求め方のおかしい男。もっともっと、その不倫は狂っていく

2021.05.25 LOVE

後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。

不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。

【不倫の精算#32後編】

この記事の前編はこちら

 

記入済み離婚届まで送ってくる既婚男の「離婚するする」本気度とは

自分の欄を埋めた離婚届を不倫相手に見せ、離婚について一緒に妻を説得してほしいと頼む既婚男性。

ここで不倫相手の女性が一も二もなく承諾したら、男性はどうするのだろうか。

不倫相手を家に招き、妻に向かって離婚してくれとふたりで頭を下げるのだろうか。

 

……本当に?

「そもそも、本気かどうかってことよね」

小鉢を手にしながら言うと、Oさんもお椀を持ってうなずいた。

 

「そこです。

必死すぎて怖いです。

でも、あの人が本気でも私は行くつもりは絶対にないし」

 

声色を変えず話すOさんからは、既婚の彼への愛情は感じない。

「それに」

お椀を戻して春雨の入ったお皿に箸を伸ばし、Oさんは続けた。

「本当に私のことが好きなら、私の力を借りなくても離婚できるんじゃないですか?」

 

なんで既婚男の離婚にあなたが関わるの?何を求められてるの?

ああ、この人は本当に不倫を繰り返してきたんだな。

その言葉を聞いて、不倫する既婚男性のずるさを見抜いている冷静さが伝わった。

 

「そう、その通りだと思う」

「ですよね」

うわあ、これすごく美味しい、と笑顔を浮かべるOさんには、「不倫相手が本気になって困っている」感じは微塵もない。

 

離婚はあくまで相手の問題であって、不倫相手である自分が巻き込まれるなんて、まっぴらごめん。

無責任と思われようとも、お互いに自分の意思で不倫関係を選んだのが事実。

既婚者側の離婚について不倫相手が加担することは、泥沼になる流れしか生まないと思うが、Oさんもまたその現実を想像しているのだった。

 

「本当に好きなら、離婚に私を巻き込むことは考えないでしょう」

「私が出ていって奥さんが納得するのか、それですぐに離婚するのか、そんなわけないじゃないですか」

「これで奥さんから慰謝料とか請求されるのはイヤですよ」

 

箸を止めずにOさんは話す。

「そりゃ、既婚とわかっていて関係をもった私も悪いのはわかっていますけど」

そう言ったときだけ、バツの悪い表情を浮かべてこちらを見た。

 

そもそも、既婚男性との関係を「あえて選ぶ」のはなぜなのか

だが、Oさんのきっぱりとした態度に引っかかりを覚えていた。

 

「ねえ、どうして不倫なんか、あなたが」

そんなことをしなくてもあなたなら、と続けようとしてためらい、中途半端な言葉になった。

 

メインのトンカツを頬張っていたOさんは、きょとんとした顔で口を止めた。

 

「不倫って、確かによくあることだけど。

そこまでわかっていて、どうしてわざわざ既婚者の誘いに乗るの?」

 

不倫ならなおさら、別れたいと思っても相手が同じでなければ大変で、とんでもない泥沼に発展することも少なくない。

 

それは、「不倫相手の配偶者に慰謝料を請求される」「会社に知られたら懲罰を受ける可能性がある」など、不倫はどんな方向から見ても大きなダメージを受けることを避けられない関係だからだ。

 

それを理解していないはずがなく、だから不具合が生まれたらすぐに切ることを繰り返してきたのだと思うが、正直にいってそれは今までが幸運なだけなのだ。

 

「独身の男って、付き合うまでが長いし、腹の探り合いとかもあるじゃないですか。

それが普通だとわかっているんですけど、億劫というかまだるっこいというか。

結婚している男は逆に単純ですよね、目的が決まっているから簡単に付き合えるし。

しかも堂々とはできないから、私は彼氏募集中とか言ってもOKだし」

 

箸を持つ手を下げて、Oさんは淀みなく答えた。

まるで、常に用意している言葉のように。

 

「ルール」を作れば絶対大丈夫だとでも思っているの

「ばれたときのことは考えないの?」

そう言うと、Oさんは眉を下げて少し笑った。

 

「だから、ばれないように考えるんですよ。

LINEでのやり取りは最小限にするし、待ち合わせは○○ってアプリでしています。

電話はLINEの無料通話だし、スマホの履歴には残らない設定にしてもらって」

 

先ほど、彼女は「別れた後も気まずくならないテクがある」と言い切った。

自分ではうまく立ち回れている、と思っているのだ。

 

「相手には、こういうふうにしてくれないなら関係は持たない、とはっきり言っています」

Oさんには自信がある。

気軽に不倫を楽しみたいからこそルールが重要で、そこを徹底していれば間違えないのだと。

 

だが。

「……でも、ねえ、その人LINEに写真を残しているよね、離婚届の」

そこをどうしてスルーしているのか、違和感があった。

「……」

Oさんはこちらを見つめたまま黙った。

「写真だけで前後にメッセージはないけど、これを送る相手がどんな存在かって、世間一般から見ればすぐ思い当たるんじゃない?」

 

あなたは証拠を残してしまった。不倫に「絶対安全」はない

後ろめたい関係を順調に進めたいとき、絶対に忘れてはいけないのが「痕跡を残さない」ことだ。

それはお互いが同じ慎重さを持たないと叶わない部分で、バランスが崩れると一気に危険度が高まる。

友人にバラされるだけでもダメージがある。

 

人の気持ちはコントロールできない。

自分が強いるルールから相手が外れる瞬間は、いとも簡単に訪れる。

 

既婚の彼の本気度がどうであれ、こうして相手側のスマートフォンには「証拠」が残ってしまった。

どうしたって、リスクは高いのが不倫なのだ。

 

「……」

Oさんから返事はない。

虚を突く話題では決してなかったはずだ。

慎重にやってきたからこそ、“そこ”があとあと大きな問題になる可能性がある、と真っ先に気がついてほしかった。

私たちは無言のまま食事を続けた。

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