新型コロナが2類から5類に変更されると何が起きる?「むしろ遅すぎたくらい。当たり前です」免疫学者の意見は
まだまだ収束しない新型コロナウイルス感染症ですが、感染症法上の位置づけが変更される見通しです。
政府は原則として今年の春、現在の2類から、季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行する方向で検討を進めると発表しています。
この変更に伴い、どんなことが起きるのでしょうか?
22年9月の段階で「もう5類に変更を」と発言していた免疫学者の新見正則先生が解説します。
「すでに2類相当の体を成していない。5類に変更されて何が変わるか、ぼくが聞きたいくらいです」
――そもそも感染症法上の2類と5類にはどのような違いがあったのでしょうか?
2類感染症とは、簡単に言うと感染症指定医療機関への「強制入院措置がある」病気です。地方自治体は感染者に対し就業制限や入院勧告ができます。医師は診察した場合に発生届けを保健所に届け出る、全数報告の義務を負います。また、医療費は全額、公費で負担します。
当初、新型コロナは未知の病気で、致死性も高かったため、SARSなどと同様の2類指定は極めて妥当でした。その後20年5月に「新型インフルエンザ等感染症」として2類よりもむしろ厳しい措置がとれるほか、緊急事態宣言のような強い行動制限ができるように法改正が行われました。
いっぽうの5類は季節性インフルエンザや水痘、手足口病などが該当で、上記のような制限はほぼありません。地方自治体による就業制限も入院勧告の措置もなく、医療費は一部で自己負担が発生します。一般の医療機関でも入院患者を受け入れます。医師の届け出は、たとえば季節性インフルエンザの場合で7日以内で、患者の全数報告の必要もありません。
これらを見ていただいてわかる通り、オミクロン株以降、新型コロナは2類相当の体を成していませんでした。入院措置もなく、すでに全数把握も行っていないでしょう? ですので、いまさら分類が変わってもどうということはないんです。恐れる要素がない。
――とはいえ、何か漠然と怖いなと思います。ご経験上、2類感染症というのはどういう「怖さ」のレベルなんですか?
2類の中ならば、結核は医師にとってはイヤな病気です。臨床で診察を行っているとそこそこ遭遇する病気なのですが、入院期間が約2~3ヶ月と長期に渡ることもあるため感染したくない。ぼくの場合、大学で学位指導をしていたときに一緒に研究室にずっとこもっていた同僚が結核の診断を受けたときがいちばんひやっとする瞬間でした。
ちなみに、2類感染症は他にジフテリア、SARSやMARS、鳥インフルエンザなどが指定されています。1類感染症のエボラ出血熱やペストなども強制入院措置がありますが、この1類2類というのは番号が小さいほど強いというような強さや恐ろしさのランキングではありません。また、「冴えた」ワクチンがあって、そして確たる治療法があってコントロールできる感染症は実はそんなに恐ろしくはありません。
2類が持つ嫌な感じは、コロナからはすでに受けていません
――2類から5類に変わるのは本能的に怖いなと感じますが、医師の感覚ではいかがですか?
結論から言うと、日本の判断は1年遅れています。アメリカやイギリスは去年の2月にはもう積極的な検査も隔離も撤廃しています。
医師たちそれぞれの立場を想像しながら俯瞰すると、いま発熱外来を持たず新型コロナを診察していない医師の場合、自分が感染するリスクをわざわざ上げたくないですから、5類に変更されても積極的には診察したくない人もいるかもしれません。
また、いま新型コロナを診察している医師は、恐らく5類への変更によって診療報酬が減額されますから、特に診察のための設備投資を行った医院ほど変更してほしくないでしょう。
そして患者さんがたも、診察が無料のままの2類相当維持のほうが家計の面でメリットを感じるかもしれません。だからこそ、1年前、英国や米国が制限解除の判断をしたタイミングで政権が政治判断を下すべきでした。
ぼくがいいなと思うのはスウェーデンです。ここまでいちどもロックダウンしておらず、初等教育は対面授業を継続しました。一時は高齢者の死者数が急増し政府は猛烈なバッシングを受けましたが、それに動じず、毎日きちんと情報開示を行い国民の理解を求めて乗り切りました。なぜそんなことができたかというと、国民の政府への信頼性が厚いからなのだそうです。
――いや、去年の2月はまだオミクロンでみんながパニックでした。あの時点での5類への変更はとてもとても、できなかったと思います。
だからこその政治判断なんですよ。基本的に官僚は責任を取りたくないので、官僚に任せればずっと2類相当継続でも不思議はない。要するに政治家が本来取るべき責任を負う覚悟を持っていない国なので、ゼロリスクにしてほしい世論に迎合してしまいました。結果、国の富を1年分失ってしまったんです。
当初は2類相当の指定でよかったのですが、少なくともオミクロン株に置き換わり、季節性インフルに近付いてるとみんなも感じ始めた昨年2月の段階で、英国米国のあとを追って5類に引き下げらればよかったと思います。感染症とはそのように変化する性質を持っているものなのですから、応じる側も変化が必要です。
