「部長、不倫してるんですかぁ?」いつかあの女が言い出す前に【不倫の精算#52】後編

2022.05.27 LOVE

前編「「絶対に秘密よ」同僚に打ち明けた不倫の話、秒で社内を駆け巡る顛末【不倫の精算#52】前編」の続きです。

後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。

不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。

 

不倫男は逃げ足も速い。「社内の噂」が広がるや、きっと一目散に…

「彼のことなのですが」

 

しばらくその同僚への恨みを吐き、「言うんじゃなかった」と何度も後悔の念を口にしていたIさんが、やっと紅茶を一口飲んでから言った。

 

「はい」

 

「その、社内の噂とかを極端に嫌う人で。

だから私との関係もすごく慎重で、会社では仕事の用事以外で声をかけるなって言われているんです」

 

不安そうな表情は、同僚が他人に話した「社内不倫をしている人がいる」という噂が、彼の耳に届くことを恐れていた。

 

社内の噂を嫌うくせに、その格好のネタになる不倫はするのだな。

そう思ったが口にせず、「そうなのですね」と返した。

 

Iさんはもう一口紅茶を流し込む。

 

「同僚が私と仲がいいのも知っているし、彼がこの話を聞いたら絶対に私を思いかべるだろうなって。

そうなったら、別れようって言われそうで……」

 

小さく消えていく声に、これが一番の心配なのだなと気がついた。

 

「そんなことをしている人がいる、って話が流れた時点で警戒しそうですよね」

 

そう言うと、無言で頷く。

 

自分が「やらかした」せいで不倫相手から切られることが、何よりも怖いのだと思った。

 

バラされても、このままでも、結局は「喋っちゃった自分」にブーメランが刺さる

「その同僚のかたとは今はどんな感じですか?」

 

尋ねると、Iさんは顔を上げてこちらを見た。

 

「その話を聞いたときに、『何でそんなこと言っちゃったの』って思わずきつい声で言ってしまって、それ以来お昼は別だしLINEもしていません。

私が怒っていることは気づいていると思います」

 

「距離感が微妙になった」のはこの流れがあったからで、同僚にしてみればIさんの怒りに触れて驚いたか、驚いたとしても「そもそも社内不倫するほうが悪い」と開き直られたら、分が悪いのはIさんだ。

 

悪意がないからこそ話題にしたことをIさんに言えるわけで、だがその振る舞いが彼女の怒りを買ったと気がつけば次にどんな行動に出るか、

 

「言い方は悪いのですが、あまり刺激したくないのが本音です」

 

と小さな声で言うIさんの気持ちはよくわかった。

 

「……」

 

幾重にも襲う不安と焦燥は冷静さを奪うが、Iさんには現実を見る強さがあった。

不倫をしていること自体がおかしい、ときちんと理解しているので、同僚を責めても結局は自分が追い詰められることがわかっているのだ。

 

だから動けない。

どうすればいいかわからない。

 

同僚に「人に話すのをやめて」と言えればいいのですが、とIさんがため息とともに吐き出した。

 

私なら、嘘をつくと思う。そのカレとは別れました、だからもう話さないでって

しばらく考えたが、「私なら」と前置きして

 

「彼とは別れたから、とその同僚に言いますね。

実は別れる寸前だったとか、もう終わりそうだからあなたに話せたとか、とにかくもう不倫はしていないと」

 

と言った。

 

Iさんは目を見開いて「なるほど……」とつぶやいた。

 

「嘘をつくのですね」

 

この現状を打開する策はない。

有効な嘘などない。

それでも、同僚が手にする真実を変えるために不倫関係は終わったと伝えるのは、これからの不毛な関心を避けることはできる。

 

「会社では、上司とそんな素振りはまったくないのですよね?

だったら別れたと言っても違和感はないだろうし、そのついでに人に話すのはやめてくれたら助かる、とお願いしますね、私なら」

 

疲れ切った演技でもすれば、相手は同情するだろう。気まずい空気を変えるためにも、こういう手段はありじゃないかと思った。

 

「……」

 

「あくまで私なら、ですが」

 

Iさんは固まったまま、黙ってこちらを見つめていた。

猛烈な勢いでその場面を想像しているのだ。

 

口にしないでおくけれど、不倫をやめるという選択肢もある。でもそれは無理よね

「……ちょっと、考えてみます」

 

押し殺したようなひしゃげた声は、その嘘をついて現状を変えることの衝撃に翻弄されていた。

 

「本当は、黙っているのがいいのでしょうが」

 

「はい」

 

何もしないこと、同僚が飽きるかIさんの怒りを理解して黙ってくれるか、騒動が過ぎるのをじっと待つのがこんなときの「最善」だった。

 

それを選択しづらいのがIさんの現実であり、変えるならどうしてももう一度動く必要がある。

 

黙っていてくれるだろうと信じて打ち明けたけれど、その相手がこちらの予想を裏切っておかしな行動に出ることはやはりあって、ネガティブな話ほど人を信じることの難しさを実感する。

 

話す相手を間違えてしまえば、大きなダメージをくらうのはどこまでも不倫をしている側なのだ。

それが世の中であり、正当化できない関係に他人が向ける関心を甘くみてはいけないのだ。

 

「……何とかしないと、ですね」

 

その日初めて、Iさんの口から前向きな言葉が出た。

 

何とかするなら不倫そのものをやめることを考えたほうがいい、と言いたい気持ちを抑えて、テーブルに置かれたカフェオレのカップに指を伸ばした。

 

この記事の前編▶▶「絶対に秘密よ」同僚に打ち明けた不倫の話、秒で社内を駆け巡る顛末【不倫の精算#52】前編

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