血縁でも殺し合う戦国の世。「その願いは別の者と果たせ」柴田勝家(山口馬木也)と前田利家(大東駿介)の決別で描かれた男同士の絆【NHK大河『豊臣兄弟!』32話】
*TOP画像/勝家(山口馬木也) 利家(大東駿介) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』32話(8月23日放送)より(C)NHK
戦国時代のど真ん中を舞台にした『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の主人公は仲野太賀が演じる豊臣秀長。兄弟の絆で“天下統一”という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡を描いた大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の第32話が8月23日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
秀吉派VS勝家派の戦い
本放送回を観ていると、揺るがない信念を持つ人もいれば、自分にとって有利な方にすぐに寝返る者はいつの時代もいるのだと改めて思いました。前者は柴田勝家(山口馬木也)であり、後者が織田信孝(結木滉星)や中川清秀(すがおゆうじ)……。また、秀吉(池松壮亮)と前田利家(大東駿介)を観ていると、友人関係を継続することの難しさも感じられました。
雪が舞う日における二組の夫婦
勝家は市(宮崎あおい)とともに、雪深い越前で身動きがとれない状況におかれていました。勝家が「またしても わしは動けなんだ…。」と吐露すると、市は「我らが動けぬうちは 敵もまた攻められませぬ。今のうちに十分な支度を整え 雪解けとともに 一気に攻めかかるのです」と励ましていました。このときの市の落ち着いた様子に対し、勝家は何か悪いことが起きると予感しているようにも見えました。

勝家(山口馬木也) 市(宮崎あおい) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』32話(8月23日放送)より(C)NHK
そして本回には、もう一組の夫婦の姿も描かれていました。利家とまつ(菅井友香)です。“槍の又左(やりのまたざ)”として称えられていた利家は、大雪の日に上半身裸で槍の稽古をしていました。
利家は「すまぬな。わしと めおととなったばかりに このような苦労をさせてしまった」と、稽古しながらまつに謝罪。すると、まつは「私は 苦労とは思うておりませぬ。冬も雪も大好きでございます」と返答。さらに、「雪は この北国に 平穏をもたらしまする」「いっそ この日の本中に ずっと雪が降ればいいのに」とどこか切ない表情で述べていました。
戦国の乱世、武将は戦場で過ごす時間が長く、妻は城で夫の帰りを待つしかありませんでした。当時の女性たちが戦場にいる夫にどんな思いを馳せていたのかは、記録がほとんど残っていないため分かりません。ただ、現代人の多くが寂しさや不安に襲われたと、その気持ちについて想像を巡らせるでしょう。
まつの「冬も雪も大好きでございます」という言葉には、雪によって戦が中断され、一時的に訪れた平和な世への感謝、夫と一緒にいられる喜びが込められています。
利家の心の中に潜む「世を変えたい」という思い
利家とまつが夫婦の貴重な時間を味わっていると、秀吉(池松壮亮)がやってきました。秀吉が「又左。わしに力を貸してくれ」と頼むと、利家は「わしに 柴田のおやじ殿を裏切れと?」と言い返します。第31話「これで、お別れにございます」では、一人暴走していた秀吉でしたが、本回では「真に わしが怖いのは わし自身じゃ」「このまま戦となれば わしは お市様まで討たねばならぬ」と、利家に本音を明かしていました。
そして、秀吉は「今の織田では何も変わらぬ」「柴田殿は 今あるものを守ることができても 新しき世をつくることはできまい」「だから わしがやると決めたのじゃ」と、利家に自分の考えを伝えていました。秀吉と勝家の戦いは、リベラルと保守の戦いともいえるでしょう。変化を起こさず、織田信長(小栗旬)がつくった織田家を守る使命感にあふれる勝家。よりよい世をつくるために新しい風を吹かせたいと願う秀吉。どちらの考えも正しく、間違っていないように思います。
利家は秀吉の考えに納得できないようでしたが、彼の考えを変える大きな出来事が……。利家は勝家に腕相撲で勝つと、勝家から「褒美をやる。何が望みじゃ」と希望を聞かれました。利家が「天下人となって 新しき世をつくってくださりませ!」と答えると、勝家は激怒。「上様の作られた織田家をお守りし いずれ三法師様を天下人にする!それこそが わしの 務めじゃ!」と声を荒げました。

