じらされてじらされて、最高潮を迎える夜。求められることがこんなに嬉しいなんて

2021.05.18 LOVE

後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。

不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。

【不倫の精算#31後編】

この記事の前編はこちら

 

相手を傷つけたら申し訳ない…NOと言えないオクテ女子

「まさか自分が不倫なんて」

その日、待ち合わせたカフェでNさんはまた繰り返していた。

 

結局、最初の誘いに乗ってから、既婚の彼は遠慮なく距離を縮めてきた。

 

LINEにはさまれる「好きだよ」「今日もかわいかった」の言葉、気がつけば週末ごとになった居酒屋でのデート、個室では色気のある会話にふと伸ばされる手、それらの大きな刺激は、Nさんの抵抗をどんどん奪っていった。

 

好きだと正面から告げてくれる男性の存在は、「それが既婚者であっても」Nさんにとっては誘惑になる。

真面目で純粋だからこそ、不倫という不毛な関係の前に男性の思いを真摯に受け止めることを考えるのだ。

 

「そのときは、進むことしか考えられなかったんだよね」

 

目の前でため息をつくNさんを見ながら、慎重に言葉を選ぶ。

仕事上でも顔を合わせる機会が多いならなおさら、きっぱりと拒絶することはNさんには難しかっただろう。

 

そこにつけこむように、既婚の彼はNさんに甘い言葉を投げ続け、スキンシップを増やし、最終的にはホテルに行く流れを完成させた。

まさに「完成させた」と言えるほど、Nさんから拒絶の言葉を奪い、好意を受け止めるよう促し続ける会話がLINEには残されていた。

 

こうして、Nさんは既婚の彼に絡め取られた。

 

一度おぼれると戻れない。あまりの快楽の大きさに

だが、いざホテルに入ったとき、Nさんは「自分たちの関係は不倫になる」という事実を忘れていたそうだ。

 

そのときの状況を以前電話で話してくれたが、“今からベッドで抱き合う”ことにNさんは夢心地になっていて、目の前の彼しか見えていなかったという。

 

「あ、私もこの人のことが好きだったんだなって、はっきりわかって。

彼も、あの、すごく優しかったし……」

 

そう告白するNさんの声は、不倫を恥じると同時にベッドでの快感に心をさらわれるような、別の羞恥心が混ざっていたのを覚えている。

 

さんざん心を揺り動かされた末の交わりは、思いもしなかった熱を持ってNさんを侵食したことが伝わった。

だから別れられないのだ。

彼氏が何年もおらず、結婚も未知の世界であるNさんにとっては、「それが不倫であっても」心と体を深く満たしてくれる男性は離れがたい。

 

これまで知らなかった、“男性に圧倒される自分”を見せてくれる。

 

それが既婚男性の策略だとしても、オクテで真面目だから狙われたのだとしても、一度落ちてしまえばNさんも同罪になる。

 

既婚男性によって完成された不倫関係。

客観的に見れば確かにそうだが、Nさんには、人生でそう経験できない「求められる快感」を与えてくれる存在だった。

 

そして始まる、「別れなければ」と「続けたい」の葛藤

肉体がつながった後は、Nさんと既婚の彼はどんどん感情をあらわにしていった。

 

仕事中は目の前にいる彼の姿に見とれ、こっそり送られてくる「愛してる」のメッセージに心臓が波打つような刺激をもらい、帰宅してからは「早く会いたい」とこちらも熱っぽく伝える。

 

「普通に付き合っているような感じだった」

 

とNさんは話していたが、妻の存在をうまく隠している既婚男性のメッセージは、「その事実を目の当たりにするとNさんが正気に戻って不倫をやめてしまう」ことをよく見抜いていると思った。

 

「別れないと、とたまに思うんですよ。

これからどうなるんだろうと思うと不安ばっかりで。

でも、会うとダメなんですよね」

 

背もたれから体を起こして、Nさんはアイスティーのストローに指を伸ばす。

会ってからずっと、「別れなければ」「でも」「自分が不倫なんて」を延々とローテーションさせながら、Nさんは陰りのある表情を変えずにいた。

 

別れたら仕事の上でも気まずいから…そんなの言い訳になるの?

「続けることのデメリットを、もう一度考えてみてよ」

こちらが返す言葉も、自然とこんな内容のローテーションになった。

 

デメリット……とつぶやきながら、Nさんはグラスを覗き込む。

「仕事が……。

仕事でどうしても会っちゃうのが問題なんですよね。

彼のほうが私より上の立場っていうのもあるし、別れたらどんな扱いを受けるか……」

 

だから不倫を続けるしかない、とまでは言わないが、そんなストレスを受けるくらいなら彼の言いなりがマシと思う気持ちはよくわかった。

 

「だからって、今あなたが無理を強いられるようなことがあったら本当にダメだけど」

そう言うと、Nさんは慌てたように顔を上げた。

 

「いえ、そんなことはないです。

無理はしていないし、逆にひいきみたいなこともされてないです。

だから」

あの人を、信じたいんです。

 

言葉にされなかった本音は、最初「既婚者だからおかしな関係にはならない」と信じていた彼女の姿を思い出させた。

 

目を覚まして。あなたの堕ちた罠には救いがない。逃げて

Nさんから、ある願いが一言も出ないことに気づいていた。

 

「彼と幸せになるには、どうすればいいですか」

 

この絶望的な言葉を、一度も聞いたことがなかった。

 

思い詰めた人は、現実を変える方法を知りたがる。

愛情が強くなりすぎて、不倫という後ろめたい関係がつらくなって、何とかして「現状を打破する」ことを考えるのだ。

Nさんは違った。

 

彼女の頭にあるのは、「現状維持」か「終わり」かの選択。

 

彼に離婚を迫るとか、奥さんについて情報を集めるとか、自分が異動するとか、みずから動くことは頭になく、“今のまま”か切るかしか、考えていないのだ。

 

不倫の「現状維持」は、Nさんが思うよりおそらくずっとつらい。

相手は家庭も不倫も楽しみ、かたや自分は日影の身として日常の隅に据え置かれる。その現実は、ひたすら精神を削っていく。

時間が無駄になるばかりでなく、自尊心も次第に薄らいでいくのが不倫の現状維持なのだ。

Nさんが正常な精神を持っているうちに、この現実に気づいてくれればと思う。

 

「あの人を信じたい思い」が壊れる瞬間は、きっと彼女を苦しめる。

真面目でオクテで不器用だからこそ、今のつながりは自分を裏切り続けるのだと知れば、立ち直れるはずなのだ。

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