「収入ゼロ、私は路上生活になるの?」40代の彼女は大声で泣いた

コロナで直撃を受ける業種はつらい局面を迎えています。たとえば、旅行会社大手のJTBは夏のボーナスゼロと発表しました。

とはいえ、お給料そのものは出ているのが会社員のメリット。倒産しなければ給与は支払われるほか、年金や健康保険など社会保険の恩恵もあります。

いっぽう、私をはじめとするフリーランス業はそうはいかず、いきなり収入ゼロという話も珍しくはありません。

アフターコロナ、ウイズコロナというけれど、そんなことを言っていられない人もまだまだ多いのです。

5月に私のもとに相談に訪れた、40代のフリーヨガインストラクターもその一人です。

 

35歳で独立、順風満帆な暮らしだったのに…一気に暗転

相談者・早苗さんのプロフィールをご紹介しましょう。なお、個人特定を避けるため若干のアレンジがあります。

 

早苗さんは現在43歳、独身です。体育大学を卒業後、スポーツジムインストラクターとして勤務し、35歳で独立しました。ヨガ教室や介護施設などと契約しているフリーのヨガインストラクターです。

 

2020年5月初旬、「コロナで3月以降仕事がなくなって、無収入です。これから毎月の支出を考えると家賃も払えず路上生活になるのではと不安。どうしたらよいか?」と相談に訪れました。

収支

月収:手取り25万円

支出:25万円

内訳

家賃:5万円
食費:4万円
水道光熱費:1.5万円
スマホ代:1万円
雑費:1万円
外食・レジャー:2万円
生命保険:1.4万円(終身保険1万円、医療保険4000円)
ヨガ他自己研鑽の研修:1.5万円
社会保険:3.6万円(国民年金と国民健康保険)
所得税用積立:2万円
貯金:2万円

貯金残高 40万円(所得税用 10万円、普通預金 30万円)

 

がんばりやさんの、理想的なしっかりとした家計だった

この早苗さんの家計やりくりを見て、どう感じましたか?

 

カウンセリング前にこの収支を見て、FPとして、真面目できっちりした方という印象を受けました。しっかり確定申告の時に支払う所得税用に貯金をして、毎月定額の貯金をしている。しかも、自己研鑽も怠らない。

 

実際お会いしてみると、さすがヨガのインストラクター。まとめ髪がよく似合うスレンダー美人でした。しかし、顔色は青ざめやつれてみえました。

 

ずっと一人で我慢していた。一気にあふれ出た早苗さんの感情

「私、夢があったんです。お金や時間があってスポーツジムに来られる人だけではなく、年配の方や子どもたちにも身体を動かす楽しさを伝えたくて」。

 

こちらが話しかける前に一気に語りはじめた早苗さん。3月に仕事の依頼が途絶えてから、一人で自宅にこもってほとんど人と会話せず、実家にも心配をかけまいと連絡をとらなかったそうです。

 

35歳で自分のしたいように仕事がしたいと正社員として勤務していたスポーツジムを退職。それまでのお客様の紹介で自分のやりたい現場を選び、自己研鑽のための研修をして、少しずつ収入を増やしました。

 

「やっと手取り25万円になったんです。いろんな繋がりで、お仕事も定期的にいただいて安定していました。でも、コロナの影響で週5本入っていたスポーツジムは休館。介護施設でのヨガ教室も当面中止、その他イベントでの登壇行事もすべて中止。

 

正社員ではないし、きっちりした契約書を交わしていたわけではないのでキャンセル料などもちろん入りません。思いがけず無収入になってしまいました」

 

雇用保険のある勤務であれば、失業給付金がもらえます。が、フリーランスは対象外。もらえそうなのは国民一律給付の10万円くらいしかない。今にも泣きだしそうに声を詰まらせながら続けます。

 

「給付金が入ったとしても来月末には貯金が底をついてしまう。電気も水道も止められて、家賃も払えくなれば住んでいられない。私、このまま路上生活ですか……? 自分が選んだ人生って間違いだったんでしょうか?

