日本のコロナ対策は成功したのか?死者ゼロのベトナムを見る【コロナ後の世界#2】
特定行政書士・社会学者の近藤秀将です。
前回は、モンゴル国ウランバートルの現状を取り上げましたが、今回は、私が特任教授を務めるベトナム国立フエ科学大学があるベトナムの古都、フエ (Huế)の現状についてご紹介したいと思います。
ころ
「フエ」とはどこにあるのか?まずは簡単な説明から
ベトナム社会主義共和国 トゥアティエン=フエ省(Tỉnh Thừa Thiên-Huế)の省都(フエ Huế)。
ベトナムの中部に位置するフエは、現在のベトナムとほぼ同じ領域を支配した統一王朝、阮朝(グエンちょう Nhà Nguyễn 1802~1945年)の都として歴史を有する都市です。
そのため「ベトナムの古都」と言われ、王宮等が「フエの建造物群」として1993年に世界遺産に登録されています。人口は、約50万人、フエ大学グループ(詳しくは文末)を中心とした学園都市として顔を持つ文化都市で、日本とは京都市や静岡市で友好都市等になっています。
フエは、フォン川(Hương Giang)によって、旧市街地と新市街地に分けられています。
旧市街地は、緩やかな時間の流れを感じさせる城壁都市。王宮等を中心とした古い町並みがあります。
新市街地は、活動的で新しい流れを生み出す現代都市。高層ビルや繁華街等があります。
ハノイ(北部)やホーチミン(南部)に比較するとフエがある中部の経済的発展は遅れています。
最近、ベトナム中部は、フエから車で二時間ぐらいにあるダナンが、美しく長く弧を描く砂浜を持つリゾート地として開発が進んでいますが、まだ「貧しさ」を感じさせる風景に出会うのが珍しくありません。
一方、やはり中部にもダナンが牽引する形で経済発展の兆しがあります。
私が、授業でフエに行ったときに、必ず利用するのが新市街地にあるVINCOM PLAZAです。
これは、ベトナムを代表する企業グループ「VINグループ」が経営する商業宿泊一体型施設であり、フエにおいては群を抜いた高層ビルとして圧倒的な存在感があります。
ある意味、王宮と対をなすフエの象徴といえるでしょう。
完全に日常が戻っている。フエの「いま」の姿とは?
さて、現在のフエは、新型コロナによる「制限」は、ほとんど見られません。
学校も再開され、飲食店も賑わっています。
私が特任教授を務めるフエ科学大学にも日常的な風景が戻ってきています。
日が暮れて涼しくなると、カフェから大音量(爆音)のダンスミュージックが流れ、若者達がバイクで集まってきます。
私がフエの街を歩いて感じたのは、昼間よりも夜の方が、街が活気づいているということです。
これは、”歓楽街的活気”ではなく、街が本質的に有する”日常的活気”といえるものです。
歩道にテーブルとイスが並べられ、老若男女問わず楽しそうに食べたり、飲んだり、そしてコミュニケーションを取っている。
その周りでは子ども達が、楽しそうに走り回っている。
そんな”日常的活気”が、日が暮れてから立ち現れてするのは、日中が暑い国だからなのでしょう。
さらに、先日は、”ザ・三密”であるカラオケ・クラブも解禁されました。
もはや、そこには新型コロナの影響は見られないといっても良いほどです。
このようにフエは、少なくとも表面上は”ウィズコロナ”ではなく”アフターコロナ”といえるようになっています。
実はほとんど感染者が出なかったベトナム。その決定的理由は
そもそも、ベトナム全体で新型コロナウイルスの感染者は332人(回復者316人)、死者は0です(6月8日現在)。
また、フエ市があるトゥアティエン=フエ省(Tỉnh Thừa Thiên-Huế )では、感染者は2名だけであり、既にこの2名は回復しています。
日本を含めた他の国とは異なり、ベトナムは新型コロナウィルスをコントロールできているといえるでしょう。
その理由としては、ベトナムが、モンゴルと同様に厳格な感染拡大防止策を取ったからです。
やはりスピード勝負だった。ベトナム政府の完全なる対応とは
ベトナム国内で初感染者確認は、2020年1月下旬。
その後のベトナム政府の対応はスピード感に富んだものでした。
この感染者及び接触者を隔離し、2月上旬には過去14日間に中国滞在歴が外国人の入国を禁止。
3月に入ると、入国者全員隔離、査証発給及び査証免除停止等の徹底した水際対策を展開しました。隔離対象となった外国人等は、延べ約100万人といわれています。
これらを時系列を挙げると次の通りになります。
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①3月21日 ベトナム入国者に対する集団隔離実施
②3月21日 日本に対する査証免除措置停止
③3月22日 外国人入国全面禁止
④3月23日 ベトナム航空日本便停止
⑤3月25日 ベトナム航空全国際線運行停止
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このたった5日の間のに行われた①から⑤を見ても、ベトナム政府の迅速な感染拡大防止策を理解できると思います。
だからこそ、ベトナムは、他の国に先駆けて”アフターコロナ世界”へ向かうことができたといえます。
ベトナムに学ぶ、今後の「海外からの客」の受け入れ方とは
