新NISA「オルカン選べば完璧」と思った人の7割が見落とす「やらねばならなかったこと」。元ファンドマネジャーがそっと指摘#1
24年年頭にスタートした新NISA制度。「オルカン」「S&P500」という言葉はすでにおなじみとなりました。しかし、「よくわからないなりに何とか始めました」という人だけでなく、「始めないといけないのはわかっているけれどどうしていいのかわからない」という人もまだまだいるでしょう。
「オルカン積んでるから俺はOK」と考えている人に、元ファンドマネジャーの澤田信之さんから「それが危険な場合もある」と確認事項が。さっそくご説明いただきましょう。
【元ファンドマネジャーが指摘「新NISAでやらねばならなかったこと」】#1
(この記事は7本シリーズの1本め/1/2/3/4/5/6/7)
「オルカン一択が不正解」な人って誰? 意外と当てはまる人が多い
こんにちは、個人投資家・文筆業の澤田です。まず、連載の冒頭「オルカン一択」が「不正解」である可能性がある方についてお話します。
・旧NISAで運用していた方
・金融資産が1000万円以上の方
・外貨預金、FX、外貨建変額保険を保有している方
・確定拠出年金(401K)に加入している方
・住宅ローンを組んでいる方(特にペアローン)
これらの方々は、資産運用の知識をある程度お持ちです。序章にあたるこの記事は軽めに読み飛ばし、続く記事をご覧ください。
あなたはどうして「オルカン一択」にしましたか?
私は20年に渡り機関投資家として投資信託や年金の運用に従事してきました。担当した資産もバランス型ファンド、債券型ファンド、外国株ファンド、REITファンドと多岐に渡ります。今は自分の資金だけを運用する生活ですが、正直に言いますと、個人投資家としての資産運用って難しいですね。
職業として運用を担当しているときはTOPIX(日本株)やMSCI(外国株)と呼ばれる市場指数が評価の基準(ベンチマーク)でした。株価の上下や為替の変動で資産は変動しますが、絶対額で損をしても、ベンチマークより損が少なければ褒められました。逆に、儲けが出てもベンチマーク以下だとマイナス評価です。
個人投資家になってみると全く世界が違います。まず、絶対額としての損や儲けが重要になります。しかも、長い目で見れば運用の巧拙によって1千万円単位で結果が変わります。人生においてそれだけ金銭的に影響がある意思決定はそれほど多くありませんよね、職業選択、結婚、持ち家、車の有無、子どもの有無くらいでしょうか。
我々の世代には「親ガチャ」という言葉はありませんでしたが、もしあなたが親から資産を受け継ぐ「当たりくじ」で生まれてきていないなら、公的年金制度の所得代替率が下がりゆくのが確定している現在、資産運用はインフレに負ない老後生活に必須アイテムだと言えるでしょう。
このシリーズでは、元機関投資家・ファンドマネジャーが、見落とされがちな資産運用の基本についてお伝えしたいと思います。特に、新NISA制度発足の元で資産運用の王道とみなされる「オルカン一択」にしている皆様に向けて。
まずは踏まえておきたい「資産運用の5ステップ」
さて、資産運用には5つのステップがあることをご存知ですか? その結果として「オルカン一択」になる方もいるかもしれませんが、そう大勢ではないとも思います。もう一度整理のつもりでご覧ください。
- 資産運用の公式 家計の損益計算書とバランスシート
- ライフプランとキャッシュフロー表
- アセットアロケーション
- コアサテライト戦略とアクティブ・パッシブ
- 実践(元機関投資家の資産運用)
投資先を決めるにはこの5つのステップが意識的にせよ無意識にせよなされています。「オルカン一択」は実はこのステップ5に含まれる内容です。
タイパを優先して1⁻4を知らずに「オルカン一択」にしている場合、思わぬリスクに足を取られる可能性があります。
そもそも「オルカン」ってなに? 改めてその存在を解説すると
新NISAのスタートに合わせて、本屋さんの店頭からyoutubeまで、あらゆる場所に資産運用関連の情報が溢れました。「オルカン一択」もよく見るフレーズで、「とりあえずそれだけやっておけばよい」というタイパ重視の方に人気があるようです。「あれこれ比較する時間そのものを節約する」という意味のタイパです。
実のところ、それが正解の方もいらっしゃいます。たぶん、全体の3割くらいでしょうか。いっぽう、過度にリスクを取っている方も多いと思いますので、まずは「オルカンとはなにか」を説明したいと思います。
「オルカン」とはオールカントリーの略で、世界各国に上場する株式の中から流動性の高い銘柄を選んで投資する「世界株式ファンド」のことです。類似のファンドはたくさんありますが、どのファンドも運用はほぼ同じで、一部を除いて運用成績にも差異はほとんどありません。