とはいえマイナスばかりではありません。悲しいことですが、ここまでの3年の間に亡くなった方もたくさんいらっしゃいます。でも、日本はそれを約6万5000人という、対人口比で世界的に見てもとても少ない数で抑え込みました。これは誇るべきこと、国民の皆さんの自粛や治療の努力と、医療関係者のみなさんの献身的な努力、両方で成し遂げた成果です。
いやいや、いまもたくさん亡くなっていますとおっしゃる方も多いでしょうが、現在報告されている1日死者数は「新型コロナによる死者数」ではなく、「死者のうちPCR陽性だった方の数」です。この違いは大変に大きい。ほとんどのケースで新型コロナが直接の死因となったわけではなく、残念ながらも他に原因疾患があった方です。コロナを過大に恐れる必要は現在のところありません。
5類になったらまた状況が悪くなるのではないかという不安はごもっともです
――とはいえ、5類に変更されるとまた爆発的な流行が起きるのではという恐怖感がぬぐえません。
何かが変わるということはやっぱり不安を伴うものですから、ご心配はごもっともです。しかし、現在は全数把握も強制入院も行っていないため、巷に陽性者がたくさんいる状態です。これが5類になっても実態は何も変わらないので、変更で感染が増える可能性はほぼないでしょう。
ただし、こうして弱毒化と感染拡大を繰り返しながら、どこかで再び強毒化が起きる可能性はゼロではありません。そのときはそのときでまた迅速に指定を変更すればいいだけのことです。
――5類になることで医療にかかりにくくなるのでは?という漠然とした不安もあります。
医師法19条の定めで医師には応召義務があり、「正当な事由」がない限り求めに応じて診察を行わないとなりません。この、「正当な事由」がいったい何になるのか、医師が軒並み診察するのか断るのかは、実際に変更してみないとわかりません。
すでに新型コロナを診察している医師のうち、忙しすぎて大変な医師は、医師みんなが診察してくれるとラクになるなと胸をなでおろすでしょう。ですが、もしかすると、いま診察をしていない医師は感染したくないから嫌だなと思うかもしれず「正当な事由」をいっそう探すかもしれません。
ですから、5類への変更にともなって日本医師会や厚生労働省がどのような診察の制度設計をするか、そちらが問題なんです。2類5類どちらであるかはもうどうでもよく、医師会と厚労省の問題だということです。
ちなみに、2類5類関係なく、現在のところ新型コロナには簡単に誰もが使用できる特別な治療薬があるわけでもありません。受診して酸素飽和度を測定し、下がっていれば人工呼吸器の装着が必要になりますが、下がっていなければ自宅で寝て治すしかない、これは今も同じです。違いはその診察を受けて診察費、治療費を皆さんのお財布から払うかどうかです。ただし、この点も政府は公費負担を検討していると報道されていますから、それほど不安に思う必要はないかもしれません。
マスクをしたまま過ごすことが「いいことだらけ」というわけでもありません
――マスクを外すことについても「大丈夫かな?」という不安感がぬぐえません。
現在すでに国は屋外ではマスクを原則不要としています。人との距離が保てずに会話をする場合のみの着用呼びかけです。つけたい人はずっとつけていればいい、外したい人は外せばいい。外したい人に対してあれこれ言うのをやめればいいというだけのことです。
ザックリとしたお話ですが、そもそも
――マスクはN95でないと意味がないというようなことはよく耳にしましたが、いっぽうで日本の感染拡大抑制にはマスクの効果もあったように感じます。
飛沫感染は少しは阻止してくれるでしょうから、ほんの少しでも感染の機会を減らしたいのであればマスクの着用
会話の際に口元の表情がさほど重視されない東アジアでは、もともとマスクが好まれる傾向がありました。従来も花粉症の季節にはマスクを使う人が多かったわけですから、使いたい人は使い続ければいいのです。
ただ、義務教育の子どもたちがお互いの表情を見て会話をできない状態がよいことだとはぼくには思えません。
完全なるゼロリスクというのは人間が生きて経済活動を行っていく上では担保し得ない何かです。ある程度はリスクを織り込んで、その中で最善の選択をしていくのが未来のある国の態度です。どうぞみなさん、5類への変更を過剰に恐れず、日々の暮らしを前向きに楽しんでください。
お話/新見正則先生
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。2008年より帝京大学医学部博士課程指導教授。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。20代は外科医、30代は免疫学者、40代は漢方医として研鑽を積む。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。最新刊『フローチャートコロナ後遺症漢方薬』はAmazonでベストセラーに。
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