真面目だったのに「道ならぬ恋」に堕ち…。恍惚のあとに彼女が見たものとは(前編)

2024.06.07 LOVE

「かたくな」な印象の、独身女性だったが…

未希子が、独身のまま36歳という年齢を迎えたことに焦りを覚えていることは、以前から知っていた。会っているときは恋愛や結婚の話題を避けて、家庭を持っている女友達とも何となく疎遠になっていることは、話していればわかった。

 

実家は郊外で、ひとり暮らしをしながら正社員として仕事を続けている未希子は、頑固というか「かたくな」になりやすい面があって、仕事ではそれが正しい選択として働きいい結果を生むこともあるが、こと恋愛に関しては、相手に対する許容範囲の狭さのようなものが強くて失敗することが多いように感じた。

 

気のある交際まで発展できても終わるときはたいてい未希子が振られる側で、その理由は「我が強い」「疲れる」など、相手がついてこられなくなっていた。未希子は「これでも精一杯がんばっている」と話し、いつか相性のいい男性が現れるはずと口にしていた。

 

そんな未希子が既婚男性との不倫にハマるなど、だからとうてい考えられなかったのだ。それを打ち明けられたとき、「何か金銭が絡むようなトラブルがあるのでは」と本気で心配したのは、他人の一方的な事情に合わせることが何より苦手な未希子がそんな関係に踏み込むことに、大きな違和感があったからだった。

 

だが、未希子は結婚している男性との肉体関係を半年間続け、最後は相手が去っていく結末を迎えて、すっかり心が病んでしまっていた。

 

自分の内から消せない「思い」

その日も未希子から電話があったのは22時近くで、出てみると

「うまくいかないものよね」

と沈んだ声がスマートフォンから流れてきた。いつものようにイヤフォンをつなぎ、「何かあったの?」と尋ねたが、それには答えないまま未希子はふうと大きなため息をついた。

 

「今日もさ、電話したくなっちゃって。夜になるとダメよね」

ああ、いつもの葛藤か。この一ヶ月、未希子はずっとこの調子で、別れた不倫相手への未練を吐く。その内容は、よりを戻したいというより自分の内側に留まり続ける相手の存在に苦しんでいた。

 

「ちゃんとご飯は食べたの?」

ここから確認するのは、先日は「食欲がなくて」と力のない声で言っていたからで、生活だけでなく仕事にも、体調管理のつまずきは未希子自身をさらに苦しめることになる。

 

「うん、大丈夫」

とすぐに返ってきてほっとしたが、ここまで調子を崩す未希子を見るのは初めてで、こちらも動揺が続いていた。今までなら、自分の元から去っていった男性のことなどすぐに話題にしなくなるのに、この不倫だけは未希子の全身を蝕んでいた。

 

辛抱強く弱音に耳を傾ける理由は、この段階の未希子を放り出したら別れた不倫相手への接触など悪い事態を引き起こすかもしれないと思ったからで、吐き出すことで少しずつ毒が抜けていくことを期待していた。

次ページ▶▶どうして不倫してしまったの? 彼と出会ったとき、彼女は…

 

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