なぜ、あなたはいつもクズ男を好きになってしまうのか?

2020.03.19 LOVE

「恋愛について(その1)」において、私は「恋愛というものは、発情期の性欲に刺激されて見る幻影か、孤独な人生からの現実逃避の装置でしかない」と書いた。それは事実で真実です。お金と性欲の管理ができていれば、世渡りは無事に普通にできる。恋愛そのものはどっちでもいいのです。

 

ただし、恋愛という精神活動において、初めて人間は「他人」に出会う。自分という人間に出会う。考えるようになる。図らずも、あなたは哲学者になる。恋愛に意味があるとすれば、この一点のみにおいてだ。

 

あなたが好きになった人は、あなたにとって謎になる

ある日、あなたの心にスイッチが入る。ある特定の人物に強烈に惹きつけられる。その人物についてCIAのごとく調べ上げるようになる。

 

しかし、その人物がどういう人間であるのか、あなたには、ほんとうにはわからない。他人は謎だ。解剖してもわからないであろう謎だ。

 

非常にナイーヴというか単純な類の人間は自他の区別がつかない。好きになった他人を自分と同一視する。その他人の考えや感じ方が自分のそれらと同じであると思い込む。ストーカーがこれだ。

 

あなたは、そこまでお馬鹿ではない。かわりに、生まれて初めて「他人」というものの存在を重く深く熱く感じる。空間から自分とその「他人」以外のすべてが消える(ように感じる)。

 

恋愛という精神活動において、初めて人間は「他人」に出会うと、先に私が書いたのは、そういう意味だ。

 

通常は、人間は自分のことにしか関心がない。世界には自分しか存在していないかのように。同居している家族のことさえ、ろくに知らない。私は、両親を亡くしたそれぞれのときに愕然とした。長年つきあってきた自分の両親について、自分がほとんど何も知らないということに気がついたから。

 

ともかく、あなたが自分と一体化していて欲しいのに、絶対にそうはなれないあなたとは別の存在に出会うのが恋愛だ。

 

あなた自身が、あなたにとって謎になる

同時に、あなたは、その恋愛と呼ばれる精神の錯乱に陥っている自分自身を不思議に思う。私に、こんなところがあるのかと驚く。あなたは、あなた自身が知らないあなた自身に出会う。

 

理由にもならない理由で人は恋する。横顔が素直に寂しそうだったんで、好きになる。猫背の背中の丸さが優しげなので、好きになる。物の食べ方だけ、やたら綺麗なので好きになる。トランクス一枚になっても品があるので、好きになる。

 

「無職なのに就活せず、お金を貸しても返さず、プライドだけ無駄にあってナルシストのくせに気が小さくて虚言癖があるけど、好きだわ!」という変態趣味は意外と多い。

 

脳科学者の中野信子氏も『空気を読む脳』(講談社、2020)において、「女性は、サイコパス、マキャベリスト、ナルシストの3要素を持っている男性に惹かれやすい」と書いておられる。

 

変態趣味もいれば、限りなく打算に近い恋愛もある。「彼は東大の理系出身で、財閥系大企業の社員で、頑健で、長男じゃなくて、ついでにお母さんが死んでるから好き!」という類の恋愛である。

 

それはさておき、ともかく、他人を深刻にどうしようもなく好きになって初めて人間は考える。その他人がわからなくて考える。自分で自分がわからなくて考える。思うようにならなくて考える。その思考は誰とも共有できない。だから、あなたは自分が孤独だと切実に思う。あなたは、あなた自身の、誰とも共有できない濃密な時間の中にいる自分を意識する。それこそ、物事について考える人間存在の始まりだ。哲学の始まりだ。

 

恋愛は人間を哲学者にする。恋愛に意味があるとしたら、それだけだ。では、哲学者になると、どうなるか? それは次回に!

 

[caption id="attachment_158811" align="aligncenter" width="272"] 馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください 藤森かよこ著 KKベストセラーズ[/caption]