「絶対に秘密よ」同僚に打ち明けた不倫の話が、秒で社内を駆け巡るまで【不倫の精算#52】前編
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
人の口に戸は立てられない。「不倫バレ」に悩む独身女性の憂鬱
39歳のIさんとは、SNSで知り合った。
私のアカウントに連絡をくれたIさんは、自身の不倫について悩んでいた。
婚歴のない独身で、実家で暮らしながら正社員として働くIさんは会社の上司と肉体関係を持っており、周囲に気を遣いながらの不倫は一年以上続いているという。
こちらが同じ市内に住んでいるのを知り対面での相談を希望され、会う約束をした。
Iさんの悩みは、「不倫を相談した同僚との距離感が微妙になった」ことだった。
「そのかたに避けられているとか、そういうことですか?」
と尋ねると
「そうじゃなくて、私が不倫していることをほかの人にも話してしまったようで、それで私が腹を立ててしまい……」
とため息をつきながら肩を落とす姿に疲れが見えた。
「え、あなたの不倫をほかの社員にも話したってことですか?」
驚いてそう返すと、
「いえ、私がしている、と名前を出したわけではないようです。
でも、うちの会社で上司と不倫している女性がいると、そんな話題で盛り上がったって報告してきて、何かもう……」
Iさんは額に手を当てて答えた。
彼女の憂鬱は、自分の不倫が同僚の好奇心を刺激したことにあった。
なんでそんな人に話してしまったのか…「相手を間違える」と起きること
「そのかたには何を相談したのですか?」
その日、いつも使うカフェで待ち合わせたIさんは、モスグリーンのニットにジーンズとスニーカーを合わせたカジュアルな格好で来てくれた。
肌色が良くツヤのある髪をさらりと流す姿は若々しく、椅子の座り方も注文を取りに来た店員への声のかけ方にも丁寧さがあり、しっかりした女性というのが第一印象だった。
だが、いざ相談の内容になるとブラウンのマスカラできれいに持ち上がったまつげを伏せる瞬間が多くて、心痛の深さを思わせた。
「相談というか、好きな人がいるけど既婚者で、って話したんです。
その日は一緒に残業していて、恋バナになったからつい打ち明けちゃったんですね。
で、相手は誰かってしつこく聞いてきて、逃げられなくて。それで不倫までバレた感じです」
そのときを思い出すようにぽつぽつと言葉を選ぶIさんは、運ばれてきた紅茶にも手をつけていなかった。
「嘘をつけなかったのですね」
「はい。
下手に違う人を出して勘違いされるのも嫌で……」
片思いかと思いきや相手とはすでに親密な関係にあり、しかも既婚者だから不倫。
そして上司。
そこまで知ってしまえば、聞いた側は嫌でもテンションが上がるだろうなと想像がついた。
「話す相手を間違えました」
そうつぶやいて、Iさんはまたため息をつく。
「そのかたがどんな人かは、知っていたのですか?」
口が軽いとか噂好きとか、そんな人だとわかっていて打ち明けたなら、完全にIさんのミスになる。
「一番の仲良しってわけではないですが、LINEでドラマについて話したりふたりでお昼を食べたり、普通に友達付き合いをしていました。
県外に彼氏がいて、遠距離恋愛の話をよくしていたし、誰かの噂とかする人じゃないんです。
だから、この人ならバレてもいいかなと思ったのですが」
その信頼が裏目に出たことが、Iさんにはショックだったのだ。
「まさか、私とは伏せたとしても、ほかの人と社内不倫をネタにして盛り上がるなんて」
気を付けて。他人のスキャンダルほどどうでもいい噂話に使えるものはない
聞いている限り、Iさんの情報というか、プライバシーは守られているようだった。
あくまで「社内不倫をしている人がいる」とほかの女性社員と話していたようで、その同僚にIさんを陥れるような悪意はないと感じた。
引っかかるのは「自分は社内不倫している人を知っている」と口にしていることだ。
「そんな言い方をしたら、それは誰かって犯人探しみたいなのが始まるのは、想像つくじゃないですか」
と、低い声でIさんが言った。
彼女が同僚に嫌悪感を持ったのはここだった。自分の不倫を彼女の注目の手段に使われたようで、許せないのだ。
他人のスキャンダルほど、わかりやすく人の関心を引くものはない。
会社という狭い社会ならなおのこと、「知っている自分」をアピールしたくなるだろう。
それをしてしまえば、打ち明けてくれた人の信頼を失うこと、Iさんとの関係に溝が生まれる可能性を、その同僚は見過ごしたのだ。
そして、Iさんの憂鬱は同僚に向ける屈折した感情だけでなく、もう一つの心配にもあった。
つづき▶▶「部長、不倫してるんですかぁ?」いつかあの女が言い出す前に【不倫の精算#52】後編
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