ファンドの中身を覗いてみましょう。資産残高が4兆円に近い代表ファンドの e-maxis slim全世界株式(オール・カントリー)の月報や目論見書から代表的な数字を抜粋します(国別比率は2024年5月月報、銘柄数は2024年1月交付目論見書より)。
このファンドの国別配分比率を見ると、先進国が約9割、新興国が約1割になっています。先進国の内訳は、米国60%強、日本5%強、欧州などその他が25%弱、新興国は中国3%強、インド、台湾が1%台で続きます。つまり、全世界といっても、米国が6割あるのに対して、日本は新興国を下回るわずか5%ということになります。
株式投資は経済成長率の高い国に投資するのが国別配分の基本ですので、期待成長率が低い日本の比率が低いことには問題はありません。海外市場に比べてリターンが低いだろう日本の比率は今後も下がっていくと考えられるからです。
個別銘柄の保有リストを見ても、米国株中心であることが分かります。アップル、マイクロソフト、エヌビディアが4%弱、アマゾン、メタ、アルファベットがそれに続いており、米国の主要ハイテク銘柄が上位にランクインしています。保有銘柄数は全部で3,000弱、米国中心とはいえ非常に分散化されたポートフォリオで、個人でこれを真似することは伝説の投資家、ウォーレン・バフェットでも困難でしょう。
ファンドの運用には経費がかかります。運用会社、信託銀行、取引手数料など様々ですが、一般に1%以上の費用が掛かるのが常識の世界です。が、このファンドは規模の利益を追求することで総経費率が0.13%と低くなっています。
世界規模で分散化されたポートフォリオが、非常に低いコストで保有できる、特に新NISAのように長期で保有する可能性が高い場合はコストが低いことが重要ですので、一択で他を検討せずに済むタイパ、経費のコスパ、どちらをとっても人気が出るのもうなずけます。
極めて完成度の高い、盤石の「オルカン」が潜在的に持つ超絶リスク。実は…
逆に言えば、総経費率が高いファンドには要注意です。投信というと募集手数料や信託報酬など分かりやすいコストには気を払いますが、売買手数料や海外での保管コスト、課税は事後的にしか分からないこともあります。
オルカンのように巨大でしかも単純な運用の場合、多数のファンドで集められた資金を親ファンドでまとめて運用する手法(マザーファンドと呼びます)でコストの低減を図ります。が、新興国に投資する小型のファンドは事後的に経費率が3%に及ぶ、などという場合も散見されます。既に運用されているファンドについては目論見書を、新設の新興国株ファンドは資金の小さなものを避けるなどの工夫が必要です。
もうひとつ、オルカンについては、全体の95%が外国株であることを忘れないでください。そこには株価変動リスクとともに、為替リスクが潜んでいるのです。
株価はおよそ年に上下20%程度変動します。最近は円安が続いていますので為替のリスクに鈍感になりがちですが、為替も上下10%程度は変動するものです。当ファンドは設定来6年程度ですのでトラックレコードが短いですが、株式市場では10年程度に1回の頻度で××ショックと呼ばれる下落局面が発生しています。
日本人が海外から資金を回収する(リパトリ、と呼ばれます)ことで円高が同時に発生、ダブルパンチで外国株ファンドの下落率が50%になることもあることを忘れないでください。
数年前に「レバナス」という単語が流行しました。覚えてらっしゃる方もいると思いますが、これは「レバレッジをかけたNASDAQ連動ファンド」のことで、ファンドが借り入れを行いながら先物に投資することで、NASDAQの2~4倍の値動きを目標にするファンドでした。
NASDAQとはハイテクや情報関連の比率が高い米国の株価指数です。過去の変動を見てみると、ITバブル崩壊時(2000年)、リーマンショック時(2008年)、そして記憶に新しいところでは昨年までの米国の利上げ局面で、それぞれ40-60%の下落局面を経験しました。その倍以上の値動き、更に円高が同時に起きた場合の資産減少に耐えられるでしょうか。
当時の流行を追ってレバナス一択で運用していたらどんな結果になったかを思うと、一択、という言葉には危険が隠れていると言わざるを得ません。
今回は「オルカン一択」に潜む危機の例をお話しました。次回は「資産運用の公式」「家計の損益計算書とバランスシート」についてお話します。それでは皆さん、ドキドキしない運用を祈念しています。
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