
「お食事のあとにどこへ行くのか」もちろん知っていたでしょう?【不倫の清算・リバイバル】(後編)
元彼を「忘れられない」。ねえ、忘れられないのは自分のことではなく?
「……」
Bさんは「どうしても忘れられなくて」と言ったが、その対象は何なのか、ふと頭をよぎった。
「元彼が忘れられないとかじゃなくて、それはたまたまで、男に求められる自分を思い出したってことか」
そう言うと、Bさんは黙って頷いた。
よくあることだ。
Bさんが言うように、「旦那に相手にされなくなった主婦が不倫に走る」など、マンガでもテーマになるほどありふれている。
ただ、Bさんの場合は独身男性を好きになって夫との板挟みに苦しむのではなく、不倫相手を最初から「そんなもの」と見下していた。
偶然その人が元彼に似ていて、昔の自分を思い出して興奮はしたが、しょせんは自分と寝たいだけ、
「本当に恋愛感情があるのなら、その前に離婚してとか、そんな話が出るでしょ」
と、片方だけ口角を上げてBさんは言った。
「うん。
その通り」
すぐに頷くと、
「だからね、ホテルに行くのも抵抗なかったのよ。
体目当てになる自分を教えてもらったから、まあいいかって感じで」
にこりと笑う様子は、普段の「普通の主婦」を強調する彼女から遠かった。
結婚する前、当たり前のように彼氏から肉体を求められる自分の記憶を、独身男性の登場によって刺激されたBさんは、応えることでみずからの欲を満たしていた。
忘れられないのは、人ではなく自分。
「普通の主婦」なのだとしつこく確認していた彼女を思い出せば、夫以外の男性とホテルに行くなんて到底考えられないが、それができてしまうのは、その言葉によって抑圧されていた闇が顔を出すようだった。
▶彼女にとって「不倫の重さ」よりもずっと重いものとは
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