また私はこんなクソみたいな男に貴重な残り時間を無駄に使って【不倫の精算#42】後編
前編「その男のモロな下心、気づかない?ナシ歴長すぎ女の「勘違い」って」の続きです。
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
わかってる、「カレは既婚者」。でも好きになってしまう理由
そのときのYさんを悔やんでも仕方がない。時間は巻き戻せない。
すっかり恋愛がご無沙汰だった彼女は、相手が結婚していることで「おかしなことにはならない」と逆に安心してしまい、警戒心を解いた。
その結果、
「はじめはプールで会った帰りにレストランとか行っていたけど、
LINEのIDを交換してからは週末にも誘われるようになって。
『単身赴任だから誰かに気を使うことはない』って言うのを真に受けていたのね。
それで、居酒屋で飲むようになって、気がつけば好きになっちゃった」
と、Yさんは既婚男性を本当に受け入れていた。
男性は、最初からそこまで狙って動いていたのではないだろうか。
Yさんはプール通いを続けていたが、ふたりで食事に行くようになってからは、男性をプールで見かけることはなくなったという。これは不倫相手を探していたという意図を裏付けてはいないだろうか。
これを「仕事が忙しくなったから」で済ませる男性に疑問を持たなかったのも、Yさんの甘さだ。
単身赴任でひとり暮らし、つまり独身とそう変わらない生活を送る既婚男性。大企業勤めで仕事能力が高く、口も達者で女性を喜ばせる言葉を難なく吐ける。
Yさんのように異性との親密なつながりから遠ざかっていた女性にとって、その姿は恋心を刺激する十分な理由だった。
相手は既婚者だが自由に会え、配偶者の気配はなく、独身同士のような時間を過ごせる。「求められる自分」にYさんが抗えなかったのは、久しぶりの非日常が幸せだったからだと思った。
もう出ていた結論と、改めて見つめる自分の気持ち
「いや、ごめん、蒸し返しても駄目だね」
そして今、Yさんはこの関係に悩んでいるのだ。
苦しむということは不倫の異常さを理解しているからで、これからについて考えたい気持ちを今は見るべきだった。
「ううん、私も今は馬鹿だったなと思っているから」
そう言うと、Yさんはやっと肩の力を抜いて薄く笑った。
心細さを感じさせる口元の歪みは、“また騙された自分”への絶望かもしれなかった。
「それで、悩みって?」
やっとカフェオレに口をつけてから言うと、つられるようにレモンティーのカップを持ち上げたYさんは、そのままこちらをまっすぐに見た。
「悩みじゃないわ。
もう決めた。
別れる」
吐き出された言葉には力がこもっていて、一瞬気圧された。
その声は決して投げやりな響きはなく、あらかじめこう言うと予感していたような重みがあった。
悲しい恋をする人たち。「正しく現実を見る」勇気を持ってほしい
そうか、やっぱり別れたくて苦しんでいたのだな。
交際の内容を聞かずとも、「その結論が出たのならよかった」とこちらも視線を受け止めながら返せる。
Yさんは続けた。
「あのね、まだ寝てなかったの。
この間ホテルに誘われたのだけど、一線を超えるのはどうしても怖くて。
『奥さんのいる人とこういうことはできません』って思わず言ったらね、彼、あからさまにがっかりして。
すぐそこにラブホテルがあったけど、その場でバイバイしたわ」
目をそらさず、言い淀むことなく、Yさんははっきりした口調で
「寝なくてよかったって、本当に今そう思っている」
と結んだ。
寝ていなかったのだ。
それは確かに「正解」であり、一方でそのときの彼女の葛藤を思うと、胸がぎゅっとなった。
肉体関係を持っていないなら、正確には不倫とは呼べない。大丈夫。
そんな見当違いな励ましが頭をよぎったが、黙ってYさんを見つめた。
「不倫は時間の無駄って、前に話したよね」
ふっと視線を外して手にしたレモンティーのカップを見つめながら、Yさんが笑った。
「うん」
うなずくと、ゆっくり一口すすったYさんは
「その夜、すごく惨めだったのよ。
ああまたこんなクソみたいな男を好きになってしまったって。
でもさ、寝てしまえばきっと、もっと惨めになるよね」
好きになっても、どうせ既婚者だから。
「……」
言外に浮かんだその言葉は、Yさんが正しく現実を見ていることを伝えてきた。
「そうだね、時間の無駄だよね」
利用されなくてよかった、と喉までのぼった言葉を押し留めながら、ただ同意した。
不倫に足を踏み入れることにブレーキをかけるのは、倫理観だけではない、自分を大事にしたい気持ちがあるからだ。
「……」
カップをソーサーに戻したYさんから、ほう、と大きなため息が漏れた。
不倫は時間の無駄。
それがわかっていても、恋心を止められずに沼に落ちていく女性は多い。
Yさんが留まれたのは、恋愛経験が少ないからこそ、先の見えない関係への恐怖が強いからだ。
時間と愛情を費やしても、幸せになるには気が遠くなるほどの障害があるだけではない、人に言えず祝福もされない関係など、この年で手にすることこそ惨めになる。
その現実を理解できているYさんが、次はどうか誠実な男性と知り合えることを願いながら、残りのカフェオレを飲み干した。
*このシリーズの一覧前編>>>「好きだけど」ブレーキをかけた独身女性の胸の内とは【不倫の精算#42】前編
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