梅宮アンナさんがり患を公表した「小葉がん」とは?「比較的珍しい、見つけにくいこともあるがんです」【医師に聞く】
8月13日、梅宮アンナさんがオトナサローネ上でご自身の乳がんのり患を公表、同日夜にはインスタライブ上で詳しい経緯を説明しました。
アンナさんがり患したのは「浸潤性小葉がん」という希少な組織型のがんで、部位は右乳房。ステージⅢA、右腋窩(えきか・わきの下)リンパ節転移があります。ホルモン受容体陽性、HER2陰性でした。
アンナさんは5月下旬に異変に気付き、6月中旬に検査、7月上旬にがんと診断され、詳しい病状が判明しました。そしていよいよ7月31日から、手術前に抗がん剤治療を行う「術前化学療法」をスタートしています。まずは術前化学療法として「AC療法」、その後「パクリタキセル」を行い、その後手術を行うという予定です。
耳慣れない名前の「小葉がん」ですが、いったいどのような病気なのでしょう。外科医、免疫研究者、漢方医のトリプルメジャー医であり、現在は乳がんのセカンドオピニオンを中心として女性のさまざまなトラブルに寄り添う新見正則医院院長・新見正則先生にお話を伺いました。
「小葉がん」とは全乳がんのうち数%程度と推定される、比較的珍しいがんです
――衝撃を持って迎えられた梅宮さんのお話です。今回、「小葉がん」という名前を始めて耳にしました。
乳腺は乳汁を作りますが、ミルクを作る部分が「小葉」で、それを乳首まで運ぶのが「乳管」です。乳がんの90%ほどは乳管にできる「乳管がん」ですが、今回のように小葉にできる「小葉がん」のほか、粘液がん、アポクリンがん、髄様がんなどの希少がんもあります。
「小葉がん」は全乳がんのうちの数%と推定されます。国立研究開発法人国立がん研究センターの「がん情報サービス」には5%とあります。
国によって発生率が違い、アメリカでは10~15%ほどと考えられています。なぜ国で差があるのかの理由はわかっていません。梅宮さんはお母さまがアメリカのご出身ですね、もしかしてそうした民族的な要素も関係があるのかもしれません。
――「浸潤がん」とはどのようながんなのでしょう。
がんが乳管や小葉の内部にとどまっている場合を「非浸潤(しんじゅん)がん」、外に広がっている場合を「浸潤がん」と呼びます。ステージ0の状態では非浸潤がん、ステージⅠ以降が浸潤がんであるとも言えます。
――「ホルモン受容体陽性」「HER2陰性」というのはどういうことでしょうか?
ここからが重要なところですが、乳がんは組織形がどうであれ、つまり乳管がん・小葉がんのどちらでも治療法は変わりません。腫瘍サイズと、「サブタイプ分類」で決まります。サブタイプ分類は薬物療法の際にどの薬が適しているかを選ぶために必要です。Ki67というがん増殖速度の指標は今回公表されていませんが、高値のときは少々予後が悪化します。
エストロゲン・プロゲステロン、どちらかの受容体があれば「ホルモン受容体陽性」です。ホルモンを利用して増殖するタイプのがんですから、ホルモンの分泌や働きを阻害する「ホルモン療法薬」が奏功します。
体内のエストロゲン量を減らす「LH-RHアゴニスト製剤」「アロマターゼ阻害薬」、がん細胞がエストロゲンを取り込むのを妨げる「ホルモン療法薬」があります。
――もう一つのHER2は「ハーツー」と読むのでしょうか?
