「もしパンツが白く汚れたときは…」性教育より情報社会を生きるための教育が優先されているからこそ、教えておきたいこと

静岡県三島市在住のライター神田未和です。看護師・助産師としてキャリアをスタートし、グローバルヘルスの世界で働いてきました。夫の闘病生活を機にライターに転身し、女性のライフステージに応じた健康情報発信をライフワークとし、執筆活動をしています。

この連載では、思春期のお子さんをもつ親御さんのリアルな悩みや戸惑い、その対応策の体験談を紹介しています。誰かの体験談をきくことで、新しい視点に触れ、「わが家の思春期」への対応の糸口が見つかるかもしれません。親御さんだけでなく、同じ時代を生きる女性たちの声や思春期世代のリアルを知ることで、新たな気づきが得られるかもしれません。

インタビューを受けてくださったのは、東京都23区の中でも教育への関心が高い家庭が多いエリアに住む、看護師のAさん(43歳)。夫婦共働きで、12歳の息子さん(今年から中学1年生)の育児に奮闘中です。特性のあるお子さんの個性を大切にしながら、思春期特有の課題にどのように向き合ってきたのか、貴重な体験談をお届けします。

 

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性教育よりICTリテラシーや情報モラル教育

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―――学校での性教育には地域差がありますが、お子さんの通う小学校はどうでしたか?

正直わかりません。息子は「小学校で性教育は全然やらない。生理も精通の話も聞いたことはない。身体の仕組みは理科で聞いた。」と話していました。PTA主催で保護者向けの性教育講座を開催していましたが、残念ながら仕事で行けませんでした。学校では、ネットリテラシー向上のための教育を精力的に進めている印象です。警察によるネットリテラシーの授業もありました。SNS利用時の注意点や、「裸の写真を送ってもらったり、送ったりしてはいけない」など性被害防止の内容もあったようです。

 

◆ICTリテラシーや情報モラル教育

これまでの取材を通して見えてきたのは、保護者が学校でどのような性教育が行われているかを知らないケースが多いということでした。一方で、ICTリテラシーや情報モラル教育は積極的に進められており、保護者もその内容を把握し、家庭内で話題になることも多いようです。

こども家庭庁では、「青少年インターネット環境整備法」に基づいて「第6次青少年インターネット環境整備基本計画」を策定し、青少年が安全・安心にインターネットを利用できる環境づくりに取り組んでいます(※1)。地方自治体と警察や企業との連携による啓発活動も進められているようです(※2、3)。性教育も、ICTリテラシーや情報モラルと同様に、人生を通じて大切なテーマです。子どもたちが健やかに成長していくための基盤ともいえるこれらの学びを、相互に関連づけながら伝えていけたらと感じます。

 

※1出典: こども家庭庁.「青少年インターネット環境整備基本計画(第6次)」.2024

https://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/internet_torikumi_guideline

※2 出典:「2023年、小学生のSNS犯罪被害は過去最多 安心安全にネット利用のため、親子でITリテラシーを向上する課外授業『Norton小学生ITセミナー』開催」(PR TIMES, 2024年7月26日付)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000069936.html

※3 出典:千葉警察県警.「ネット安全教室・セキュリティセミナー」https://www.police.pref.chiba.jp/cyberka/safe-life_cybercrime-12.html

 

子育てのテーマは「社会で生き抜く力」を育てること。背景には青年海外協力隊での活動経験

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―――家庭ではどのように性にまつわる話題に接していますか?

小学校に入る前から絵本の読み聞かせをしていました。『おちんちんのえほん(やまもと なおひで(著)・2000)』は、プライベートゾーンのこと、パンツは汚れたら洗おうねといった内容が、分かりやすく書かれていていました。息子が5年生ときに精通について、「白いものが出てきた時は、パンツをそのまま洗濯機に入れないでね」と普通のこととして伝えました。

 

―――息子さんはどんな反応でしたか?

