そう、私が欲しかったのは旦那じゃなくて「彼氏」【不倫の精算4】
恋愛より優先したいもの
D子が勧めてくれた料理は、確かに美味しかった。
「こういうのが若い子に流行るとか、よく考えつくよね。いつも勉強していてすごいと思う」
店内を見ると、料理の写真を撮る女性の姿も目立った。そういう学ぶ姿勢が好き、と彼女が続ける。
「あの人といると良い刺激をもらえるの」
D子が求めているのは、自分を養ってくれるような「旦那」ではない。それより、お互いに自立して仕事や趣味を楽しめる男性、好きなときに会って体を重ねることのできる「彼氏」を望んでいた。
若い頃からいずれひとりで事業をやっていくことを考えていた彼女は、結婚して家庭に入るより常に表に立つことを許してくれる男性でないと、恋愛は上手くいかないと思っていたのだ。
だが、30歳を超えるとどうしても結婚を無視できなくなった。好きで付き合った男性はいたが、籍を入れることを望まれる。「タイミングが悪かった」のは、彼女もちょうど勤めていたデザイン会社からフリーランスとして独立を考えていたときで、2つを同時にこなすのは難しかった。
「結婚より仕事を優先するなら別れて欲しい」と言われたD子は、それ以来独身の男性と交際するのをやめた。
結婚しなくてもいい、と自分の気持ちを理解してくれる男性が見つかれば良かったが、そう都合よくはいかなかった。いいな、と思う人でもやはり将来の人生設計を聞けば「結婚」「子ども」「両親の介護」と馴染めないキーワードが出て来る。
「結婚している人ならそんな面倒を考えなくていいからラクじゃない?」
独身の男性と付き合うのは難しいが、ひとりで過ごすのは寂しかった。趣味を増やしたくて始めたランニングは思った以上に自分に合っていて仲間もできたが、一人寝が続くと人肌が恋しくなる。
だから、既婚者でもベッドをともにできるなら構わない。いつの間にかそんな考えで男性を見るようになった。
今の「彼氏」のように、仕事を中心にがんばっている男性なら会えなくても文句を言わないし、自分の時間を邪魔されることはない。ビジネスについて質の高い会話もできる。もちろん彼の家庭を壊すつもりなどまったくないし、自分の立場はわきまえているつもりだった。
「そりゃ、不倫はダメだってわかってるけどさ。でも、迷惑はかけてないよ?」
口元をナプキンで押さえながら、D子は繰り返す。
「結婚しているオトコのほうがラクだしさぁ」
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