なお、現在ベトナム政府は、原則として外国人の入国を禁止していますが、例外として、新型コロナウィルス非感染証明書(以下「非感染証明書」)を提出した場合には、経営管理者、専門化等高度人材については入国を可能としています。
もっとも、日本国内状況において非感染証明書を入手することが難しいことから、事実上日本とベトナムの行き来は途絶えたままです。
もし、非感染証明書を入手して入国できたとしても、14日間の隔離が厳格に義務づけられています。
また、日本政府もベトナムをはじめとしてタイ、オーストラリア、ニュージーランドについては、今夏にも、1日最大250人程度の入国を認める方向で調整しているとの報道がされています。
ただし、この対象者は、ビジネス目的の外国人で、彼らには入国前と日本到着後のPCR検査を義務づけることや、スマホで位置情報を保存することなどの条件が付けられると言われています。
(FNNプライムオンライン『タイ・ベトナムなどからビジネス目的の入国緩和へ』2020年6月11日 )
日本政府のこの緩和措置は、私が考えていたよりも慎重なものでした。
はっきり言って、ベトナム人等が来日するコスト(時間・金銭等)が、これまでよりも格段に増加します。
この増加したコストは、誰が負担するのか明確になっていません。
少なくとも、日本企業等は、喜んでは負担しないでしょう。
そうすると、来日するベトナム人等に増加した負担分が押し寄せることにもなりかねません。
実は「確実な入国予定」は管理できない。日本の入管も確実に混乱する
また、”最大250人程度”という中身は、在留外国人構成比からすると、その大部分がベトナム人と予想されますが、この量的制限から日本政府が外国人の流入について非常に警戒していることが理解できます。
そもそも一日の入国人数を制限するには、日本の出入国在留管理局が、当該外国人達の確実な入国予定を事前に把握する必要があります。
つまり、当該外国人達が母国から出国する時点で「日本入国予定である」ことを日本の出入国在留管理局が確実に把握するということです。確実な入国予定の事前把握は大変に難易度が高い。
ベトナム・タイ・オーストラリア・ニュージーランドの四カ国だけとはいえ、この運用をどうするのか?
どちらにせよ、かなり混乱が予想されます。
やはり、コロナ以前のような状況に戻るには、まだまだ時間がかります。
むしろ、もし”第二波”の兆候が顕在化すれば、すぐに緩和措置等は撤回されます。
実際、既に中国北京では、6月12日から集団感染が発生し、”第二波”の兆候を見せ始めています。
(JIJI.com『北京の市場で集団感染 12日に6人、拡大の勢い―無症状46人が陽性・新型コロナ』2020年06月13日/BBC News Japan『北京で新たに100人の感染者、規制強化 ロックダウン拡大』2020年06月16日)
これは、中国北京のことですが、日本とベトナムを含めた全ての国で、同様のことが起きる可能性があります。
では、どうすればいいのか。日本が進むべき道は「シンプル」
ワクチンが開発・実用化され、それが日常的に使用できるまで、表面上は”アフターコロナ”に移行できたとみえるベトナムでさえ、”ウィズコロナ世界“の一員であることには変わりありません。
そして、ワクチンの開発・実用化等には、“数年かかる”といわれています。
この”ウィズコロナ世界”の数年間は、これまでの慣習、常識、そして計画等は通用せず、再構築を強いられ続けます。
不確定で不安定な状況の継続的結果。
だからこそ、私達は、”ウィズコロナ世界”で生きていくための思考の再構築=「進化」が求められます。
不確定で不安定な状況を前提として、それでも可能な限り確定・安定できる”部分”を確保する。
そして、この確定・安定した”部分”を増やす努力をしていく。
“ウィズコロナ世界”に必要なのは、“ビフォアコロナ世界”で当たり前のように行われていたオペレーションではありません。
つまり、今話題になっている持続化給付金事業等における「中抜き」のような〈古典芸能〉ではなく、需要者と供給者が直接結合するシンプルなオペレーションです。
中間搾取の構造がコロナとともに終わる。世界はより単純になっていく
世界を、より単純な構造にする。
私が専門とする入管手続(イミグレーション)においても、ブローカーのような中間搾取者の存在感が低下していくことでしょう。
例えば、ベトナムの学生と日本の中小企業との直接のマッチングが可能となるはずです。
「中抜き」をする中間搾取者は、徒らに世界を複雑にしていきます。
彼らに抗い、シンプルなオペレーションを実現することを目指す。
いま、私達は、「進化」しなければならないのです。
・国立フエ大学グループ
1803年に設立された帝国大学を母体とし1957年に創立。現在、8つの直轄大学(フエ教育大学、フエ科学大学、フエ医科薬科大学、フエ農林大学、フエ芸術大学、フエ経済大学、フエ外国語大学、フエ法科大学)と4の学部(観光学部、体育学部、国際学部、工業技術学部)、そしてクワンチ支部等がある、ベトナムでも有数の国立大学である。
ベトナム国立フエ科学大学における筆者の実践『在外キャリアデザイン論』KIS-GEインターンシッププログラム
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