【40女の恋愛事情】story2 私は彼の特別になれますか?-45歳・真由子の場合(2)-
「これからも頑張りますから、僕のこと、ずっと見ていてください」
「……」
胸がいっぱいで、何も言えなかった。
半年前、舞台の上で王子様の格好をして輝いていた彼が、今、私だけを見つめている。
もう、それだけで、充分すぎるくらい幸せだった。
彼は夢のような時間を私にくれたから……。
それからますます、彼は、私の生きる目的になった。
公演には必ずスタンド花を贈ったし、帰りには彼は私と公園で待ち合わせてくれた。
わざわざこんな時間を作ってくれるのは、私がたくさんお金を使っているお礼のつもりなのかもしれない。
私だけにこんなことをしているの?と聞いたら、
「そうですよ。あなたは僕の大切なたったひとりのファンだから」
と彼は微笑んだ。
私と彼だけの秘密の面会は、最初はほんの数分だった。
でも、時には30分近くに及ぶこともあった。
いつのまにか彼は私に、いろいろな話をしてくれるようになった。
将来、こんな役者になりたいんだとか、来年あたりは主演をしていたいとか。
そしていつかは戦隊ヒーローとしてテレビ出演したいとか。
「素敵ね」
私は目を細めた。
彼と一緒に、彼の未来を夢見ていると、私まで二十代になったかのように、気持ちが高揚した。
若い彼は、何だってできる。何にだってなれる。
転職したくても、年齢のせいで、何かとうまくいかない、そんな私とは大違いだ。
そして毎回会ってくれる彼の気持ちを知りたくなっていた。
いつも私のことを大切にしてくれるのは、私がお得意客だからなのだろうか。
それとも恋愛感情を多少なりとも持ってくれているのだろうか。
聞きたくても、怖くて聞けなかった。
「……私は、あなたの特別な女性になれますか?」と。
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