「不倫バレせず逃げ切った」離婚妻、その心の葛藤って【不倫の精算#43】後編
前編「43歳の葛藤。バレなかった不倫は「なかったこと」ことにできる…?」の続きです。
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
自分が「不倫をされた側」になってわかる。こんなもんか、と
「そもそも先がないのよね、あの人と一緒にいたって。
それを実感したのよ、私もあの頃はまさか自分がこんなことになるなんて思いもしなかったから」
Zさんは淡々と続ける。
既婚の彼と別れてしばらく落ち込んでいたZさんは、サークルを辞めて彼との接触を断ち、普段の生活に戻っていた。
「振られた側」の彼女は、振った側の既婚の彼と同じように自分の家庭に目を向けるしかなかったのだ。
「あのときもそう言っていたよね」
と返すと、
「うん。今もそう思っているよ。
たとえば私が独身だったとしても、不倫じゃまともな恋愛は無理でしょう」
独身という言葉が出たのは、自分がもうすぐその立場に戻るからという予想が見えた。
あの頃の彼女は、自分自身が夫と別れて彼と結ばれるような選択を口にしなかったが、独身になったとしても結局は不倫、という不毛さに今の状態でも気がついていた。
既婚の彼と別れてから数ヶ月、Zさんから既婚の彼の話はまったく出なくなった頃に、今度は夫の不倫が発覚した。
今度は自分が「不倫をされた側」になった彼女だったが、覚えているのは
「男なんて、こんなものなのね」
と冷めきった口調で吐いた言葉で、孤独な自分を感じているのがひしひしと伝わった。
「自分もあの夫と同類なのだ」という事実は自分をどんどん追い詰める
夫の不倫がわかってからのZさんは、その前に既婚男性と肉体関係を持っていた自分を棚上げするような発言はなかったと思う。
それよりも、「こうやって不倫がばれるのね」とスマートフォンの通知に内容を出すことの危うさや、配偶者の目に入る可能性を甘く見てロックもかけずに放置する夫のだらしなさに引いていた。
夫の不倫を責めたい気持ちはもちろんあるが、どこかで「私も夫と同類なのだ」という罪悪感を無視できず、自分の不倫がばれなかったのは単に運がよかっただけ、の現実も目の当たりにしていたはずだ。
離婚を決めて証拠の写真を突きつけたとき、「真っ青になって慌てだした」夫の無様な様子を話してくれたが、それは「ヘタをすればそうなっていたのは自分」を同時に見ることになり、ひたすらに暗い気持ちであることは伝わった。
だから、慰謝料について「この人に迷惑をかけたくない」と言った夫について、愛情は尽きたがそれ以上追求はできなかったのだ。
「もう、いいの。そういうのは。
とにかく一刻も早く離れたい」
あのとき、絞り出すように続けた言葉は、夫と同類の自分に相手にまで慰謝料を請求するような資格はない、という絶望だったのかもしれない。
決して「夫に不倫された被害者」ではない、後ろめたい過去
「ばれなくてよかったよね」
あの頃からずっと、この言葉だけは言うまいと思って控えていたが、別居ができた今なら届けられると思って口にした。
卑怯でしかないこんな感想をZさんが受け取れるはずはなかったが、それでも、ここまで進んでしまったのならもう、実感として正直に伝えたかった。
「……」
Zさんは、案の定無言のまま大きく息をついた。
「そうね。
よかったと思う」
相変わらず暗い声で返してくるのは、自分の不倫を完全に過去として葬る機会が「夫の不倫」だった皮肉さから目をそらせないのだと思った。
何も知らない世間一般から見れば、彼女は配偶者に不倫された被害者だ。
だが、本人だけは、それが嘘である現実から逃げられないのだ。
「終わってしまったことだ」と折り合いをつけ、前を向くしかないからこそ
Zさんは別れた既婚の彼とは連絡を取り合わず、今の状態も伝えるつもりはない、とはっきり言った。
「ねえ、よく考えてよ。
お互いに帰る家があったあのときより今はまずいのよ、離婚に向けて話し合っていますってときなのだから」
「今の」彼女はシロだ。
不倫真っ最中のクロではない。
だからこそ、安易に別の男性の影をちらつかせることは、これからの彼女にとって良いことなど何もない。
真っ白なままで離婚までたどり着くことが、今の最善なのだ。
「何か手伝えることがあったら、するよ」
そう言うと、ふふっと笑う声が漏れた。
「ありがとう。
また知恵を借りたくなったらよろしくね。
今からは、悔いなく離婚することだけ考えるわ」
やっと明るい調子を取り戻した声は、前を向くしかない自分を改めて受け入れたようだった。
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この記事の前編>>>43歳の葛藤。バレなかった不倫は「なかったこと」ことにできる…?【不倫の精算#43】前編
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