前田慶次「人の顔色は伺わない」?戦国一の傾奇者に学ぶ「力まず生きる」方法とは
上杉家に出仕していた時代、慶次が風呂(現在のサウナ)に出かけた逸話もあります。
慶次が脇差を差して風呂に入るので、ほかの武士たちは「くせ者か!?」と仰天。といって、びびって入らなければ「武士の名折」となります。まわりも、脇差を差したまま入りました。ところが慶次の脇差は、竹のヘラでした。湯気にあたりながら、そのヘラで足の裏の垢を落とし始めると、本物の脇差を持って入った武士たちは「だまされた!」と怒ったものの、刀はダメになっていたそうです。「滑稽にして世を玩び、人を軽んじける」(『常山紀談』*)という慶次の粋な性格は、晩年も変わりませんでした。
*儒学者・湯浅常山により、江戸時代にまとめられた戦国武将の逸話集。
妻子を残してカルチャー三昧、雇用先も石高ではなく友情で決めてしまう、ときにはいたずらめいたことをして周囲を驚かす……。武士は出世して少しでも多くの石高や地位を求めようとする時代に、慶次は異質な存在だったでしょう。
その痛快で軽やかな姿は、出世や世間体にとらわれず、力まず生きることのすがすがしさを伝えています。自分のやりたいように生きる様子が、まぶしいほどです。そうした慶次の魅力が、後年の創作作品にインスピレーションを与えたことは間違いありません。現代人は人の顔色をうかがい、まわりを気にして自分を見失いがちです。せめて心だけでも、慶次のようにさっそうと大きな構えで過ごしたいものです。
『読むとなんだかラクになる がんばらなかった逆偉人伝 日本史編』加来耕三・監修、ねこまき・画 1,540円(10%税込)/主婦の友社
逃げる(桂小五郎)、泣きつく(足利尊氏)、人まかせ(徳川家綱)、スルーする(和泉式部)、世間を気にしない(前田慶次)、投げ出す(上杉謙信)、がまんしない(坂本龍馬)、こだわらない(徳川家康)、嫌われ上等(石田三成)、日常生活を放棄(葛飾北斎)、趣味に生きる(徳川慶喜)、本業やる気なし(足利義政)…など、いろいろなパターンの「がんばらなさ」を発揮した25人を収録。
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