コロナの影響で「帯状疱疹が流行している」って本当?58歳女性の体験談と免疫学者の見解は

新型コロナ感染症の影響で、感染症をはじめとする各種疾病の発生状況に変化が起きています。

 

現在3年ぶりにインフルエンザが流行しているのはご存じの通りですが、たとえば子どもの間では21年にRSウイルスの変則的な流行が起きました。

 

そして、ここしばらくで急激に名前を聞くようになった病気が「帯状疱疹」です。帯状疱疹とは、過去水ぼうそう(水痘)に感染している場合、その後体内に潜伏する水ぼうそうのウイルスが引き起こす病気。つまり、水ぼうそうの罹患歴を持つ人ほぼすべてにリスクがあると考えられます。

 

まず、このクリスマスに罹患した女性の実例からご紹介しましょう。

 

帯状疱疹を発症した58歳女性「激痛で眠れない」

チトセさん(58歳)は22年のクリスマスに「帯状疱疹」を発症しました。

 

「12月24日の夜に背中の右側中央あたりが体の奥からズキズキと痛み、眠れなくなりました。27日になって、右の背中にぽつぽつ疱疹が出て、それが広がりました。帯状疱疹経験者の夫がそれを見て『たぶん帯状疱疹だからすぐ病院に行ったほうがいい』と教えてくれました。28日に急いで皮膚科を受診したところ、やっぱり帯状疱疹だと診断されました」

 

疱疹は右のお腹にもぽつんと現れてから広がり、やがて右の脇腹を通って帯状に背中とつながったそう。チトセさんは1月3日までの10日間に渡って夜も眠れない激痛に苦しみました。

 

「ウイルスを抑える薬を1週間飲んで、その後は鎮痛剤に切り替えましたが、1月3日になってやっと峠を越えたかなと感じるくらいのロングランでした。本当に痛くて痛くて、辛かった……」

 

どうして健康にとりわけ気を使った今年に限ってこんな病気にかかってしまったんだろう? チトセさんはある疑いを持ったそうです。

 

「私はこの帯状疱疹が新型コロナワクチンと関連してるんじゃないかと思えてならなくて。過去すべて早めに接種してきて、4回目も8月には打ちました。どうしても気になって、笑われたり怒られたりするかな?と思いながらも恐る恐るドクターに『この帯状疱疹ってコロナワクチンに関係ありますか?』と聞いてみたのですが、なんとあっさり『ありますよ』と言われたんです」

 

医師は「免疫を下げてしまいますからね」と続けたそうです。

 

「それが根拠のあることなのか、ドクターが私の不安をくみ取って何気なく話を合わせてくれたのかはわからないのですが……。これから5回目の新型コロナワクチン接種の案内がくると思いますが、正直打つかどうか迷っています。どう考えたらいいのでしょう?」

そこで、免疫の専門家にお話を伺ったところ、意外な事実が判明

そこで、オトナサローネでおなじみの医師・新見正則先生にチトセさんの疑問を伺いました。新見先生は外科、免疫学、漢方の3分野を専門とするトリプルメジャー医です。

 

「帯状疱疹は、水ぼうそうのウイルスが原因で起こります。水ぼうそうが治った後も、ウイルスは体内(神経節)に潜伏していて、過労やストレス、加齢やその他の事情で免疫力が低下すると、ウイルスが再び活性化して、帯状疱疹を発症するというメカニズムです」

 

新見先生によれば、帯状疱疹の見分け方は以下の通り。

1・右か左のどちらか一方に出る皮疹。皮疹と痛み、かゆみが出る。 →背中いっぱいに広がっているなら違う

2・神経の走行に沿って広がる。ただし、神経領域をまたぐことはない。 →たとえば肋骨上下2本分に広がっているなら違う

3・皮疹と痛みは前後することがあり、痛みだけ、皮疹だけが先行することもある。

4・上半身に出ることが多い。胸から上とその背中側が3割、腹とその背中側が2割。首周りと顔面が3割。腰から下が2割弱。

なお、かつては帯状疱疹は生涯に1度しかかからないとも言われていましたが、実際は何度でもかかることがわかっています。

神経の走行の概念図。帯状疱疹はこれら黄色い線のいずれか1本に沿って発症する。

 

「とっても大切なのは、早めの投薬です。よく効く薬があるので、怪しいなと思ったらすぐ病院へ行ってください。というのも、感染後なるべく早く投薬することで後遺症リスクを下げられるから。皮疹と痛みの両方が出て明らかに帯状疱疹だとわかるその前になるべく見つけて、いちはやく投薬するのが大事です。帯状疱疹は50歳以上の約2割に後遺症が残るという報告もあり、ぼくはこの後遺症が大変やっかいだなと思っています」

 

帯状疱疹は「合併症」のほか「やっかいな後遺症」の存在まで意識してください

この後遺症は帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれます。

 

「後遺症の前に、帯状疱疹そのものには合併症も起き得ます。目に発症した場合は角膜炎や結膜炎、ぶどう膜炎などが見られることもあり、結果的に視力低下や失明に至ることもあります。また、顔面神経麻痺と耳の帯状疱疹を特徴とする『ラムゼイ・ハント症候群』と呼ばれる合併症を起こした場合、めまいや耳鳴り、難聴などに至る可能性もあるんです」

 

この後遺症として痛みが残る場合、その症状は、焼けるような、刺すような、引き裂くようなという表現から、ズキンズキンする、電気が走るなどの比喩まで、幅広いバリエがあるそうです。

 

「ひどい場合、痛みが強すぎてシャツが着られない、顔が洗えないということもあり得ます。ぼくの場合、ピリピリすると違和感を訴える患者さんならば痛む部分を図で書いてもらい、それが神経に沿って帯状になっていれば『ポツポツが出たらすぐにもう一度きてね』と促して素早い投薬につなげます。帯状疱疹だろうと予想して先手を打ってくれる、ある程度経験値を持っている医師を選んで受診することも大切です」

 

日頃から経験豊富なかかりつけ医を持つ大切さがわかるエピソードです。こうした治療のほか、私たちが打てる手だてとして、現在は50歳以上を対象に帯状疱疹のワクチン接種が行われています。このワクチンは打つべきなのでしょうか?

 

「まず、なぜ50歳かというと、帯状疱疹の発症率が50歳以上で増加するから。加齢にともなって身体に備わった『免疫力』が落ちるからです」

 

80歳までに3人に1人が発症するとされていますが、逆に言えば3人に2人は発症しないとも言える、この数字をどう見るかは人によるのではないかと新見先生。

 

「日本では2016年から接種が始まったまだ比較的新顔のワクチンで、ぼくは63歳ですがいまのところは様子見。もっと身体が弱ってきてから打とうと思っています」

 

ワクチンは2種類あり、価格や効果の面で一長一短。いずれも価格は自治体の助成額によりけりですが、平均して4000円ほどで受けられる生ワクチン『ビゲン』は予防効果約50~60%程度、持続期間5年程度。不活化ワクチン『シングリックス』は1回1万円強×2回接種で、予防効果約90%、持続期間9年以上とされています。なお、国立感染症研究所は現在のところワクチン持続期間について「明確な答えは出ていない」としています。(リンク

 

さて、冒頭のチトセさんは皮膚科のドクターに「コロナワクチンと帯状疱疹は関係がある」と言われたそうです。この点はどうなのでしょうか?

 

▶【後編】帯状疱疹と新型コロナ…コロナワクチン5回目接種は打つ?打たない?免疫学者のアドバイスは

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