感染症にかかりやすい人の原因って?免疫専門家が指摘する「必須のワクチン」とは?

私たちは「アフターコロナの感染症予防」についてどう考えればいいのでしょうか。外科、漢方、免疫3分野でのトリプルメジャー医、新見正則医院 院長 新見正則先生に解説していただきました。

前編『コロナ第9波襲来中だが「その他の感染症も急増している」。免疫専門家が語る「これからどうすべきか」』に続く後編です。

 

感染症に「かかりやすい人」、その原因って? ストレスのほかにも原因があるのですか?

――水ぼうそうのウイルスはヘルペスに近いそうですが、ヘルペスによくかかる人はかからない人と比べると水ぼうそうも罹患しやすいでしょうか? 

たとえばストレスが強い、疲れている、食生活もバランスが悪い、運動もまったくせず不健康である、そのようないわゆる「免疫力が下がった」状態が続いている人は罹患しやすいでしょう。

 

自然免疫は警察隊のようなものだと考えてください。抗体はその警官が持っている武器です。警官が多いほうが犯罪が起きにくい。ヘルペスにかかりやすい人は、警官はいるけれどお給料が少なくて元気がなく、あちこちで強盗が起きているイメージです。元気な警官を揃えないと強盗を制圧できません。

 

一方で獲得免疫は軍隊のイメージです。B細胞が作り出す抗体はミサイル、T細胞による免疫は戦車といったイメージです。ちょっとミサイルや戦車と異なるのは、特定の敵(抗原)を殲滅するので、幅広く対応する警察とは働き方が異なります。

 

健康力とはレジリエンス、回復する力そのものです。ウイルスから逃げ回ってばかりではこのレジリエンスが弱くなりますから「感染すれど発症せず」の上手な感染を続ける必要があります。そのため、食事・運動・睡眠それぞれの質を上げて健康力を鍛えるのです。これらはちょっと頑張らないと、そう勝手には上がりません。

 

加えてワクチンの活用も必要ですが、命を取らない感染症ならばワクチンに頼り切らず、微妙に感染を続けているのが社会全体が強くハッピーな状態です。それができないならば、天然痘のように根絶するしかありません。

 

――次から次へと感染していく子どもたちはやはり気の毒です。子どものレジリエンスはどう上げていけばいいのでしょうか?

コロナでこうした感染症の概念が少し理解されたなと感じますが、この3年間、子どももマスク手洗いうがいを徹底して、レジリエンスのない状態を作っていました。だからこそいま一斉に感染症が起きている、これが冒頭でお話したことです。

 

子どもはいろいろなものを口に入れます。口から入ったものに対しては免疫反応が起きないシステム(経口免疫)があるので、子どものころから花粉をなめていれば花粉症も発症しないとも言われます。食べていないものに接した場合にだけ、身体はそれを敵だと判断するんですね。アレルギーのお子さんの食事も、除去しすぎるとよくないと言われるのはこれが理由です。

 

簡単に言えば、命に係わるものだけはワクチンで防ぎ、あとはお母さんたちもある程度「テキトウ」に構えて、子どもたちが免疫を獲得してくれることを期待するのがベストでしょう。

 

ですが、免疫はまだまだ発展途上の学問です。そのことがわかっていない人が非常に多い。たとえば、RSウイルスは実行再生生産数、1人の感染者が何人に感染させるかの数字が約3.5と言われています。ですがワクチンもないのに、毎年全員に感染する前に、つまり我々が集団免疫を獲得する前に自然に鎮火します。なぜ勝手に収まるのか、3.5人にうつすにもかかわず、なぜそれ以上広がらなくなるのか、この疑問に答えられるひとは希です。

 

コロナにしても、なぜ8波が収まったのかは答えられない。専門家というのはこのような場合に「わからない」と言える人のことです。

 

専門家が考える「必須のワクチン」はHPV。子宮頸がんは撲滅が可能な感染症だと考えてほしい

――その専門家の視点から見て、これだけは打っておけというワクチンはありますか?

種痘のような「冴えた」ワクチンは残念ながらそれほどありません。三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)やMR(麻しん・風しん)、水痘ワクチンはぼちぼち優秀なワクチンで、打つメリットが大きい。

 

コロナワクチンは、ぼくは海外出張に出かけることがあるので利便のため3回うちましたが、妻と娘は最低限の2回です。インフルエンザはもう15年は家族のだれも打っていません。でも、そんなぼくが娘によく説明して接種させたのはHPVワクチンです。こればかりは今後、男性も義務として接種すべきです。HPV感染によって引き起こされる子宮頸がんは命に係わるからです。

 

HPVワクチンは2009年の接種開始後すぐ副反応が問題視され中止されましたが、この際もメディアはワクチンの本質を明確に伝えませんでした。まず、どんなワクチンであってもゼロリスクはあり得ず、必ず一定数の副反応、場合によって死者が出ます。この点は何度でも強く説明されるべきです。免疫のコントロールとは、常にリスクとデメリットのトレードオフです。ですからその代わりに副反応が出てしまった人は法的に救済されるべきなのです。

 

オーストラリアは2007年から積極的に公費でのHPVワクチン接種を行ってきたため、2028年には子宮頸がんが撲滅(10万人当たり4人未満)されると推測されています。このように撲滅可能な感染症は、法的義務のある接種として行い、同時に法的救済も強く行うべきと思います。

 

政府は打つと決めたら自信を持って打たせる、副反応が出るなら救済する、その一貫した態度が重要です。スウェーデンはコロナに対し、高齢者のコロナ罹患と死亡はやむを得ないものと腹をくくり、子どもの義務教育は止めないという判断をしました。国ごとに何を尊重するかの事情は違い、こうした判断も変わりますが、日本に欠けているのはこのように一貫した政治的な「覚悟」ではないかとぼくは思います。

 

▶この記事の前編『コロナ第9波襲来中だが「その他の感染症も急増している」。免疫専門家が語る「これからどうすべきか」

 

新見正則先生

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。2002年より帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。20代は外科医、30代は免疫学者、40代は漢方医として研鑽を積む。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。『フローチャートコロナ後遺症漢方薬』はAmazonで三冠(東洋医学、整形外科、臨床外科)獲得。最新刊は『しあわせの見つけ方 予測不能な時代を生きる愛しき娘に贈る書簡32通

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