ズブズブとはまった不倫の沼、「やめられない」40代独女の苦しみ【不倫の精算#14前編】
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
【不倫の精算#14前編】
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珍しく遅刻してきたA子、その「かすかな異変」
その日、私との待ち合わせにA子(37歳)は珍しく15分ほど遅れてやってきた。
普段から遅刻することなど滅多にないので、何かあったのかとスマホを取り上げたとき
「遅れてごめん!」
と覚えのある声が聞こえ、急ぎ足でこちらの席に向かってくる姿が見えた。
「連絡できればよかったのだけど、運転中で。待たせてごめんね」
と何度も謝るA子だったが、顔に覇気がない。着ている服にもいつもの華やかさがないことが気になった。
「どうかしたの?」
「準備をしているときに、彼から電話があったの。少しだけと思っていたのだけど、話し込んでしまって……」
A子は目の前に置かれた水のコップを取り上げると口をつけた。
相手の既婚男性は「大事な顧客」として現れた
その「彼」とはこの半年ほど不倫関係にある既婚の男性で、彼女にとっては顧客の立場だった。
営業職の彼女にとって、彼は複数の案件で契約をしてくれている「太い客」であり、どんなときでも着信があれば出ないわけにはいかないことは想像がつく。
これから友人と会う約束があってもそれを口にして話を切り上げることはできず、通話が終わってから慌てて身支度を整えたのだろうなと思った。
「大変だね」
そう言うと、A子は困ったような笑顔を浮かべた。
「まあ、お客さまだからね……」
小さな声で返す様子からはやはり疲れが見える。A子は注文を受けて去っていく店員さんの背中に目をやりながら
「契約を更新するときまでの辛抱かな」
と誰に向けるでもなくつぶやいた。
仕事とは関係なく不倫関係になったと言うが
「彼と不倫関係になったのは、契約が理由ではないの」
半年前、A子はずっとこの言葉を繰り返していた。
長い年月続けている今の仕事は、楽ではないがいい成果を出し続けている。この仕事が好きだからこそモチベーションを保てるのだと以前から聞いていた。
彼とは最初から営業担当者とその顧客というつながりだったが、契約してもらうためにカラダを差し出したのではなく、関係がおかしくなったのはむしろそのあと、契約の確認について何度も会う機会を得てからのことだった。
仕事に直接関わる相手と不倫関係になるのは、第三者から見れば自分の利益が目的だろうと思われることも多い。それをA子は気にしていた。
だったら寝なければいいのに。そう思っても“既成事実“の後では何の意味もない。
そう思いながらA子が必死に自己弁護する様子に耳を傾けていたが、
「もう契約した後だから、むげに断ることもできないの」
と、最後に続けるA子の言葉は、だんだんと小さくなっていった。
強引なオトコの段取り、うかつなオンナの弱腰
ホテルに行くきっかけを作ったのは彼のほう。「どうしてもこの時間にしか会えない」と言われ週末の夜9時からファミリーレストランで待ち合わせたが、いざ行ってみると彼が「一方的に」お店を変更し、居酒屋に連れていかれた。
仕事中だからお酒は飲まないと杯を勧めてくる彼に何度も説明したが、
「僕との契約はもう大丈夫なんだから、ラクにしなよ。飲んだことなんてあなたの会社にも言わないし、無礼講でいこう」
と勝手にビールを注文されてしまった。
「契約」「会社」という言葉に反応した彼女は「ここで断ったら機嫌を悪くされるかもと怖くなり」、口をつけてしまった。
「それから止まらなくなって何杯も飲んでしまった」と話す彼女は、酔った頭のまま彼とタクシーに乗り、気がつけばホテルのベッドに横になっていたそうだ。
「大丈夫」
というのが彼の口ぐせらしく、耳元で何度も繰り返されるうちにA子自身も「大丈夫なんだ」となり、身を任せてしまった。
「だから、私から誘ったわけじゃないの」
「彼とはそういう関係って割り切っているの」
彼の話になると、A子はこう付け加えるのだった。
だが、この関係を利用しているのはどちらか
一度そうなったとはいえ、次からはさすがに断ることができるのではないか。
できないのなら、相手が契約を逆手にとって関係を迫っているように見える。
以前そう告げたとき、A子は黙った。
知っている。彼に強く出ることができないのは、契約のせいだけではない。
A子自身、彼のことは以前から気になっており、熱心に自分のプランを勧めていたのだ。
「営業担当者とその顧客」という状況なら会う理由が作れるし、人から後ろ指をさされることもない。
既婚者であっても関係なく、自分はあくまでも仕事として彼に近づくことができる。
「片想い的というか、ちょっとアプローチしていたかも」
とA子は振り返る。
「寝たいと思っていたってこと?」
と尋ねると、「まさか、そこまでは」と大きく頭を振って否定するが、それでもこうなることを想像していなかったとは言えない。
オトコもオンナも、その下心をしたたかに利用した
契約のためであっても、
「彼のために遅い時間や休日でも待ち合わせる」
「夜の11時に着信があっても必ず出る」
「お礼ですと言い訳してささやかなプレゼントを渡す」
「奥さんのことは絶対に話題にしない」
こんなことをしていれば、彼のほうが下心を持ったときにかわすのは難しくなる。
自分の要求に答えるA子を見て彼はその夜を「お膳立て」したのかもしれない。
覚悟もない状態でそれを突きつけられ受け入れてしまえば、そこから距離をとるのは「仕事上でも厳しい」のは、A子自身がよくわかっているはずだ。
情熱を向けていると気取られたらどうなるか、A子は想像しないまま、いつの間にか彼の作る流れに乗っていたのだ。
「一度くらいなら、いいかなって……」
これが、後になって自分を振り返ったときに漏れた、A子の本音である。
結局、お互いにつながりを利用して下心を育てていたことに嘘はつけない。
だからその後も「抵抗はあったけれど」不倫関係を捨てられず、A子は“新しい立場”になった自分を感じていた。
A子の新しい立場とは? >>>後編に続く
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