真面目だったのに「道ならぬ恋」に堕ち…。恍惚のあとに彼女が見たものとは(後編)
揺れる気持ち
「電話なんて、ねえ。出てもらえないかもしれないのにね」
その言葉を聞くのはもう何度目か。「そうだね」と返しながら、未希子がどうしてここまで別れた不倫相手のことを頭に浮かべるのか考えていた。本当は、電話をかける気などないはずだ。「本気にはなれないから」と突き放す言葉で去っていった男性のことなど、理性のある未希子なら、まともな思考ができる状態で考えたのなら、追う価値などないとわかるはずだった。
「かける意味なんてないでしょ」
これも私が毎回返す言葉だったが、これまでの未希子なら意地を張って、電話したい気持ちを見ないふりで済ませるはずで、まして不倫という世間に知られたらまずい関係の男性に執着する自分など、否定すると思った。
「そうなんだけど……」
言葉を濁す未希子の声は、不安定に揺れている。
「新しい男を、なんて言うつもりはないけどさ、もっと自分を大事にしないと」
陳腐な言葉だとわかっていても、今の未希子に必要なのは己の状態をちゃんと見て立ち直る勇気であって、どうしてもまともな思考を促さずにはいられなかった。
「あんたはそう言うけどさ」
暗い声で未希子が息をつく。今夜は普段より落ち込みがひどいように感じた。
彼女の心の奥底にある願望は 次ページ