【松村北斗×上白石萌音】朝ドラ夫婦が再共演!生きづらさを抱えて働く人たちが少しだけ楽になる「意外とシンプルなヒント」とは?
PMS(月経前症候群)に悩む藤沢さん(上白石萌音)とパニック障害を抱える山添くん(松村北斗)の温かな交流を描く映画『夜明けのすべて』が、本日劇場公開を迎える。
「そして、バトンは渡された」で2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名小説を、三宅唱監督が映画化。W主演を務めるのはNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で、親の反対を押し切って結ばれるも戦争で死別する夫婦役を演じ、そのせつなくも瑞々しい演技が話題になった松村北斗と上白石萌音。映画としては初共演となる二人が、今回は同僚役で最高の理解者となる特別な関係性を繊細に演じている。特筆すべきは「最高の理解者」といっても、その関係性が「恋愛」ではないということだ。
「出会うことができて、よかった」
人生は想像以上に大変だけど、光だってある
月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになるというストーリー。今回は、主演を演じた二人のインタビューをお届けします。
山添くんを演じた松村北斗さんにインタビュー
――まずは、完成した映画をご覧になった感想をお願いします。
松村 初めてこの原作小説を読んだとき、生きづらさを描きながらもとても気持ちのいいお話を読むことができたな、と感じたんですが、映画を見終わったときもまったく同じ感覚を覚えました。小説からいろいろ変更した点も多いのに、と驚きましたが、今思うと、大胆に変えた部分があったからこそ、小説で届けたかったものが全部伝わってきたのかもしれませんね。
――現場での三宅さんの演出はいかがでしたか?
松村 とても柔軟な方だな、と感じました。うまく言えない言葉があれば言い回しを少し変えてくれたり、逆にテストのときに自分がぽろっと言った言葉をそのまま取り入れてくれたり。振り返ってみると、今回の現場では、ずっと役になり切った状態でいるというより、演じたあとは一度松村北斗という自分に戻って、みんなと一緒に「山添だったらこうするかな、こういう人かな」と冷静に考える時間がしっかりあったように思います。そのせいか自然体のまま演じられたし、そういう贅沢な時間をつくってくれるのが三宅監督の演出術なんでしょうね。
――山添くんと藤沢さんが段々とリラックスしたようになっていく様子が素晴らしかったです。
松村 上白石さんとは、前回「カムカムエヴリバディ」でもご一緒しましたが、今回の現場ではそれ以上に趣味の話や最近見た映画のことなんか、ざっくばらんにいろんな話ができました。おかげで撮影中もごく自然なやりとりができた気がします。
――山添というキャラクターについて、松村さん自身、自分と重なる部分は感じていましたか?
松村 あまりパキッとした性格じゃないところとか、つねに何か不満や苛立ちを抱えていて、周囲からはちょっと扱いづらいと思われる部分があったり、そういう部分は近いかもしれません。
――パニック障害の発作が起こるシーンを演じるのは、やはり大変でしたか?
松村 お芝居とはいえ、ああいう発作の状況におかれると実際に過換気症候群になってしまう危険性があるようなんです。ですから、練習から本番まで、発作を起こすシーンではつねにすぐ近くに医療監修の先生がいて、リアルに見えるかを確認しながら、同時に僕のケアをしてくれました。そこは、最初から三宅監督が気遣ってくれていましたね。
――現場の雰囲気はいかがでしたか?
松村 まるで栗田科学にいるような、楽しくて居心地のよい現場でした。演じるみなさんも役そのままという感じで。そういえば多くのカットで、今撮られているなって感覚がほとんどなかったんです。引き目で全体を撮ることが多かったのもあり、カメラやマイクの存在を感じず、おかげで芝居にだけ集中できた。そういう雰囲気をつくるために、みなさん気を遣って撮ってくれていたんでしょうね。
――では、あまり大変なことはなかったのでしょうか?
