじめに遭ったのですが、最終的には「生意気だ」と因縁をつけられ、トイレで殴る、蹴るの暴行を受けたのです。
文部科学省の統計(児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査)によると高校における不登校の生徒は2023年で68,700人(全体の2.3%)。10年前(2014年は53,156人、全体の1.5%)に比べ2割以上も増えています。
実際のところ、加害生徒の両親から謝罪をされ、医療費が支払われ、「二度としない」という誓約書を交わされたのですが、さすがに息子さんの心の傷はあまりにも大きかったようです。もともと持病を抱えていて心身ともに弱いところがあるので、いじめ事件後に勇気を出して登校しようという気にはなれなかったのです。
通っていた高校を退学し、別の高校に転校するという選択肢もありますが、途中から加わった場合、またいじめの標的にされる恐れがあります。そこで由奈さんが考えたのはホームスクーリング。これは高校には通わず、自宅に高校の教材を取り寄せ、高校で学ぶべき内容を教えることです。もちろん、勉強を教えるのは由奈さん。そして息子さんは引き続き、精神的に不安定なので、目を離せない状況だったのです。
由奈さんはやむを得ず、自分の実家に相談。母親は「由奈が困っているなら」と毎月3万円の援助を約束してくれたそうです。由奈さんの実家は決して余裕があるわけではありません。父親はすでに定年退職しており、現在はシルバー人材の仕事を受け持つ程度。会社員時代、出世したタイプではなかったので年金はごく平均的。老夫婦ふたりでつつましく暮らしています。
元はと言えば、こうなったのは夫のせいです。しかし、夫は何もしようとせず、由奈さんの両親から老後の蓄えの一部を拝借することになってしまったのです。由奈さんは「実家に対して申し訳なさすぎて、おかしくなりそうでした」と振り返ります。
なぜなら結婚後まもなく愛情が失せてしまってから、夫に求めていたのは経済力だけ。それ以外の性格や価値観、考え方など人間性の部分を求めていませんでした。それなのに経済力さえままならない状況に陥ってしまったのです。由奈さんが飛び降り未遂を起こしたのは、夫の理不尽きわまりない言動に悩まされたタイミングだったのです。二度あることは三度あるといいますが、由奈さんが離婚したいと思ったのは、これで3回目でした。
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