まともな関係じゃないからこそ「自分が格上でありたい」執念は報われるどころか…【不倫の精算#58】後編
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
前編記事『「奥さんでは満足できない男性から選ばれる自分」に酔いしれ、現実から必死に目をそらす独身女性の葛藤』に続く後編です。不安定なのは誰のせいなのか
「あ、すみません」
はっとしたようにOさんは目を開き、謝罪の言葉を口にしたが、せわしなくストローを掴もうとする姿に動揺が見えた。
「いや、うん」
曖昧に返しながら、不安定だなと感じた。
図星を突かれたのか。
執着という言葉に反射的に怒りを返すのは、自身がそれを不安に思っている証拠だ。
「……」
気まずそうに下を向くOさんは、しばらく無言でストローをいじっていたがやがて顔を上げた。
「……あの人が、私のLINEを無視するんです。
そりゃ、時間あるときに返事ちょうだいって書いたのは私だけど、普通はお疲れさまくらいすぐに返さないですか?」
声が揺れていた。
聞かれてもいないことを唐突に話しはじめるのも、重い空気を変えたいというより感情の蓋が外れて我慢できなくなったような、切羽詰まった勢いがあった。
「うん」
とりあえず頷いてカフェオレを一口飲むと、Oさんは
「何かムカついて、会社の男に食事に誘われたから約束した日は会えないってLINEしたんですよね。
そうしたら、『こっちも忙しいからちょうどよかった』って、次はいつ会うかも全然言ってこなくなって。
あっちが我慢できなくなるまで放置していようかなと思うんですけど……」
と続けた。
心が不安定なのは、不倫相手の気が向かないと返事をもらえない自分や駆け引きが通用しない自分を目の当たりして、「特別感」が薄れているからだった。
不倫相手に対してやってはダメなこと
「その人への連絡を断つとして、あなたは平気なの?」
苛立ちをぶつけてしまった自分を恥じるOさんの、居心地の悪さを想像しながら静かに声をかけると、
「平気ですよ、別に」
と低いトーンで返事があった。
「それならやってみればいいと思うけど、たぶん向こうから連絡は来ないと思うよ」
「……」
「だって、一方的にほかの男と約束して自分と会う時間をすっ飛ばした不倫相手とか、あなただったらまた会おうって思う?」
「……」
Oさんは黙った。
焦点がぼやけたような瞳は、その「結末」をきちんと頭に思い描いていたことがわかる。
人に言うとこの答えが返ってくると思うから、なかなか口に出せないのだ。
こんな衝突でもあってやっと抑圧された思いが解放されるのも、プライドの高さかと思った。
結局、どう足掻こうと関係は男性しだいであり、逆転など望めないのだ。
それが、配偶者がいる男性との肉体関係だった。
「駆け引きとか、やってもいいことないよね。
普通の恋愛だって、自分がされたら引くじゃん。別の人と過ごすってわざわざ伝えてくる相手って」
残酷かもしれないが、不倫だからこそ「やってはダメ」なことは普通の恋愛より多い。
「選ばれる自分」はいずれ相手につながりをコントロールされても文句が言えない立場となり、何とか関心を引こうとじたばたするほどに遠ざけられる。
Oさんは、威勢よく相手を罵っていた勢いは消え、不倫相手への執着と崩れたプライドが滲む痛々しい姿になっていた。
まともな関係じゃないから歪んだ思いが育つ
Oさんは、こちらにきつい言葉をぶつけたことをもう一度詫びて、その日は帰っていった。
不倫相手を下に見ながら実は自分のほうが熱を上げている側、というのを認めたがらない人は多い。
どうしても自分が翻弄する側でいたいのは、不倫が人の道から外れた関係であり身を置く自分はその時点で引け目を持つ人間になるからで、息苦しいつながりのなかで少しでもその憂さを晴らしたいからかもしれない。
独身者同士の恋愛なら起こらないこんな抑圧は、実はまともな感性を持っている人ほど毒されるのかもな、とOさんを見ていると思う。
自分に自信があり、地に足のついた生活を自力で送れていて、独身男性との恋愛だって自由に選べるのがOさんだ。
「選ばれる自分」を実感する刺激は相当に強く、独身男性が相手の恋愛では得がたいかもしれないが、本当はまともな関係を望むからこんな既婚男性の状態が許せないのであって、葛藤や煩悶が生まれるのだ。
こういう人は不倫に向いていない。
まともな精神を持っているから、まともじゃない関係を選んでも安らげずに歪んでいく。
今のOさんに必要なのは、既婚男性からの連絡ではなく自分を大事にする心なのだと、その後音沙汰のなくなった彼女の状態に思いを馳せる。
▶【この話の前編】『「奥さんでは満足できない男性から選ばれる自分」に酔いしれ、現実から必死に目をそらす独身女性の葛藤』
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