松村 いえ、大変なことももちろんありました。フィルム撮影なのでそう何度も本番ができないなかで、うまくいかない場面はテストの段階でかなりくりかえした記憶があります。監督が納得できないこともあれば、僕たちが引っかかってしまうこともあって、そのたびにセリフを変えたり、動きを変えたりしながら、何度も何度もテストをしました。
特に印象に残ったのは、日曜の夜に藤沢さんと偶然会社で居合わせて、二人きりでデスクに並んで話す場面。僕がブランケットを藤沢さんに貸すという何気ないやりとりだったんですが、実際にやってみるとすごく難しい芝居だったんです。あの状況に男女が二人でいてブランケットを貸すって、必要以上に親密に見えてしまうんじゃないか。二人の間に恋愛的な何かを感じさせてはいけないし、山添くんの優しさみたいなのが出過ぎてもよくないし……。そんな話を三人でずっとしながら、「これでどうですか?」「やっぱりちょっと違うかも」と何度も別の方法を試していきました。
でも完成した映画を見たらごくあっさりしたシーンになっていてハッとしました。そうか、こういうさらっと流れていくようにしたくて、あれほど悩んで繰り返したんだなって。大変でしたけど、とてもすてきな場面に仕上がっていて本当によかったです。
――最後に、観客のみなさんに一言お願いします。
松村 いつもは自分のことってうまく見られないんですけど、この映画では、いろんな景色や人たちのなかに当たり前のように自分がいるだけに感じられて、それをずっと見ていたいなと思えるんです。原作本の帯に書かれた「生きるのが少し楽になる」って言葉が僕は大好きで、映画を見終えたときも、やはり同じことを感じました。この映画がみんなに好かれるような社会になってほしい。本当に、大好きな映画です。
■松村北斗 Hokuto Matsumura
/山添くん :以前は恋も仕事も順調だったが、パニック障害を抱えたことで人生が一変する。
1995年6月18日生まれ、静岡県出身。SixTONESとして2020年1月CDデビュー。俳優として映画、ドラマなどでも幅広く活躍。主な出演作に、映画『坂道のアポロン』(18/三木孝浩監督)、『映画 少年たち』(19/本木克英監督)、『ライアー×ライアー』(21/耶雲哉治監督)、『劇場版 きのう何食べた?』(21/中江和仁監督)、『ホリック xxxHOLiC』(22/蜷川実花監督)、『すずめの戸締まり』(22/新海誠監督)、『キリエのうた』(23/岩井俊二監督)、ドラマ 「パーフェクトワールド」(19/CX)、「一億円のさようなら」(20/NHK)、「レッドアイズ 監視捜査班」(21/NTV)、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(21-22/NHK)、「ノッキンオン・ロックドドア」(23/EX)などがある。
藤沢さんを演じた上白石萌音さんにインタビュー
――まずは、完成した映画をご覧になった感想をお願いします。
上白石 ああ、本当に大好きな映画だな、というのが一番に浮かんだ感想です。最初こそ緊張しましたが、見ているうちにどんどん心がほぐされて、気づいたら一観客として夢中で見ていました。
――上白石さんは、原作の大ファンだったそうですね。
上白石 はい、元々瀬尾まいこさんの小説が大好きで、『夜明けのすべて』も出版されてすぐに読みました。瀬尾さんにインタビューをした際に「藤沢さんって、上白石さんに合いそうですよね」とおっしゃっていただいたんですが、当時はまさか実現するなんて思わなくて。映画化の話をいただいたときはとても嬉しかったです。
――小説からの変更点で一番驚いたところはどこですか?
上白石 ラストシーンですね。事前に三宅監督から小説からの変更点についてしっかり説明があったのですが、それでもあの展開には驚きました。でもできあがった映画を見たら、このラストシーンでよかったと心から思いました。栗田科学は藤沢さんにとっても山添くんにとっても理想郷のような場所だけど、映画では最後そこから一歩踏み出すことで、どこだってそういう場所になりうるんだよ、という前向きなメッセージを受け取れた気がします。実際には何も解決していないし、状況がものすごくよくなったわけでもないけれど、たしかにこれでよかったな、と思えるラストシーンでした。
――特に印象に残ったシーンはありますか?
上白石 二人で道を歩きながら話しているシーンです。藤沢さんが、山添くんとは「たまたま隣の席に座ってるだけ」と言うように、この映画には二人が横並びになって話すシーンがたくさんあるんです。三宅監督は、向かい合って話すよりも横に並んで顔を見ずに話した方がしゃべりやすいことってあると思う、だからこの映画では二人が並んでしゃべる時間を大事にしたいんだ、とおっしゃっていましたが、撮りながらその言葉を実感しました。
――撮影中、監督や松村さんともいろんなお話をされていたんでしょうか?
