恋には積極的なはずだった。でも、18歳の年の差に、足がすくんで動けない【40代のダメ恋図鑑#5】後編

2022.10.11 LOVE

40代。未婚でもバツイチでも、「独身」を楽しみたいと思いながら恋愛でつまずいてしまう女性たちは、どこで間違えるのか。

アラフォーの女性たちが経験する「恋の迷路」をお伝えします。

▶前編記事あなたまだハタチでしょ?こんなおばさんに惚れるなんて、どうかしちゃったんじゃない?【40代のダメ恋図鑑#5】前編に続く後編です。

【40代のダメ恋図鑑#5】後編

彼がもし本気だったら、そのとき私は…

Eさんと会ったその日は天気が良く、外のテラス席だと暑いかもと思ったが彼女がそこを指定した。

 

その理由が「周りの人に話を聞かれたくないから」とわかり、その聞かれたくない話の内容は、実際に気恥ずかしさを覚えるものだった。

 

「ねえ、彼、本気じゃないよね?

これって、好きとかじゃなくてただの憧れだよね?

年上の女性がかっこよく見えるみたいな」

 

こんな言葉を38歳になって吐くなど、彼女は予想もしていなかっただろう。

 

自分が異性に好意を向けることはためらわないのに、好意を向けられる側になると途端に否定に走るのだ。

 

「それはわからないよ、こっちが決めつけることじゃないよ」

 

冷静に返すと、怯えたように視線を揺らす姿が不安定さを伝えてきた。

 

「だって……。

38だよって私、ちゃんと伝えたんだけど……」

 

「実際の年齢を聞いても引かなかったんでしょ?」

 

「憧れだから引かないんじゃないの?

20歳の男が40に近い女を好きになるわけないじゃない」

 

Eさんとの会話はずっと平行線だった。

 

「早く会いたいです」と真正面から送ってくる20歳の男性の気持ちを「憧れ」で片付けたいのは、

 

「もし彼が本気だったら、どう応えればいいかわからないんでしょ」

 

というこちらの言葉に黙り込んだ様子で図星だとわかった。

 

18歳年下の彼を拒絶することができない理由

Eさんは本当に悩んでいるのだなとわかるのは、向けられているのが恋愛感情であれ憧れであれ、男性を拒絶する気はないのが伝わるからだった。

 

どんな気持ちであっても、要らないと思えば断れば済む。

それができないのは、「惚れやすくて」と自覚のあるEさんは、「要らない」と示されることがどれほどつらいかもまた、経験して知っているからだ。

 

20歳の男性にその傷を負わせる人間になることが、恐ろしいのだろうなと思った。

 

彼の気持ちを否定はするが、LINEでのやり取りはやめないしお店に足を向けることも続けている、それが彼女が見せる誠実さでもあった。

 

「人によっては、そんな若い男に好かれて舞い上がることも多いと思うけどね」

 

首をかしげてそう言うと、

 

「何言ってるの。

苦しいわよ、付き合うなんて到底考えられないんだから、こっちは」

 

と厳しい口調の言葉が飛んできた。

 

だが。

 

「それならもう、ごめんなさいって言うしかないじゃないの」

 

「それは……」

 

Eさんは言葉を飲み込む。

 

「憧れなら適当に相手しておけばいつか飽きるだろうって思っているかもしれないけど、そうならなかったら、あなたはどうするの?」

 

その気になれないという自分のスタンスを見せるのも、誠意じゃないの?

 

「……」

 

自分の振る舞いの矛盾に、Eさんは気づいていた。

 

彼は「いい子」。無下にすることはできなくて

「憧れか本当に好きかなんて悩んでも不毛だよ、そんなの本人にしかわからないんだから。

それより、あなたはどうしたいのか、それを向こうは知りたいんじゃないの」

 

そう言うと、Eさんは目をそらした。

 

先ほどちらりと見せてくれたトーク画面にあった、「迷惑ならいつでも言ってくださいね」「返信ありがとうございます」という男性のメッセージは、紛れもなく本心だろう。

 

自分の存在が相手にどう受け止められるか、ちゃんと想像するからこんな言葉が出る。

客であるEさんに自分から連絡先を渡す、その言動の図々しさをわかっていて、応えてくれた彼女への感謝を忘れず、彼女の気持ちしだいでいつでも身を引く覚悟もまた見せていた。

 

「迷惑ならやめる」がポーズではないと思うのは、Eさんが返信を送れないときでも急かしたり次のメッセージを送ったりするのではなく、ひたすら待っているからだ。

彼は、Eさんのペースを尊重していた。

 

積極的ではあるがわきまえてもいる。

その気持ちを憧れか恋愛感情かなどこちらで決めつけるのは、意味がない。

 

「相手の状態がどうかじゃなくて、あなたはどうしたいのかが大事だと思うよ。

それを考えないとね」

 

「うん……」

 

相手の気持ちはコントロールできない。

それは、「私は惚れやすくて」と口にするEさんだからこそよくわかるはずだった。

 

誰かを好きになったとき、自分の気持ちをあれこれ推察されていい気がするはずはなく、それより知りたいのは相手の本心のはずだ。

 

そこから逃げても、相手との関わりを切らない限り、向けられる好意のプレッシャーは続くのだ。

 

一歩踏み出してみる。その道がどこにつづくかは分からないけれど

「……まだよくわからないから、この人とやり取りは続けてみる」

 

小さな声でEさんが言った。

 

「うん」

 

「好きになれなかったら、私のほうから言ったほうがいいのかな?」

 

「言わないといけないときが来たらね」

 

「たとえば?」

 

「告白されたけど無理だなと思ったときとか、一方的に彼女扱いされて嫌だったときとか」

 

「ああ……うん」

 

それらは、Eさん自身がこれまで「する側」として相手に見せられた拒絶であり、つらくても自分の気持ちに嘘がつけなくなる瞬間が必ず訪れることも、よく知っているはずだった。

 

「あなたの場合は、好かれる自分をちゃんと受け止めることからかもね」

 

底の見えてきたアイスカフェオレのグラスを持ち上げると、ぼんやりとテーブルを見つめるEさんの瞳には、最初とは違う光が宿っていた。

 

▶【この記事の前編】『あなたまだハタチでしょ?こんなおばさんに惚れるなんて、どうかしちゃったんじゃない?【40代のダメ恋図鑑#5】前編

 

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