今日、ため息を何回ついた?東洋医学からみる「疲労」とその対策とは
「頭痛に効く漢方薬をください」。もし漢方医にこう尋ねたら、どういう答えが返ってくると思いますか?
実は、頭痛専用の漢方薬があるというわけではありません。
「頭痛を訴える人」に処方される漢方はいくつもありますが、頭痛に対して処方するのではなく、患者さんの心身全体の状態を把握した上で、その全身症状に対して漢方薬が処方されます。
では、「疲労に効く漢方薬」と聞いた場合はどうなのでしょうか?
同研究所の医長 川鍋伊晃先生に、「疲労」と漢方のお話を伺いました。
昔の人と現代日本人、「疲労」そのものは違わないけれど…
–そもそも「漢方」での「疲れ」とはどういうものなのでしょうか?
「漢方」と言うと「中国の医学」という印象を持ちますが、実は古代中国医学を源泉としつつ、特に室町時代以降に日本で独自に大きな発展を遂げた医学体系です。
中国漢代に編纂された『金匱要略』によれば、疲労とは「虚労病」、つまり「慢性消耗状態」のこと。原因は、過労、加齢、不眠、神経衰弱、胃腸虚弱、貧血、肥満、冷え…
漢代の人と、現代人、病態の差はないことに気づきませんか?
しかし、疲労の要因は変化しています。昔は感染症や栄養不足が多かったのですが、現在は不眠やうつなどの精神障害、環境ストレス、長寿命化(フレイル)、生活習慣病やがんなどの慢性疾患が増えています。
「漢方」で重視するのは2つの概念のバランス
–よく、「気血水」などの言葉を聞きますが、全体から俯瞰するとどういうことなのでしょうか?
日本の漢方には2つの大きな要素があります。
1つは「陰陽と虚実」の概念。この4つの要素は上図のような相対関係にあり、このバランスを取り、ほどよい状態である「中庸」を目指します。慢性的に疲労している人は、上の図では左下の部分に該当される方が多く、漢方医学的には補う働きを有する処方で主に対応します。
もう1つは「気・血・水」の概念です。
「気」は心身の活動を司るエネルギーとしての役割を有します。「血」は現代医学の血液と近く、栄養や内臓・免疫機能と関わります。「水」は潤す一方で、余計なものを排出する働きを有します。この3つが相互にほどよく循環することが重要です。
では、3つが循環しなくなるとどうなるのでしょう。循環がうまくいかない場合に陥りやすい、気血水のバランスの崩れた状態を以下に示します。
【あなたのトラブルは?】
気虚 … 心身活動のエネルギーである気が不足した状態です。体力の低下。バテやすさ。だるさ。やる気の低下。胃腸の弱さ。などと関連します。
気滞 … 気の巡りが滞った状態です。抑うつ。不眠。気の張り。不安感。憂うつ感。喉胸のつかえ。お腹の張り。などと関連します。
気逆 … 気が昂って収まらない状態です。更年期に多く、浅い眠り、イライラ、のぼせ、多汗、動悸。などと関連します。
血虚 … 体を栄養する血の足りない状態です。立ちくらみ。こむらがえり。肩こり。目の疲れ。肌や爪の荒れ。手足の冷え。などと関連します。
水滞 … 過剰な水分が停滞してしまう状態です。天候の影響による体調の悪化。めまい。吐き気。むくみ。排尿の異常。などと関連します。
あてはまるものはありましたか?
漢方では「舌」を重視する。あなたの舌は…?
–この「状態」はどうやって診断するのですか?
漢方診察の所見は採血などの検査ではなく、医師による四診(ししん/望診・聞診・問診・切診)で行います。その人の状態を丁寧にみて診断を行うので、最初の1回は30分から1時間ほどかけた長い診察になることも少なくありません。中でも、問診では患者さんのこれまでの生活史を詳しく聞き取り、治療の方向性を凡そ定めた上で、実際に診察して身体所見を確認します。
漢方では「舌を診ればわかる」と言うほどに、心身の状態の変化が比較的鋭敏に反映されやすい舌の診察はとても重視されます。ここであなたの舌を鏡で見てください。辺縁が淡い紅色で、中央部に薄く白い苔(舌苔)が乗っていれば、概ね健康的な状態です。
一方、舌体の赤さやくすみが強い、舌苔に色がつく(黄色や茶褐色など)、舌苔が全くない、舌体部に複数の溝がある(皺裂)、舌辺縁部に複数の歯の跡がある(歯痕)、などの変化を認める場合には健康的とは言えません。
【中でも、あなたの舌が…】
舌辺縁部に複数の歯型がある(歯痕) … 気虚(心身のエネルギーの不足)、水滞(水分代謝の悪化)が示唆されます。
舌体部に複数の溝がある(皺裂) … 血虚(滋養の不足)が示唆されます。
舌の先に複数の赤い斑点がある(紅点) … 気逆(ストレスや不眠など気の昂り)が示唆されます。
舌の状態はセルフチェックにもなるので、日頃から鏡で見て、自分の舌に変化がないか確認してください。
あなたの疲労タイプ別、オススメの食べものは
–どうやら私は舌から考えると「気虚」みたいです。どうすればいいのでしょう?
