36歳専業主婦、二度目の離婚。前夫との子どもの分も養育費は出る? 親権と養育費をもらうために知っておきたい交渉術【行政書士が解説】

今回の相談者・塩屋奈々(36歳、専業主婦)が再婚したのは4年前。1回目の結婚では長女を授かったのですが、いかんせん前夫が浮気性。別の女にのめり込み、家に帰ってこなくなり、そのまま離婚。長女の養育費を取り決める余裕はありませんでした。

 

2回目の結婚は失敗したくない!そんな一心で現夫と暮らしていたのですが、長男が生まれると現夫の態度が一変。「似ていないから」という理由で長女をいじめ始めたのです。次第に長女の様子がおかしくなり、すでに9歳なのにオネショをするほど情緒が不安定に。奈々さんもついに離婚を決断。長男ばかりをかわいがる現夫をどのように説得し、離婚の同意をとり、子どもの親権をあきらめさせ、養育費を払わせれば良いのでしょうか?

 

◀関連記事「「勝手にトイレ入るな!」と連れ子をいじめる偏愛夫(38歳・公務員)。再婚→また離婚…夫の「仕事上の弱み」を把握すれば、実子の親権も養育費も得られる!?」は、浮気ばかりの前夫と離婚したのち、再婚で穏やかな暮らしを手に入れたと思っていたのに、第二子誕生によって一変したという奈々さんのお話です。

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<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は離婚時)>

現夫:塩屋勇気(38歳)地方公務員(年収650万円)
妻:塩屋奈々(36歳)専業主婦  ☆今回の相談者
長女:塩屋奈緒(9歳)奈々と幹人との子
長男:塩屋勇也(3歳)奈々と勇気との子
前夫:川田幹人(41歳)とび職(年収500万円)

【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #16】後編

 

 

離婚したい理由を夫にぶつけると…

奈々さんは前もって現夫に「大事な話があります」と伝え、子どもたちが寝静まったのを見計らって、リビングのテーブルで顔を突き合わせたのです。奈々さんは「私は何より奈緒、勇也のことを第一に考えています。二人を育てていくのにあなたという存在がいたほうがいいに決まっています。本当なら『離婚』という言葉を使いたいわけではありません。」と前置きした上で「奈緒の今後を考えたとき、どうしてもあなたに父親を任せるわけにはいかない。今、彼女の我慢の上に結婚生活が成り立っています。これ以上、奈緒に我慢させるわけにはいきません。あなたが態度を改めない限り、離婚もやむなしと考えています」と投げかけたのです。

 

このように奈々さんは切実に訴えたのですが、現夫は「分かるには分かった。でも、離婚しないと言ったら?」と他人事のように返してきたのです。そこで奈々さんは「前みたいに奈緒のことを自分の子どものように可愛がってくれたら(離婚しなくてもいい)」と逃げ道を用意したのですが、現夫は「それは無理だな!」と一蹴。

 

続けて「かわいいと思えない子をかわいがるなんて無理だと」と言い放ったのです。奈々さんは「まだ勇也が生まれていない頃は、かわいがってくれたじゃない?!」と諭したのですが、現夫は「あのときはお前に気に入られたくて必死だったんだ」と前置きした上で「勇也が生まれてから分かったんだ。やっぱり俺の子どもじゃないのに、かわいがるなんて出来ないって…それが俺の偽らざる本音だ!」と言い捨てたのです。

 

奈々さんは思わず「ひどい!言っていいことと悪いことがあるんじゃないの?」と感情をむき出しにしてしまったのですが、現夫は「だから離婚でいいって言っているだろ!」と観念。ようやく離婚の同意を引き出すことができたのですが、次に決めなければならないのは子どもをどちらが引き取るのか…親権です。

 

 

二人の親権がほしい妻、息子の親権だけほしい夫

離婚届には奈々さんと現夫、どちらが親権を持つのかを記入しなければ受理されません(民法819条)。奈々さんは当然、自分が娘さん、息子さんを引き取るつもりでいましたが、現夫はそう思っていないようで…「奈緒はお前で異論はないよ。でも勇也は別だ。勇也はうちの跡取りだし、渡すわけにはいかないよ。一人ずつ分け合えば公平じゃないか」と言い出したのです。

 

厚生労働省の人口動態統計(2023年)によると未成年の子ども(二人)がいる場合、母親が二人の子どもの親権を持つ割合は全体(34,291組)の86%(29,404組)。一方、父親が二人の子どもの親権を持つ割合は10%(3,484組)に過ぎません。統計上から奈々さんの方が圧倒的に有利であり、もし親権について争っても現夫には勝ち目はほとんどないにも関わらずです。どうすれば現夫に親権を断念させることができるでしょうか?

 

奈々さんは跡取りの可否、環境の変化、育児の能力という3点に絞って話を進めました。まず第一の跡取りの可否です。未成年の子どもは必ずしも親権者の戸籍に入るというわけではありません。非親権者の戸籍に入ることも可能です。具体的には現夫が親権を断念したとしても、息子さんは現夫の戸籍に入り、同じ姓を名乗ることが可能です。どういうことでしょうか?

 

現在、奈々さん、娘さん、息子さんの3名は現夫の戸籍に入っています。奈々さんは離婚と同時に新戸籍に移ります。一方、子どもたちはどうでしょうか?筆者は「奈々さんが長男の親権を持ったとしても、奈々さんが何もしなければ、長男は現夫の戸籍に残りますよ」とアドバイス。

 

そのことを踏まえた上で奈々さんは「私が親権を持っても、あなた(現夫)の戸籍に残すことを約束するわ。勇也はこれからも塩屋姓を名乗り続けるんだから、跡取りでしょ?」と提案したのです。そうすると現夫は「分かった、分かったよ。でも奈緒に塩屋姓を名乗らせるつもりはないから排除してくれ!」と了解したのです。

 

 

子どもの環境と親権の関係

次に第二の環境の変化です。離婚するかどうかを決めるのは父親と母親です。子どもではありません。筆者は「両親の離婚による子どもへの影響を完全になくすことはできませんが、できるだけ最小限にとどめるのが親の努めでしょう」と助言しました。

 

今回の場合、家事や育児、看病等は専業主婦の奈々さんがすべて担ってきました。仮に現夫が親権を持った場合、現夫が育児を担います。奈々さんは「あなたが勇也のお世話をした場合、勇也は動揺するに決まっています!」と指摘したのです。

そして「離婚しても勇也の環境を変えないのが勇也のためだと分かってください」と、自分が親権を持つことの正当性を強調したのですが、過去のこと(出生から現在まで奈々さんが育児をすべて行ってきたこと)を否定しようがないので、現夫も「まぁ、それはそうだが」とうなずくしかなかったようです。

 

 

そして第三は育児の能力です。もし現夫が親権を持った場合、息子さんをどうするのか…現夫は今までほとんど家事や育児をしたことがない亭主関白。「俺が全部やる!」と豪語するのですが、奈々さんは「そんなのは信用できません!」と反論。それでも現夫は「実家に頼めば何とか…」と食い下がるのですが、母親は椎間板ヘルニアの持病を抱えているそう。一方の父親は昨年、肺がんと診断され、現在、抗がん剤の治療中。はしゃぎたい盛りの三歳児の相手をするのは無理です。

奈々さんが「それじゃ、勇也を育てられないじゃん」と切り捨てると、現夫は「何かあったら言えよな。いつでも飛んでいくから」と捨て台詞を吐き、ついに親権をあきらめさせることに成功したそうです。

 

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