はい。一部の乳がんでは「HER2」と呼ばれるたんぱく質が乳がん細胞を増殖させます。このタイプのがんを攻撃するのが「分子標的薬」で、HER2陽性細胞のみを攻撃します。
「HER2陽性」であれば、HER2を標的とする分子標的薬(抗HER2薬)を使って治療します。今回、梅宮さんはこのHER2は陰性ですので使用しません。
これらの薬はざっくりいって10%ずつ奏功すると考えてください。「陽性」があればあるほど効くものが増え、ホルモン受容体が陽性、かつHER2が陽性なら、抗ホルモン療法、HER2療法、そして従来型の抗がん剤で10%+10%+10%、という具合です。トリプルネガティブでは、従来型の抗がん剤のみ有効なので10%になります。
どちらも陰性のがんが「トリプルネガティブ」と呼ばれるがんです。エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の3つが陰性(ネガティブ)という意味で、この場合はもともとから使われている「細胞障害性抗がん剤」のみを使います。この抗がん剤が髪の毛の脱毛の原因となるのです。
検査をしていても「見つけにくい」がん。どう対応すればいいのか?
――今回、ある日突然乳房が小さくなり、おかしいと感じて検査をしたところ、すでに脇の下に転移のあるステージⅢAだったとアンナさんは語っています。それまでまったく予兆がなかったそうです。
小葉がんは高齢者に比較的多いがんで、また見つかりにくい分だけ大きな腫瘍になって見つかることもあるのが特徴です。
腫瘍を形成しないこともあり、乳管がんほどにはマンモグラフィや超音波でわかりやすくはないため、頻回の検査でも見逃されることがあります。いずれは脇の下の転移部分で気づいたとは思いますが、このように見つかりにくい、わかりにくいがんである「場合もある」、と言えます。
正直、私たちにできることはあまりありません。見つけたら治療をする、これだけです。何かのせいにして、たとえば自分の生活習慣が悪かったからだと自分を責めたりすることはせず、ありのままに受け止めることが重要かもしれません。
――今後の治療の展望はどうなのでしょうか。
すでに梅宮さんは「AC療法」「パクリタキセル」ののちに手術までスケジュールが決まっているとのこと、これは極めて標準的な治療法です。
乳がんは基本的に予後のいいがんです。ステージⅢの5年生存率は80.6%、Ⅳで39.8%(ともにネット・サバイバル、がん情報より)と治療成績もよいのです。
全部取ることができない肝臓や胃と違って、乳腺は全部切除できますので、体の他の部位よりは再発を防ぎやすいのが理由の1つです。梅宮さんも右乳房の全摘出を決めているとのことですが、予後を思えば正解です。現在は乳房再建も保険が適用になりましたので、基本的に部分切除で乳房を残す意味がほぼなくなりました。
――アンナさんは「右を切除するなら左もとれないんですか?」と医師に聞いて、断られれたそうです。
乳房再建を志さない場合は左右のバランスの問題が生まれますし、アンジェリーナ・ジョリーが予防的乳房切除に踏み切った「がんになりやすい遺伝子」、BRCA1・BRCA2遺伝子も脳裏をよぎるかもしれません。45歳以下の乳がん、または60歳以下のトリプルネガティブの乳がんではBRCA1・BRCA2遺伝子の検査が保険で可能です。そしてBRCA1・BRCA2遺伝子が陽性であれば、乳腺の予防切除が保険で可能です。
英国・ケンブリッジ大学が作成しているPredict Brest Cancerというサイトでは、がんの条件を入力すると5年・10年・15年生存率をおおまかに算出することができます。英国でのデータですので日本人に厳密には適用できないのですが、参考にしてください。
また、ぼくのサイトでは「がん3部作」と題して、これまで40年の経験の総集編として、がんにり患したときの病院や治療法の選び方を詳しく解説しています(こちらから)。どなたにも参考になる内容ですからぜひご覧ください。
――ありがとうございました。
■お話/新見正則医院 院長 新見正則先生
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。2002年より帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。20代は外科医、30代は免疫学者、40代は漢方医として研鑽を積む。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。『フローチャートコロナ後遺症漢方薬』はAmazonで三冠(東洋医学、整形外科、臨床外科)獲得。
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