36歳専業主婦、二度目の離婚。前夫との子どもの分も養育費は出る? 親権と養育費をもらうために知っておきたい交渉術【行政書士が解説】
養子である娘の分も、養育費をしっかりとりたい!
次に養育費ですが、非親権者は親権者に対して毎月、決まった額の養育費を支払わなければなりません(民法766条)。どのような経緯で親権が決まったとしても、そのことに変わりはありません。筆者は前もって「『親権が欲しいのに取れなかったから養育費を払わない』という屁理屈は通用しませんよ」と助け舟を出しました。
奈々さんは結婚(再婚)するとき、現夫から「年収は650万円」だと聞かされていました。一方、奈々さんは専業主婦なので無収入です。養育費の金額を決める際、家庭裁判所が公表している養育費算定表にお互いの年収を当てはめて計算するのが一般的ですが、今回の場合は毎月13万円が妥当な金額です。
問題は娘さんの養育費をどうするのかです。娘さんと現夫は血がつながっていませんが、結婚時、養子縁組をしたので現夫にとって娘さんは養子です。法律上、父親は実子だけでなく養子に対しても扶養義務を負っているので、父親が実父でも養父でも本来、養育費を支払わなければなりません。現夫がどうしても養育費を払いたくないのなら、娘さんと離縁しなければなりません。
しかし、未成年の子どもが離縁するには養親(現夫)だけでなく、実親(奈々さん)の承諾が必要です。奈々さんは「あの人は娘に対して散々、酷いことをしてきました。せめて養育費ぐらい払わせないと気がおさまりませんよ!」と言い、養育費のために離縁しないことを決めたのです。
しかし、現夫は「勇也の養育費なら喜んで払うよ。でも奈緒はダメだ。俺は奈緒の将来なんて心配していないし、奈緒のために払う金なんてないからな!」と断固拒否したのです。もし、奈々さんが家庭裁判所に養育費の調停を申し立てた場合、現夫は娘さんの養父だということ、毎月13万円は算定表の数字だということを理由に、調停委員は奈々さんの味方をしてくれるでしょう。
現夫は市役所の水道局に勤める地方公務員。調停になった場合、1,2ヵ月に1回は裁判所に出頭しなければなりませんが、日時は平日の昼間です。職員課に「妻に訴えられたので裁判所に行かなければならない」と申請した場合、どうなるでしょうか?ただでさえ離婚することは世間体が悪いと感じている現夫が、妻と揉めに揉めて泥沼化していると思われたら、面目は丸つぶれです。そこで奈々さんが「裁判所を通さず、示談で穏便に解決したいなら」と投げかけると、現夫は娘さんの分を含んだ毎月13万円の養育費を支払うことを最終的に約束してくれたのです。
ここまで奈々さんが娘さんを守るため、離婚を決意し、親権と養育費を獲得するまでの悪戦苦闘を見てきました。どんな交渉事も登場人物が増えれば増えるほど事態は複雑化し、難易度が上がります。奈々さんの場合、初婚のときは前夫を説得するまでもなく、娘さんの親権者になり、離婚することができました。
しかし、再婚のときは現夫に息子さんの親権を放棄させること、そして娘さんの養育費を払わせることに多大な苦労をしました。基本的に1回目より2回目の離婚の方が難しいです。しかし、もし2回目の方が有利だとしたら、それは場慣れです。一度は離婚している奈々さんと、一度も離婚していない現夫。離婚の経験値が高いのは奈々さんの方です。
そのため、現夫は「ふざけるな!」「嫌だ!」「払いたくない!」と幼稚な言い訳を続けたのですが、奈々さんは何のために交渉に臨むのかを整理した上で離婚、親権、養育費に無関係な内容を削り、なるべく現夫を刺激しないように感情的な言葉を避けるように努めました。お互いが感情的になり、相手の悪口を言い合うのが離婚交渉の負けパターンです。どうしても複数回、離婚しなければならないのなら、過去の離婚の反省を生かせると言う意味で、あなたの方が上だと自信をもってください。
<出典>
厚生労働省の人口動態統計(2023年)⇒再婚率
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411838
厚生労働省の人口動態統計(2023年)⇒親権
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411869
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