その不倫は「モラハラ夫を一瞬でも忘れたい」切実な気持ちで始まったのに【不倫の精算#56】前編
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
モラハラ夫からせめてひととき逃れたい、だから不倫が救いだった
35歳のMさんに不倫を始めた理由を尋ねたら、
「夫が嫌いだから」
と間を置かずに返ってきたことがある。
配偶者への嫌悪感が原因で不倫に走る人は多いが、ここで「なぜ離婚しないのか」と質問すると9割方ネガティブな反応があるので、黙って聞いていた。
「何も知らずに私にでかい顔をするあの人を見ると、心のなかで笑ってます。
どれだけ偉そうにしても、私はほかの男と遊んでいるのよって」
スマートフォンの向こうで、Mさんの言葉は軽い響きで流れていた。
離婚するエネルギーはないが、夫以外の男性と肉体関係を持つことでストレスの溜飲を下げる。
Mさんは夫のモラルハラスメントに苦しんでおり、不倫はその逃避かもしれなかった。
家事をほとんどやらないくせにあれこれと口は出してきて、Mさんが風邪をひいて寝込んでいるときも「俺の飯は」しか尋ねることはなく、妻としても家族としてもまったく尊重されない自分を目の当たりにし続ければ、外の世界に助けを求めることもあるだろう。
結婚して三年、夫とは「すでにレス」で触れるのも嫌悪感があり、仮面夫婦状態であることを「ラッキー」と受け止めている様子は、別の男性に意識を向ける自分に疑問を持っていないことがよくわかった。
本音を言えば、「一緒にいてくれるなら誰でもいい」。そんなこと言えないけどね
Mさんの不倫相手はマッチングアプリで出会った独身男性というのは聞いていたが、既婚の状態で素性のわからない人とつながるのは身バレのリスクがあるだろうと以前言ったら
「そうですね、怖いとは思います。
でも、これだけの人が使っているのに、そうそう知り合いなんかとは出会いませんよ」
と、軽い口調で答えていた。
手っ取り早くマッチングアプリを選ぶのも「やりたい人ばかりだから」とわかっているからで、要するに最初から既婚者の自分とためらいなく寝てくれる人を求めていたのだ。
「自分は結婚しているけど会うのが大丈夫な人とか、お断りは入れるのだよね?」
と尋ねると、
「はい。
独身でも既婚でもいいけど、ルールをちゃんと守れる人って意味ですよね」
と、表情を変えずにさらりと返したMさんを思い出す。
そうやって知り合ったのが今の独身男性で、年齢はMさんより上だが「結婚願望がなくて、遊べる人がほしい」とずっと言っているそうだ。
「誰でもいいんですよ」
あの頃、Mさんは笑いながら何度もそう口にした。
こちらに関心を向けていない夫は、自分が週末どこに行き誰と会おうが、まったく気にしないだろう。
平日は晩ごはんの用意をするが土日はキッチンに立たず、それを何度かなじられたが「ずっと私が家事をしているのだから、週末くらい休ませて」を貫いている。
夫にはお金持ちの実家があるし、私がいなくても大丈夫。
私はあなた以外の別の男と好きに遊びたいの。
Mさんの本音は、こんなところだった。
「不倫って、モラハラ夫よりよっぽど安定して穏やかな関係ですよね」
「不倫って、変な話ですけど安定しますよね」
イヤホンを耳に差しコネクタを繋いでいると、そんな声が流れてきた。
「お互いに変化を望まないうちはね」
そう答えると、
「変わらないですよ、私は離婚しないってはっきり言っているし。
向こうもそういう人がいいのだし」
結婚を前提としない「お付き合い」が不倫であって、最初からカラダだけを目的にしていれば、恋愛感情だのまともな交際だのと揉めることはないだろう。
そんな意味で、関係は動かない。
どちらかが独身の場合、当初はそう納得していても後で本気になり離婚を迫るケースも多いが、Mさんの場合は相手の独身男性からそういう気配はまったく出ないらしく、これも安心する要素だった。
変わらない関係だからこそ、純粋に欲を楽しんでいられるのだ。
だが、そんな都合の良さはMさんの夫の振る舞いであっけなく崩される。
それを目の当たりにしたのが先日のことだった。
▶【この話の後編】「こんなモラハラくず夫、いなくなればいい」だが夫が不倫の詮索を始めると
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