勝家(山口馬木也) 利家(大東駿介)ほか 大河ドラマ『豊臣兄弟!』32話(8月23日放送)より(C)NHK

勝家(山口馬木也) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』32話(8月23日放送)より(C)NHK
勝家は「ははあ~!申し訳ございませぬ!」と謝罪したものの、その表情からは納得していない様子がうかがえました。利家も秀吉と同じく、信長亡き今、新しき世の訪れを期待していました。しかし、勝家に与したところでそのような世が訪れる見込みはないという現実を突きつけられたのです。
賤ヶ岳の戦い勃発……。秀吉が小一郎に預けた桑山殿とは?
賤ヶ岳の戦いの場面では粉雪が静かに降り、寒空の下で槍や刀の音が響き合っていました。史実でもこの戦の日に雪が残っていたと伝わっています。

小一郎(仲野太賀) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』32話(8月23日放送)より(C)NHK
信孝が勝家軍に寝返ったこともあり、秀吉軍は厳しい局面に……。そうした中で、秀吉が小一郎(仲野太賀)に預けたのが、桑山重晴(住田隆)という男。小一郎が「桑山殿は 何が得意でござるか?」と尋ねると、重晴は「何でも」と答え、「中でも一番は 死なぬことじゃな」と続けていました。しかし、“何でも得意”なはずの重晴は戦において弱腰で、申し訳ないが武行に秀ているようにも見えません。小一郎も重晴の扱いには困っているようで、彼の顔に“兄者、このタイミングでこんな男を預けないでくれ”と書いてあるようにも見えました。

小一郎(仲野太賀) 重晴(住田隆) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』32話(8月23日放送)より(C)NHK
史実では、桑山重晴は秀長の重臣です。当初は秀吉の配下にあったものの、秀長に仕えることになり、彼の代官も務めました。秀長は姫路城に移るタイミングで重晴を竹田城主に任じたことからも、彼に厚い信頼を寄せていたのは確かでしょう。
本作では、重晴の能力の高さをほのめかした場面もありました。藤堂高虎(佳久創)から「大岩山砦が 敵の手に落ちました!」と報告を受けて、小一郎は早すぎると戸惑う一方、重晴は「もしや 中川殿も 生き延びるのが得意なのでは…」と落ち着いた表情で述べていました。このときの彼は眼差しが鋭く、聡明さがあふれており、ただ者ではないと予感させられました。清秀は摂津一国を預けてもらうことを条件に敵に寝返りましたが、重晴は清秀の思惑を察していたのかもしれません。
秀吉軍が苦戦に陥る中で、秀吉を陰で勝利に導いたのは利家でした。利家が戦線離脱を決意し、秀吉軍に寝返ったことで、秀吉軍は優位に立ちました。利家が「天下人になるなら この日の本中に ずっと雪を降らせろ!」と秀吉に力強く約束を迫り、秀吉が「約束する」とその思いを全力で受け止めた場面は感動的でした。
ちなみに、戦国時代は、血縁関係にある者同士でも、自分の出世の邪魔だと判断すれば殺す時代。そうした中でも、前田利家は豊臣秀吉に友人として力を貸し続け、この男を出し抜こうとすることはなかったといわれています。
そして本回の見せ場となったのが、勝家と利家のラストにおける対決です。勝家軍を離脱したはずの利家が勝家の前に姿を現すと、二人は刀と槍をぶつけ合うことに……。勝家勝利の兆しが見えたところで、勝家の判断で戦いは中断されました。

勝家(山口馬木也) 利家(大東駿介) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』32話(8月23日放送)より(C)NHK
利家は「わしは おやじ殿に 上様の後を継いでほしかった。おやじ殿とともに 新しき世を作りとうござりました」と力強く思いを伝えていました。勝家は織田家家老としての立場を説明した上で、「その願いは 別の者と果たせ」と一蹴。
勝家と利家はいつの間にか互いに考えが変わってしまい、さまざまな変化により仲間として共に戦えなくなりました。二人の関係性崩壊の原因は、どちらが悪いというものではありません。そんな中、勝家の利家へのあたたかい対応に心打たれました。
▶▶“マウント合戦” に“見栄の張り合い”。戦国の女の友情は悲惨だったのかーー寧々(秀吉の妻)とまつ(利家の妻)は「敵」か「唯一の友」か?
では、戦国時代の友情について、秀吉の妻「寧々」と利家の妻「まつ」の関係から紐解いていきます。
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