「モテる私が羨ましいんでしょ?」壮大な勘違いの末路は【不倫の精算#15前編】
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
【不倫の精算#15前編】
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突然帰宅する夫。「現場」を押さえられる恐怖
Bさん(42歳)からの電話はたいてい昼間と決まっていたが、その日は珍しく夜にかかってきた。スマートフォンの表示を見たときに何となく胸騒ぎを覚えた。
「もしもし。
どうかしたの?」
第一声からそう尋ねると、それに被せるようにBさんの声が響いた。
「ねぇ、やっぱりあの人の様子がおかしいの。
今夜は残業って言っていたのに、いつも通りの時間に帰ってきたのよ。
インターフォンを鳴らさず自分で鍵を開けて入ってきて、まるで驚かせようとするみたいに……」
押し殺した声で話すBさん。明らかに怯えているのがわかる。
「うん、急に予定を変えてきたらびっくりするもんね。
いまどこで話しているの? 電話は大丈夫なの?」
ひとまず落ち着かせようと、ゆっくり声をかけた。すると、衣擦れのような音のあと
「今は寝室。あの人は娘とお風呂に入っているところ」
と、Bさんは息を吐いた。
「気づかれた」ことに気づいてしまった不倫妻
この一ヶ月ほど、Bさんの夫は第三者から見ても「妻の素行をあやしんでいる」ことがわかる。普段とは違う言動が目立っている。
今夜のように、あらかじめ伝えていた予定どおりではなく不意に帰宅したり、午前中突然Bさんに電話をかけてきたり、また家計簿について質問してきたりと、妻の“何か“を探っていることは聞いているだけでわかった。
最初は戸惑っていたBさんだったが、夫の思惑が
「自分の不倫に気がついて、その証拠をつかもうとしているのでは」
と思い至ったとき、“全身に冷たい水を浴びたような恐怖”が襲ったそうだ。
自分はどこでしくじったのか、夫が何を知ったのかはわからない。当然尋ねられることでもない。
それがさらにBさんを追い詰め、不倫相手の男性と会えるような状態ではなくなり、夫の振る舞いに怯えながら過ごす日々になっていた。
「ねぇ、怖いよ。
あの人、何を考えているの……」
Bさんの浅い呼吸と絞り出すような声。不倫相手と一緒にいたときの自分を後悔している様子が手にとるように伝わった。
こんな関係になるつもりはなかった。でも気づいてしまった
Bさんと不倫相手の男性が知り合ったのは、友人が経営する小さなバーだった。
一人娘を夫に任せ、月に数回週末の夜をここでのんびり過ごすのがBさんの息抜きであり、それは夫も了承していたという。
不倫相手の彼は友人の男友達がお店に連れてきたひとりで、カウンターで飲んでいたBさんが彼のいるボックス席に移り、みんなで盛り上がること数回、自然と親しくなった。
LINEのIDを交換する頃にはお互いの身元を明かし、Bさんが既婚者ということ、彼はバツイチで子供はおらず、気ままなひとり暮らしをしていることがわかっていた。
「最初からこんな関係になるつもりはなかったのよ。
ただ、この人といると本当に楽しくて、夫とは全然違うんだなって、それが新鮮で……」
彼と出会ってから、Bさんは「夫への物足りなさをはっきり自覚した」と話す。
結婚して12年、やっと授かった一人娘を大切にしてくれるのはうれしいが、自分のことを妻ではなく母親として見るようになった夫に、Bさんは不満を抱えていた。
娘が産まれてから夫と母娘で別々の寝室になり、スキンシップの機会が減ったことも、Bさんの物足りなさを加速させる。
女を忘れていないBさんの様子を見ても夫は無関心で、「今後のために」と仕事に没頭する。残業も増える一方で、Bさんは娘とふたりだけの暮らしに閉塞感が増していった。
帰宅後はすぐに娘とお風呂に入り、少しでも会話しようとする夫は完全に父親であって、Bさんは母親のポジションから動けないまま、取り残された「女である自分」がくすぶり続けていた。
そんなBさんの数時間の息抜きを夫は快諾したが、まさかここで別の男性との出会いがあるとは、Bさん自身「そこまでは考えていなかった」そうだ。
「彼といると、妻でも母親でもない、女としての自分を思い出すの」
彼と過ごす時間についてBさんはそう話すが、物足りなさを埋めるものが見つかった高揚感は、別の欲を引き出すことになった。
「注目される私は、羨望されている」という勘違い
Bさんの友人が経営するバーは、こじんまりと落ち着いた空間。バックに流れる古い映画音楽がよく合い、静かに過ごしたい男女に選ばれていた。
ウェイトレスの女性が一人だけいたが、人が少ないときは友人やこの女性とおしゃべりするのが彼と出会う前のBさんの過ごし方だった。
彼と仲良くなり、お店で待ち合わせをするようになってからは、カウンターに並んで座りあれこれと盛り上がるのが、Bさんにとって大きな楽しみになった。
グループで来た客が背後で盛り上がっていると、声が聞こえないので額を寄せるようにして話したり、たまに耳元で冗談を言い合ったり、そんな触れ合いがBさんの心を揺らす。
暗い照明の下では体を寄せることも不自然ではなく、
「いつの間にか、彼とベタベタする雰囲気が好きになってしまって」
と、Bさんは彼との距離の近さを受け入れていった。
ふたりの仲が決定的に変わったのは、ささいなことで夫とケンカになった日のこと。イライラを抱えたままのBさんを見て、彼がゆっくりと話を聞いてくれた。
「あなたはまだまだ素敵な人だから、自信を持って」
とカウンターの下で手を握りあったときだった、という。
それから体の関係を持つまで時間はかからず、一線を超えてからはホテルのあとで友人のお店に寄るようになった。
「生まれ変わったというか、心が浮き上がって力が湧いていたのね。
私はまだまだ大丈夫なんだ、って彼といると思えて、何をするのも新鮮だった」
とBさんは振り返るが、お店では以前にも増して彼とベタベタするようになり、それは“愛されている自分”に浸る貴重な時間だったのかもしれない。
体が結ばれた男女特有の濃密な空気に友人が気付かないはずがなく、ある日トイレに立ったBさんは呼び止められ、
「ねえちょっと、大丈夫なの?」
と息を潜めて尋ねられたそうだ。
そのときのことをBさんは、
「目立っているから気をつけて、と言われたの。
でも、友人に感づかれたことより、人目を引いているんだってことに気がいってしまって」
と振り返る。舞い上がっていたせいで、“忠告”が別の意識を引っ張り出すきっかけになったのだ。
はたから見れば、仲良しカップルの私たち。
彼のためにメイクをして、デートにふさわしい服を着て、いい雰囲気のバーで肩を寄せ合って、幸せそうに見えるはず。
いいでしょ、羨ましいでしょう。
「注目」は「羨望」のあらわれなのだと、Bさんは大きな勘違いをしていた。
Bさんを見舞う末路とは >>>後編に続く
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