漢方には「養生」の概念があります。よく知られるのが、「身土不二」と「一物全食」です。居住環境に合った体質になることを「身土不二」と言い、地元の旬の食材は体に良いとされます。また、実や肉だけでなく食材まるごと楽しむことを「一物全食」と言い、食べ物ひとつひとつが小さな宇宙で全体としてバランスが取れており、すべてを食すことが健康に繋がるという思想が根底にあります。
【これを食べて養生!】
(ただし、摂取により体調の悪化を伴う場合にはアレルギーも想定し見合わせること)
気虚、血虚 … 山芋、長芋、豆類、蜂蜜など。火の通った消化のいいものを食べる。寝不足や過労、過度の飲食を避け、十分休養して規則正しく生活する。
気滞 … 香りのいいもの(みかんなどの柑橘類やミント、ジャスミンなど)、紫蘇、パクチー、梅干し、しじみなど。趣味やマッサージなどでリラックスを意識する。
気逆 … シナモン、ハーブティー、バジル、ライチなど。深呼吸やヨガなどで心身を整え、ストレスを軽減する。
水滞 … たけのこ、大根、ごぼう、しょうが、はとむぎ、あさり、海藻、柿、梨など。運動や入浴を意識する、甘いものや油っぽいもの、冷たい飲食物を控える。
【疲労に効くツボも!】
同時に、疲労に効果的なツボも適宜刺激しましょう。各部位とも、3~5秒程度押して離し、痛くならない程度に繰り返しながら1~3分続けるといいでしょう。
1・労宮 手をグーにして握ったときに中指の先端が当たる位置。ストレスや不眠、あがり症、多汗症、動悸などにも有効。
2・開元 へその下、指4本分。胃腸障害や泌尿器症状、婦人系トラブルにも有効。
3・三陰交 足首の内くるぶしの上、指4本分のややへんこんだ位置。冷え性、むくみ、婦人系トラブルにも有効。
40代女性は「ストレス」と戦い続けている
–普段診察をしていて、40代女性の「疲労」にはどういう傾向がありますか?
40代女性の外来患者は圧倒的にストレスを原因とする疲労を抱えています。中でも職場ストレスは相当なもの。働く40代女性は強いストレスに抗っています。
外来でお話を伺うと、気が張り詰めている場合がとても多い。気血水のバランスのうち、更年期世代は特に気と血のバランスが乱れがちです。
また、仕事上の立場もあがり、責任もアップ。いっぽう、プライベートでは介護など老親ストレスも抱えはじめます。ストレス源が複数あるので、その状態がずっと続くと、どれだけメンタルが強い人でもバテてしまいます。
そもそも、この年齢で抱える問題は「解決」ができないものばかりではと思います。ですから、ストレスは仕方がない。そのストレスから自分を「ゆるめる」方法をいくつか用意しておくといいでしょう。
たとえば温泉に行く、運動するなど、具体的なものでもいいですし、テレビをぼーっと見る、ふっと力を抜いて呼吸をするなど、漠然としたものでもいいです。
現代社会を生きることはとてもストレスフルなことです。どうか疲労を明日に残さず、こまめにオフしていってください。
「東洋医学の叡智」がぐんと身近に。わかりやすい4タイプでアプローチ
川鍋先生が所属する北里大学東洋医学総合研究所は、「東洋医学の叡智」に基づく国内屈指の漢方診療を実践し、WHOからも日本の伝統医療である漢方の代表施設と指定されました。
医師18名、鍼灸師6名を擁する自由診療の診療・研究機関で、遠方などで来院が困難な方でも受診しやすいオンラインでの漢方診療も行っています。
10月に小林製薬から新しい漢方薬シリーズ「漢方ヒロレス」が発売されました。
この「漢方ヒロレス」は、一人ひとりの心身全体の状態を把握した上で、お薬を調合してくれる漢方薬局の考え方をヒントに開発されたものです。
疲労のタイプ別に、漢方がアプローチ。一時的な対症療法ではなく、疲れのタイプに合わせた原因療法を提示します。
体力低下/血行不良/眠れない/気が休まらない
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