「子どもを持たない女性」が先進国で増加している理由
近年、日本の特殊出生率(女性が生涯に産む子どもの数の平均)は、1.4程度と依然として低い出生率が続いている。少子化のバックグラウンドには、生涯子どもを持たない“おこなしさま”の増加がある。
お前らのような存在が日本の少子化を加速させるのだ。そんなバッシングを発する人たちは後を絶たないが、出生率の低下に悩んでいるのは日本だけではない。少子化は世界中の先進国で起こっている問題である。
世界各国の出生率はどれくらい?
主な国の出生率をみてみよう。内閣府の「世界各国の出生率」(2014年)によると、欧米では、アメリカ1.86、フランス1.98、スウェーデン1.88、イギリス1.81、イタリア1.37、ドイツ1.47となっている。フランスとスウェーデンでは、出生率が1.5~1.6台まで低下した後、回復したことから少子化対策の手本とされている。
アジアでは、タイが1.4(2013年)、シンガポールが1.25、韓国が1.21、香港が1.24、台湾が1.17と、日本を下回る水準となっており、先進国全体で低下傾向にある。
その背景には、子どもにかかる養育コストの増大、結婚・出産に対する価値観の変化、避妊の普及などがあったと指摘されている。
世界で“おこなしさま女性”が増加
出生率の低下は、子どもを産む数が少なくなっているのと同時に、世界中で未産の女性が増えたことを意味する。
イギリスでは、子どもがいない女性の割合は、1940年生まれでは11%だったが、1967年生まれでは19%と、30年前と比べると2倍近くまで増加している。(英国統計局の発表)
イタリアでは、ウォール・ストリート・ジャーナルの掲載された記事(2014年4月)によると、イタリア女性の4分の1(約25%)は、子どもを持つことなく生殖可能期を終えるとしている。
同じ境遇の女性の比率は、アメリカで14%、フランスで10%となっており、イタリアでは子どもを持たない“おこなしさま女性”の比率が高いことがわかる。イタリアの出生率は1.37と低いことも、そのこととリンクしている。
「子どもがいない方が幸せ」が過半数を超える
結婚して子どもを持つ人が大多数だった時代はあまりみられなかったが、近年は「子どものいる人生」と「子どものいない人生」では、どちらが幸せかという論議が世界各国で行われている。
アメリカのワシントン・ポストの記事(英文・2016年7月)に、子どもがいる夫婦といない夫婦の幸福度を調べた研究結果が掲載された。研究内容は、欧米を中心とした先進国22か国(日本は含まれない)を対象に、「子どものいる夫婦」と「子どもがいない夫婦」それぞれの幸福度を調査し比較している。
それによると、「子どもがいた方が幸せ」が上回ったのは、ポルトガル、ハンガリー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、フランス、ロシアの8カ国。
各国でポイント差はあるものの、他の14カ国では「子どもがいない方が幸せ」が上回り、スイス、ニュージーランド、イギリス、ギリシャ、アイルランドがポイント数は高い。なかでもアメリカは断トツの最下位で、その傾向が強かった。
子どもを持つ人たちからすれば、あり得ない結果だと思うが、紐解くと子どもを持つことで、負担が増大することが主な要因のようだ。とくにアメリカでは、有給の育児休暇がなく、出産育児手当などの制度が不十分であること。子育てには莫大な養育費がかかり、生活を圧迫することがあげられている。
対照的に、「子どもがいた方が幸せ」が多かった国には、広範な社会安全網と支援的な家族政策がある。要するに、子育て支援が不足している国は「子どもがいると大変だ」ということだ。
子どもがいても、いなくても生きやすい社会を
本来、子どもの有無で幸せが決まるものではないし、どちらを選んでも優劣はないはずである。一部では、いまだに「子どもを持ち親になること」は規範的な生き方であり、それが普通とみなされることがある。しかし、その考え方はすでに時代遅れといえるだろう。
先進国で少子化が加速している現代では、子どもを持たない“おこなしさま”の生き方は、新たなライフスタイルのひとつとして世界標準になりつつある。子どもがいても、いなくても生きやすい社会を築くことが、人々の幸福度を増すことに間違はない。
「子どもを持たない女性」が先進国で増加している理由 【おこなしさまという生き方 Vol.50】
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