 

ジムを退職せず正社員のままいれば、ある程度給料も保障されていたし、クビになったとしても失業保険があったはずですよね? ほんと、後悔しかない……」。

 

そう必死で訴えながら、とうとう早苗さんは泣き出してしまいました。

 

一緒に泣きたくなる私。でも、気持ちを抑え、私の思いを伝えました。

 

「お会いする前に家計の資料をいただいて、自分の想いをしっかり持つ芯のある女性なんだろうなって思って。お会いすることを楽しみにしていたんですよ」。

 

早苗さんは嗚咽するようにさらに泣いています。後悔したくない人生を後悔しなくてはいけない現状に一人で思い悩んでいたのだと思います。

 

「今、コロナの影響で収入が減って困っていらっしゃる方が沢山いらっしゃいます。そのため国や企業が様々な策をだしてくれています。思いがけないことを乗り切るため、早苗さんが対象になるものを確認してみましょう」

 

「え? 私、路頭に迷わなくても大丈夫なのですか?」

 

「お客様と接するお仕事なので、しばらく収入がもとに戻ることは難しいかもしれません。でも、今できることを一つひとつしてみましょう」

 

ゆっくりと伝えると、早苗さんの涙は少しずつ落ち着きました。

 

実際に何ができるのか。私が早苗さんに伝えた6つのこと

この先は、すべてのフリーランスの人に知っていただきたい内容です。

 

まず、国や企業の施策で、支払いが困難な場合に猶予してもらえるものは手続きをしましょう。

 

①国民年金

収入によって、全額または一部の国民年金保険料の猶予を受けることができます。払えるようになれば、追納することもできます。猶予手続きをせず、払い込みをしないままの状態は避けてください。なぜなら、万が一障害を負っても障害年金の対象にならないからです。猶予手続きをしておけば対象になります。詳しくはお住まいの市区町村の年金の窓口またはお近くの年金事務所へ。

 

②国民健康保険

コロナウイルスの影響で収入が減った場合、お住まいの市区町村の国民健康保険窓口に手続きをすれば免除か保険料減免措置を受けることができます。

 

③生命保険

一般的には2カ月残高不足になると保険の効力がなくなる「失効」になってしまいますが、保険会社にコロナウイルスの影響でと払込猶予について相談すると9月末まで(保険会社により対応は異なる)払い込みを待ってもらえます。ただし免除ではないので、支払わなかった期間の保険料を一括で払いこむ必要があります。

 

④持続化給付金

個人事業主も対象です。昨年度より収入が半分以下になった月があれば対象に。計算してみると早苗さんは100万円もらえそう。ウェブ上での手続きなので、「持続化給付金」で検索してください。

 

このほか、早苗さん自身の暮らしのさらなる見直しも必要です。

 

⑤資金計画の立て直し

今後、仕事がもとに戻ったとしても、フリーランスには退職金はありません。国民年金と厚生年金がついていた時代の分を合わせても老後もらえる年金はおおよそ1ヶ月8万円。仕事がないけれど時間がある今のうちに老後資金形成をふまえた資金計画をたてていきましょう。

 

⑥小さな家計の見直し

たとえば、スマホ1台で1万円は少し高め。格安スマホに見直して月3000円程度に抑えます。

 

あきらめないで、あなたにあった解決策が必ずある

政府や企業は様々な施策を打ち出していますが、多岐にわたるので情報にたどり着きにくいのも事実です。「大変な今」しか見えず、早苗さんはさぞかし不安だったことでしょう。

 

できること、もらえる給付金を知ってカウンセリングが終わるころには笑顔が戻ってきました。今後の働き方や長期的な資金計画を今後も引き継続きお話していく予定です。コロナがあっても、やはり会社勤めは強い。労働者として守られていると感じました。

 

私自身感じていることは、フリーランスは、守られていないけれど自分の時間が自由に使えるのが魅力。お金には代えがたい時間をどう使うか、どうお金にしていくか自分次第です。みんなちがってみんないい。金子みすゞの詩を思い出しました。

 

稲村優貴子
ファイナンシャルプランナー(CFP🄬)、心理カウンセラー、ジュニア野菜ソムリエ
大手損害保険会社に事務職で入社後、お客様に直接会って人生にかかわるお金のサポートをする仕事がしたいとの想いから2002年にFP資格を取得し、独立。現在FP For You代表として相談・講演・執筆活動を行っている。日経ウーマン、北海道新聞などへの記事提供、テレビへの取材協力など各メディアでも活躍中。著書『年収の2割が勝手に貯まる家計整え術』河出書房新社。趣味は、旅行・ホットヨガ・食べ歩き・お得情報収集。FP Cafe登録パートナー。

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