「腐れ縁」を断ち切れなかった独女の後悔【不倫の清算・リバイバル6】(後編)
恋愛心理をただひたすら傾聴し続けたひろたかおりが迫る、「道ならぬ恋」の背景。後編です。
<<前編:久しぶりの再開に高揚が止まらない彼女。彼の下心には目を閉じて…
どこまでも「腐れ縁」でしかない関係
案の定、「妻のダイエットのため」という名目は早々に消えた。彼から連絡がきて会うたびに、「昔と変わらず綺麗だ」「相変わらず頭が良いんだね」など、自分を持ち上げてくる彼の存在はF子の日常に大きな刺激となった。
「ヤらせる気はないけど」と言うF子の言葉のほうが嘘に感じられてきた頃には、彼女はすっかり彼の気をどう引くかで必死になっていた。一度でも寝てしまえば、それは彼女にとって「負け」になる。体の関係を避けながらいかに彼の恋心を引っ張り出すか、親身に「彼の妻のためのメニュー」を提案してみたり仕事の愚痴で弱い姿を見せてみたり、F子は上手く彼を操作しているつもりだった。
だが、彼のほうはいつまでも本当に「友達」を続けようとするF子の姿に、次第に飽きてくる。
「結局、ただ寝たいだけだったんだよね」
と悔しそうにその頃を振り返るF子だが、そもそも彼の目的はそこだったはずだ。わかって始めた関係だったのに、いつの間にかF子のほうが彼に本気になっていた。
10回を超える夜のデートが続いたある日、さっさと帰ろうとするF子に彼は「これ以上は君に迷惑をかけるから」とこれからは会わないと言った。
「俺のために一生懸命になってくれてありがとう。また君を好きになりそうだから」
という彼の言葉は、明らかにF子を誘っていた。そして、「これを断るならもう機会はない」という最終通告でもあった。
F子は彼を失いたくないという自分の気持ちに逆らえず、ホテルに行くことを提案した。これで、「あの人の勝ち」が決まった。
彼から誘ったのではなく、あくまでF子のほうが不倫関係を望んだという形になってから、形勢は逆転した。
肉体が結ばれてからは、F子は彼への執着を止められなくなった。「ここまでやったのに」という悔しさもあり、何とかして彼の気持ちを繋ぎ止めること、妻より求められる存在であることが、彼女の目的になった。
そんなF子は、彼にとって扱いやすい女性であっただろう。いつだって別れをちらつかせれば途端に従順になるF子は、自分の好きなときに抱ける都合の良い存在。「これ以上君を好きになることが怖い」とさえ言えば、彼女のほうから追ってきてくれるのだった。
「でも、いつまでこんな関係なんだろうって」
その頃、F子の悩みはどこまでも「腐れ縁」のようなつながりしか感じさせない彼への不満だった。
愛情で結ばれている、と思っているのは自分だけで、彼からは常に「俺には妻がいるから」「君を好きだなんて言えないよ」と一歩引いた言葉ばかりが返ってくる。それが責任を取りたくない男のずるさなのだと話してもF子は受け入れることができず、本当にただ体でつながった縁が何年も続いていた。
せめて、彼からもひとこと「俺も愛している」と言ってもらえたら。
ホテルからひとりの部屋に戻る寂しさに耐えきれずにF子が連絡を寄越してくるたび、スマホの向こうから聞こえてくるのはそんな叫びだった。
▶彼の自宅に電話を掛けてしまった
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