酷いことを言われた、言ってしまったあなたに。
ジブリの名作『千と千尋の神隠し』。
公開から何年経っても、主題歌『いつも何度でも』を聴くと、美しい世界や感動が蘇る人も多いはず。
そんな、すてきなテーマ曲の作詞をされた覚 和歌子さん。
このコーナーでは、彼女の手がけたタロットカード「ポエタロ」より、カードのテーマに沿って書かれたエッセイを一話ずつご紹介しています。
今回のカードは「刀」
覚さんのエッセイに入る前に少し。
「刀」といえば、今や大河ドラマや博物館でしかお目にかかれない代物ですね。
これがいったい、わたしに、どんなメッセージをくれるの??と、思わず頭に「?」が浮かんだ人も多いかもしれません。
かっこよくて鋭い武器。あるいは、人を傷つける恐ろしい道具。
ところで、刀やその他の刃物以外で、「切れ味がいい/悪い」「鋭い」という表現がひんぱんに使われるものがあります。お気づきでしょうか。
「ことば」です。
カードの解説文では、このように表現されていました。
いったん手にしたら、慎重に謙虚につき合い、
その扱い方を学んでいくうちに、
人間そのものを学ばせてくれるものなのかもしれません。
ときに誰かを笑わせたり、真剣な話し合いを助長してくれたりしますが、ときに知らないうちに誰かを傷つけてしまう、鋭い、ことば。
本物の刃物と違うのは、傷ついた心は、身体の傷と違って目には見えないことですね。
誰かの心ない一言でもしもあなたが傷つけられたなら、きっと悔しくて悲しくて、怒りがこみ上げてくるかもしれません。
そんなときは、その場を離れて深呼吸です。そして、すぐに頭から追い出してしまうこと。
あなたを傷つけるような人に思考の時間を費やすのは、もったいない!
もしもあなたの何気ない一言で、誰かを傷つけてしまったなら。
後悔しているなら、もう大丈夫。その気持ちを素直に相手に伝えるだけです。
何の心あたりもないのに、このカードに出会ってしまったなら。
愛情から生まれたことばを、相手に伝えていますか?
何の気なしに、自分を大きく見せようとしたり、自尊心を守ろうとしていませんか?
これは、もっともっとハッピーな道に進んでいける、チャンスです。
テレビで人気を集めつづける芸人さんも、ことばが鋭いだけじゃないんですよね。
鋭いけれど、愛情も忘れない人たちだけが、長く長く愛されるんだなあと思います。
それでは、覚さんのエッセイをどうぞ。
***
【刀】切るとき、そこに愛はあるか
刀はそもそも相手を殺傷するための道具である。
いのちのやりとりという極限状況に
必要とされる覚悟、精神性は、
刀作りを仕事にしている人にとっても
同様に迫られるものなのだろう。
刀工の仕事場を見学に行ったとき、
ある男性が模造刀を持たせてもらって決めポーズをとったら、
きつくたしなめられていたのを見たことがある。
笑いを取るとかリラックスするなどという、
現代人には当たり前の(というかむしろ必須の)和やかな雰囲気とは
大きくかけはなれた世界があることを目の当たりにして、
とても印象深かった。
ジンバブエでは口から刀を出している男の木彫を見た。
「言葉は世界を切り分けるもの」
という意味をあらわしているのだと聞いた。
言葉を生業(なりわい)にする者として、
自分が武器を扱っているのだと
改めて思い知ったのはこのときだ。
相手を傷つけないで”切り分ける”(筋を通す)ことは本当に難しい。
切った跡をあとくされなく美しいものにするために、
手入れと扱いかたに熟達しなければならないのは
言葉も刃物も同じだ。
その上どちらも扱いから少しでも遠のくとすぐなまる。
勝ち負けの結果が大事なのではない。
切ることに必要なのは愛なのだから。
リストラしなければならない立場にあるあなたには、
このカードは大きな問いかけになる。
覚 和歌子
詩人・作詞家
山梨県生れ/千葉県育ち。早大一文卒。平原綾香、smap、新垣勉、夏川りみ、クミコ、ムーンライダーズなどの作詞で、多くの作品をCD化。NHK全国学校音楽コンクール課題曲、校歌、合唱組曲等の作詞なども多く手がける。01年『千と千尋の神隠し』主題歌『いつも何度でも(曲・歌唱/木村弓)』の作詞でレコード大賞金賞。詩集『ゼロになるからだ』(徳間書店)、『はじまりはひとつのことば』(港の人)、『2馬力』(ナナロク社)など。エッセイ、絵本、翻訳など著作多数。映画監督、脚本、舞台演出、朗読、自らのバンドを率いてのソロライブ、米国ミドルベリー大学日本語学特別講師など。詩作を軸足にマルチな活動を展開。
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「ポエタロ」とは?
「ポエムタロットカード」を縮めた名前、『ポエタロ』。
47枚のカードにはそれぞれ、美しくやわらかい日本語の詩と、
かわいらしくも不思議な魅力のあるイラストが描かれています。
使い方はいたって簡単。シャッフルしたカードの中から、
その時の直感で1枚、あなた自身のためにカードを引いてみてください。
1日のはじまりにその日の指針を得てもいいし、なにか大きなチャレンジの前、
なかなか超えられない壁に直面しているときに。
そのときの気持ちや環境にリンクした、やさしい詩とメッセージが、
次の1歩を踏み出す勇気や確信を与えてくれる不思議なカードです。
あなたの心強い味方になってくれるはず。
『ポエタロ いのちの車輪をまわす言葉』
覚 和歌子・著 石川 勇一(相模女子教授)・監修 大野 舞(Denali)・画 カード47枚 ガイドブック付き 3,780円(税込)/地湧社
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