人は「トラウマ」を克服できる【回復力】を生まれながら持っている、は本当なのか?

「トラウマ」とは自分の脳や身体を圧倒するような出来事のことをいいます。その瞬間、私たちは茫然自失となってしまいます。

それは、ある種の精神的な「解離」です。

ふだんであれば、自分の身体は自分のものであると実感していますよね。しかし、身体のイメージをはじめ、意識、記憶、思考、感覚、行動などが分断される体験を「解離」といいます。 たとえば、ある場面や時間の記憶が抜け落ちてしまい、その間はいつもの自分らしくない行動をとってしまうなどです。

今、自分に何が起きている事を理解することができない状態です。

人間の脳はいくつかの部位に分類されていて、自律神経に関係している大脳辺縁系を「古い脳」とし、知覚や知性に関係する大脳新皮質を「新しい脳」ととらえられています。

我を忘れるような出来事が起きた時、私たちの脳で使われるのは、扁桃体という大昔からの「古い脳」の部分です。
人間や動物の進化の過程で、危機的な状況に陥った時に反応をするための脳の一部です。

「古い脳」は精神的、肉体的に圧倒される瞬間、「闘うか、逃げるか」の原始的な反応のどちらかを選択します。

 

本記事は、トラウマを克服することはできるのかについて心理カウンセラーの岡部愛さんにお話しいただく【後編】です。

 

この記事の前編を読むそもそもトラウマってなに? どんな原因で抱えることになる? 自分ではトラウマになっている自覚はあるもの?

 

 

「発達性トラウマ」とは?

トラウマを簡単に定義するとするならば「自分の対処能力を圧倒するもの」「長期間にわたって蓄積された圧倒」ということになります。

トラウマは一つの出来事の時もあれば、「何かが違う」という感覚とともに過去に経験した事故や他者からの様々な攻撃、虐待、突然の喪失などが、複雑に絡みあっているといえます。

ストレス、PTSD(心的外傷をきっかけに、フラッシュバックや、悪夢などが長く続く事)、発達性トラウマ(複雑性PTSDの原因となる子ども時代に負ったトラウマのこと)は、連続していると捉えることができます。

PTSDという言葉は1980年代以降のベトナム戦争以降から使われ始めました。もちろん、それ以上前の戦争や、災害などでもあったはずです。

 

また、早期からの長引くストレスを抱えたままだと、しばしば悲劇的な結果を招くこともあります。

「発達性トラウマ」という言葉は、成長期にある脳がより脆弱であることを指しています。人生において早期の出来事は、心身により深い刻印を残すので、安心感や癒しなどを得ることが難しくなります。

複雑な家族関係、経済的な不安、職場での厄介な人間関係、恋愛や学習などでの挫折、差別などによって不安にさらされるとします。すると、それらが重なることによって、私たちの心身が崩壊してしまうのです。

 

現実は、猫に飛びかかられそうになっているのにも関わらず、それをまるでライオンにでも襲われているかのように勘違いしてしまうほど、私たちの生理機能が低下してしまうのです。

発達性トラウマ、PTSD、極限までのストレスは、私たちの生理機能を誤作動させてしまいます。

多くの人々は、トラウマの兆候があっても、原因である明確な事柄を特定することができません。本人が実際に過去に経験したことのなかにあるのにも関わらず……。

 

 

人生が必要以上につらく感じてしまうのはなぜか

「トラウマ」は一つの劇的な原因によるものではないということがわかっています。

実は、私たちにとって重要な体験は記憶が発達する前に起こっています。この世界に誕生すること自体が最も大きく大変な出来事で、誕生の痛みは潜在意識に深い刻印を残しているのです。

誕生はとても奥深いことです。しかし、養育者との愛情や、接触、アタッチメント(愛着)の条件が十分ではない場合もあります。誕生から胎児期からの発達は、私たちの経験をかたちづくる大切なものです。私たちはこのころのことを覚えていないのですが、その後の人生における反応の定石になってしまうのです。

 

 

実は、私たちの脳は単純ともいえる?

もしも「トラウマ」となるような圧倒される経験を最初にしたとき。「古い脳」が働いて、逃げることで生き延びたとします。すると私たちの脳は、その後のストレスに対しても同じ方法をとってしまうようになり、幾度も同じことを繰り返すようになってしまうのです。

いつも動き過ぎるか、引っ込み思案になり過ぎるか、どちらか極端な状態になってしまいます。脳が生理的に学習したものであり、それに身体が引きずられてしまうのです。

トラウマの研究で有名なデビット・バーセリ博士曰く、

「私たちは人生でトラウマを経験し、トラウマを生き延び、そして、トラウマから回復できるように遺伝的にできている。もしそれが不可能だったら、私たちは、種として滅んでいただろう。トラウマは実は私たちの進化の過程の一部だったのだ」。

 

この言葉には、多々の異論もありますが、私たちは本来、回復力(レジリエンス)を持っています。

私たちの多くは数々の経験や困難の中で鍛錬されていきます。そして、学習し賢くなっていくのです。そうしてトラウマサバイバーとなって、自分自身の人生を生きていくことができるようになっていきます。