当時は『はてな?』という顔でしたが、今は理解していると思います。親が思っている以上に友達同士でいろんな話をしているようです。昔は友達が家に遊びに来ると、私の前でも気にせず下ネタを話していましたが、今は絶対話さないですね。

 

―――お父さんは子育てや性にまつわる話題にどのように関わっていますか?

息子が4年生のとき、電車で都心の塾に通うことになり、公共の場でのマナーやトラブルへの備えを夫から伝えてもらいました。女性専用車両や満員電車のこと、痴漢や冤罪の話など、電車の中で気をつけることは多いので。

夫は夜勤が多く、平日家にいないことが多いので、基本的にワンオペ育児です。息子が小さい頃は、夫も頑張って休日に出かけていましたが、今は休日は休むことで精一杯みたいです。とはいえ、同性同士の方が話しやすいこともあるので、3年生頃から男2人旅の時間をつくっています。私と息子の会話は、どうしても生活の注意が入ってしまい、たわいのない話になりにくい。でも、パパとは何気ない会話ができる。たとえば、恐竜や歴史の話とか。それが息子にとって大切な時間になっていると感じています。

男2人旅では、あえて不便な場所を選び、車中泊をしながら工夫して過ごすようにお願いしています。息子には、生活に必要な力を身につけてほしくて、家事を教えたいのですが、実践できていません。日々の暮らしを回すのに精一杯で、「自分でやったほうが早い」と、つい手を出してしまい…。だからこそ、あえて男2人でちょっと不自由な旅に出かけてもらっています。

 

―――共働きで忙しい中、息子さんを中心に、いろんな工夫をされていると感じました。

息子の特性のこともあり「将来、社会で生き抜く力を身につけてほしい」と考えてます。それが子育てのテーマです。息子の希望で始めたサッカーや柔道は、軍隊並みの厳しいチームに入るなど、あえて厳しい環境を選び伴走しました。だから息子からの反発もありました。でも、

また、男の子なので、「自分を大切にすることが一番だけど、大切な人ができたら、その人を経済的、体力的、精神的にも支えられる存在になってほしい」と伝えています。今は女性の地位も少しずつ向上してきていますが、生物的な違いによる力の差はあります。自分では良かれと思ってしたことが、相手を傷つけてしまうこともあるかもしれない。だからこそ、相手の立場に立って想像できる人であってほしい――そんな話を、折に触れて何度も伝えてきました。

 

―――そう考える背景には、何か印象的な経験があったのでしょうか?

チリでJICA青年海外協力隊看護師隊員として活動した経験ですね。チリは南米で経済的に比較的安定した国と言われていますが、男性に比べて女性の方が貧困に陥りやすい状況でした。宗教は歴史的にカトリックが中心で、結婚すると離婚が難しいため、男性は結婚に消極的でした。一方で、避妊をせずに性行為をするため予期せぬ妊娠が多かったです。子どもができても、責任を持とうとしないまま姿を消してしまう男性が珍しくありませんでした。チリでは避妊は認められていますが、パートナー同士が同意して行うのは都市部の高所得者層が中心でした。地方や貧しい地域では、必要な情報や手段が限られていました。結果として、父親の違う子どもを何人も育てている女性がたくさんいました。私が体験したことは、事実として子どもにもよく話しています。

 

◆終わりに

思春期の子育てには、正解のない悩みや葛藤がつきものです。Aさんの子どもへの向き合い方や、好きなサッカーを通じたつながりに救われながら進んできた歩みには、ヒントがたくさん詰まっていると感じました。今回、東京都の一部の小学生にとって、中学受験は特別なことではなく、日常の延長にある選択肢になりつつあると知りました。子どもに、少しでもよい環境で学んでほしい――そう願うのは、どの家庭でも自然なことだと思います。その一方で、プレッシャーに押しつぶされそうになっている子どもたちがいることにも、目を向けなければならないと感じました。

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