派遣先の上司と不倫。「どうしてこんなに苦しいの」33歳女性が抱えていたものは(後編)
相手にしか埋められない痛みがある
「え?」
急な変化に驚いて聞き返す。
「謝ってほしいですよ、やっぱり。嘘ついて都合よく扱って、私がどれだけつらかったかよくわかっていたくせに知らん顔して。謝罪してほしいですね」
由紀恵の強い語気には恨みが滲んでいた。そう思うのも無理はない、自分だけが男性の愛情を信じていて相手はそんな気持ちを知っていてなお弄ぶような対応を繰り返していたのだ。
「……」
受けた痛みは与えた相手によってしか修復はできない。だから謝罪がほしい、当時の自分について「悪かった」と認めてほしいと思う気持ちは理解できるが、それが到底かなわないであろうことも、現実だった。
「謝ってもらっても、新しい記憶ができるからなあ」
そう言うと、由紀恵ははっとしたように小さく息をのんだ。「新しい記憶」、それは関係が終わっているいま現在の互いの姿を自分のなかに残すことであり、たとえ直接会わないLINEのメッセージ一つであっても、存在に新鮮さを覚えるとそれがまた新しい感情を生む可能性は避けられなかった。
「……そうですね」
はあとため息をついて、由紀恵は
「どうやったら忘れられるんだろう」
とふたたび揺れる声でつぶやいた。
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