上白石 とにかくみんなでいろんな話をしていた現場でしたね。三宅監督は、撮影の合間も私たち俳優部とずっと一緒にいてくれて、次のシーンについて相談しあったり、全然関係ない話をして笑い合ったり。そういう現場の幸せな空気感が、映画にも反映されていたと思います。松村さんとも、「こんなに幸せな現場があっていいんだろうか」といつも言いあっていました。
――藤沢さんがPMSで怒りを爆発させてしまうシーンは非常に辛そうでしたが、演じていていかがでしたか?
上白石 怒っている最中より、その後の方が辛くなるんですよね。お芝居でもこんなに苦しいんだから、実際にPMSの症状がある人たちはもっと辛いんだよなと痛感しました。この役を演じてみてよかったのは、監督をはじめ男性の方々と生理についていろいろ話せたこと。女性にとってはなかなか口に出しづらい話題ですが、話して少しでも楽になるなら、性別を問わずもっと普通に口に出していくべきですよね。この作品がその一助になればいいなと思います。
――映画のハイライトともいえるのが、藤沢さんが山添くんの髪を切るシーンですが、ここはやはり緊張しましたか?
上白石 それはもう! 一発本番で仕上げないといけないので、事前にマネキンで何度も練習しました。でもいざやってみたら、一番緊張したと同時に本気で笑い転げた最高のシーンになりました。とにかくあの場面での松村さんが素晴らしくて、帰り道に、なんでこんなすてきな芝居ができるんだろうと落ち込んだくらいです。
――山添くんと藤沢さんの関係性はとても曖昧で不思議なものですが、上白石さんはどのように考えていらっしゃいましたか?
上白石 あの二人の間柄を的確に表す言葉って存在していないように思うんです。恋愛関係でも友情関係でもないし、同じように病気を抱えた同志、ともちょっと違う。無理に言語化しなくても、それぞれに「あの二人ってなんなんだろうな」と思っていればいいんじゃないでしょうか。
――今回、初めて三宅組でのお仕事を経験してみていかがでしたか?
上白石 ただ感謝しかないです。演じるうえで悩んだり苦しかったりしことはたくさんありましたけど、そういうものすべてをプラスのエネルギーに変えられる現場でした。そういえば初日のワンシーン目の撮影が終わった瞬間に、三宅監督が「うわー、終わっちゃった!! 寂しいー!!」と言っていて、まだ初日なのに何言ってるんだろうってびっくりしましたが、後半に近づくにつれてその気持ちがよくわかりました(笑)。全員が一個一個のシーンにこのうえなく愛情を注いでいる現場で、まだ終わりたくない、ずっとここにいたいと思いながら撮影していました。みんなで何かをつくるってこんなに楽しいんだ、と思い出させてもらった気がします。
――まるで栗田科学のような現場ですね。
上白石 本当にそうですね。撮っているときは、こんなすてきな会社って現実には無いよね、なんて話していましたが、三宅組はたしかに栗田科学でした。
■上白石萌音 Mone Kamishiraishi
/藤沢さん:普段はおおらかな性格だが、PMSによって月に一度イライラが抑えられず、怒りを爆発させてしまう。
1998年1月27日生まれ、鹿児島県出身。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞し、同年にNHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」でデビュー。14年、映画『舞妓はレディ』(周防正行監督)で主演に抜擢され、日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。主な出演作に、映画『ちはやふる 上の句/下の句/結び』(16、16、18/小泉徳宏監督)、『溺れるナイフ』(16/山戸結希監督)、『君の名は。』(16/新海誠監督)、『羊と鋼の森』(18/橋本光二郎監督)、ドラマ「ホクサイと飯さえあれば」(17/MBS&TBS)、「恋はつづくよどこまでも」(20/TBS)、「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(21/TBS)、大河ドラマ「青天を衝け」(21/NHK)、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(21-22/NHK)、舞台「千と千尋の神隠し」(22~)、「ダディ・ロング・レッグズ」(22)などがある。
ぜひ劇場でご覧ください!
『夜明けのすべて』
2月9日(金)ロードショー 配給/バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース ©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会続きを読む
スポンサーリンク