「私が不倫を楽しむ間」夫がこっそり自宅でしていたことは…【不倫の精算 ・リバイバル10】後編
夫は、私がいないほうがいいんだ。でも、私は……
それからIさんと何を話したか、
「自分に手を出さないくせにAVは見る夫への嫌悪感」
「開いていることを忘れてスマホを渡すほど警戒心を持たれない自分」
「そんなものを見ながら平気で家族と過ごせる夫への気持ち悪さ」
などだった。
苦しいのは
「不倫をしている側がそれを責めるのはおかしい」
という変えようがない事実だった。何を口にしても、それ以上に“悪いこと”をしているIさんは夫への言葉がすべて自分に返ってくるのをわかっていた。
もっと言えば、
「私が家を空ける時間が増えたから、こんなものを見る余裕ができたってことよね?」
“自分の不在が夫にとっては歓迎されているかもしれない現実”を目の当たりにしていた。
不倫の彼と関係がはじまったばかりのころは、時間の捻出に必死だった。彼の勤務が終わった夕方に会ったり、彼が昼から出勤の日は彼女がシフトをずらして午前中にホテルに行ったりしていた。
やがて、彼との逢瀬が待ちきれないIさんは、夜の時間でも研修や仲間との食事などと偽って家を出るようになっていた。
そうやって意識の隅に追いやっていた夫が、実はこんなものを楽しんでいたという事実は、Iさんにとって耐え難かった。
「愛されていない証」
とも感じられるものであり、それが一番の衝撃と混乱になっていた。
目をそらす自分の本心と、ままならない現実への葛藤
Iさんが体の不調を訴えはじめたのはそれからだった。
「あれから不眠が続いていて」
「食欲がなくて、子どもたちのご飯を作るのがやっと」
など、Iさんからメッセージが送られてくる。
不倫の彼との情事から一転して調子の悪さを伝えるものになり、
「彼とは職場で会うだけにしてる」
「誘われても家を出るのが怖くなって」
と、不倫の彼との関係もおぼつかない流れに変わっていた。
「AVを見る夫」より「不倫相手がいる自分」のほうが、言い方は悪いが“上”。
一瞬はそんな考え方もしていたはずのIさんだが、そんな気持ちがどれほど不毛か、かえって自分の価値を貶めることになるか。時間が経つほどに彼女の心を追い詰める。
彼女は気づいていない。
本当に夫への愛情をなくしているのなら、AVを漁っていることがわかっても嫌悪感だけで終わるのだ。
そこにショックを感じ、動揺し、自分を振り返ってやっていることの重さに打ちひしがれるなら、「女である努力」を認めてほしい相手は本当は誰であったのか。
だが、認めてほしい相手はまったく意図しない方向で性を楽しんでいた。
不倫の彼と楽しめなくなったのは、そのつながりの空虚さを誰よりも実感したからだ。
「……」
今日、目の前に座るIさんは不倫の彼への情熱こそを失い、「夫から振り返ってもらえない自分の痛み」をまとっていた。
不眠の解消も、心臓の動悸を改善するのも、自分にしかできない。
彼女の苦しみをただ耳にしながら、葛藤の先で彼女が今度こそ自分を救う判断ができることを、願うばかりだった。
<<<この話の前編
(取材・文/ひろたかおり)
この記事は2021年3月に初回配信されました。
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