「パパとママ、仲悪いの?」7歳のひと言で我に返った。夫婦のスキンシップ以前に止まっていたもの
「レスの相談です」と言われると、多くの人は寝室の話を想像します。
しかし実際には、寝室の前に止まっているものがあります。会話、段取り、疲労の分担、安心感。触れ合いは”最後に残る”こともあれば、”最後に消える”こともあります。本記事では、その「寝室の前」で何が起きていたのかを、夫側の視点から追います。
今回の取材相手は、タカシさん(仮名・40代)。奥さま(同年代)と娘さん(7歳)の3人暮らし。首都圏のマンション住まいで共働きです。タカシさんは営業職で、朝は7時台に家を出て、帰宅は早くて20時台、遅いと22時を回ります。奥さまは時短勤務ですが、現実には「家の段取り」を担う時間が長く、平日は夕方以降が特に忙しいといいます。
家事分担は「手を動かす作業」はタカシさんもやっています。食器洗い、ゴミ出し、風呂掃除、休日の買い出し、娘さんと遊ぶ時間。一方で、奥さまが担っているのは「考える作業」です。明日の持ち物の確認、連絡帳のチェック、学校や学童の予定把握、夕飯の献立決定、洗濯の段取り、体調変化への対応。これらは目に見えにくく、言葉にしないと共有されません。
タカシさんは、こう話し始めました。
「僕なりにやっているのに、妻のイライラが減らないんです。どこで地雷を踏んでいるのか、正直わからなくなっていました」
ここからが、今回の核心です。夫婦の衝突は「大きな事件」ではなく、「小さなズレの継続」で起きます。そして、ズレが続くと、最後にスキンシップへの問題へとつながることが多いのです。
※写真はイメージです
【無子社会を考える#32】
「おかえりハグ」が地雷になった夜
最初に夫婦の亀裂が決定的になった出来事を、タカシさんは静かに語りだしました。
「帰って『ただいま』って言って、妻がキッチンにいました。娘はテレビを見ていて。僕は妻が疲れているように見えたので、「お疲れさま」のつもりで後ろから軽くハグしたんです。そうしたら、『やめてって何度も言ったよね!』って妻が怒鳴りました。そのとき、僕、固まってしまったんですよね。頭の中が空白になって、何を言っていいかわからなかったです」
以前から「やめて」と言われていたのかをタカシさんに尋ねると、「はい。帰宅直後はやめてって。夕飯の段取りとか、宿題の声かけとか、連絡帳とか、頭がいっぱいだから、触れられると集中が切れるって言われてました」とうなだれます。
タカシさんの発言通り、「言われていたのに、やってしまった」――この一点だけ見ると、夫側の落ち度のような印象を持ちます。ただ、ここで話を終えると、現実の夫婦関係の難しさが抜け落ちます。夫婦は、正解を知っていればうまくいくわけではありません。「頭ではわかっているが、体が追いつかない」状態が起きます。なぜなら、家庭の中で触れ合いが「愛情の確認」になっている場合、触れないことは「拒否」に感じられるからです。
タカシさんはさらに語り続けます。
「僕は愛情表現のつもりでした。妻を大事にしたいし、労いたい。でも、その瞬間から僕の行動が勝手なことに変わった感じがしました。そんなに悪いことしたのかって混乱しました。僕は助けたいだったけど、妻にしてみれば邪魔だったんだと思います」
夫婦の接触は、意図だけでは成立しません。「触れる側の意味」と「触れられる側の意味」が違うと、同じ行動でも真逆の結果になります。ここで重要なのは、ハグの是非だけではありません。夫婦のコミュニケーションをどこかで掛け違えていた可能性が高いからです。
翌朝、夫婦の会話が「必要なことしか言わない」状態になった
翌朝、雑談のような夫婦の会話が消えたのです。
「妻は『おはよう』だけ言って、それ以外はほとんど話さなかったです。朝食も娘の支度も淡々と。僕も何か言うとまた怒られそうで、黙りました」
沈黙することで事態が収まることもありますが、夫婦では「黙り」が別の意味を持つことがあります。片方は「これ以上こじらせたくない」から黙る。もう片方は「説明しても伝わらない」から黙る。理由が違うと、沈黙がやがて “溝” になります。
この状態が続くと、家庭の会話が「必要な連絡」だけになります。「何時に迎えに行く」「明日は体操服」「ゴミの日」――正しい情報は交換される。でも、相手の気持ちは交換されないので、雑談が消える。すると、何気ない笑いが減り、触れ合いはさらに難しくなります。この触れ合いは、会話と同じく「余白」が必要だからです。
「リビングで寝て」――拒絶に見えた一言
ある晩、タカシさんが寝室に入ろうとしたとき、奥さまは「今日は、リビングのソファで寝てほしい」と静かに言ったそうです。
そのときの衝撃をタカシさんは振り返ります。
「声が静かだったので、余計にきつかったです。怒鳴られるより『もう決定』みたいで。追い出された感じでした。家に自分の居場所が完全になくなった感じです。家族の中にいるのに、外に出されたみたいな。ソファに寝転んでもうまく眠れなかったです」
寝室から出ることは、身体的にはただ場所が変わるだけです。しかし心理的には「同じ空間にいていい」という感覚が揺らぎます。夫婦のスキンシップは、この「同じ空間にいていい」が土台だとしたなら、その前提が揺らぐと、触れ合いは難しくなります。
子どもの一言で、問題の大きさが変わった
翌朝、娘さんがタカシさんにこう聞いたそうです。
「パパ、なんでソファで寝てたの?パパとママ、仲悪いの?」
このとき、タカシさんはとっさに「仕事で疲れてただけ」と返事をしたそうです。でも娘さんは納得してない顔だったといいます。
「たぶん、雰囲気でわかってたんですよね。そのとき、僕は心の底から『まずい』と思いました。夫婦の問題が、娘の安心まで揺らしてる。そこがいちばん堪えました」
子どもは驚くほど「変化」に気付きます。昨日までの当たり前が崩れると不安になります。夫婦の事情が理解できなくても、空気の変化は感じるはずです。ここでタカシさんの意識は、「妻に許してもらう」から「家の安心を戻す」に変わったそうです。この切り替えが起きると、修復は少し現実的になります。なぜなら、目的が「夫婦の問題」だけではなく「家庭の安心を作ること」に変わるからです。
>>「触る・触らない」の二択では解決しない
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