恵まれた主婦だったのに不倫に溺れ…。欲望の果てに「失った」その顛末とは(後編)
不倫した彼女の、怒りの裏にあるものとは
「それに、旦那さんにもばれなくてよかったじゃない」
何気ない口調を装ってそう言ったのは、ゆり子が不倫相手に渡していたお金は夫婦で管理している口座からこっそりと抜いたものだったからで、いわゆる「使途不明金」に夫が気づかないまま今も過ごせている幸運を指摘すると、ゆり子は黙るのだった。
「……そうね」
案の定、ゆり子は小さな声で短く返す。自分の稼ぎを差し出しても「まだ◯万円足りない」という不倫相手のために、夫婦のお金にまで手を付けたことへの恐怖と後味の悪さが、ゆり子の怒りを育てる火種にもなっていた。
会社で役職を得ている状態で、「専業主婦の妻が作った借金の返済に困っている」なんて情けない「設定」は、嘘か本当か確かめるすべもないうえに愛情が萎える立派な理由になるだろう。それでも、男性が直属の上司であり毎日顔を合わせる状況で、「君がいてくれるからがんばれるよ」と言われていたゆり子は、事実を知ろうとすることもなくホテル代まで全部自分が負担して逢瀬を続けていた。
関係が終わってみれば、そんな自分がいかに滑稽でまずい状態にあるか、「気にしないで」と言いながらお金を渡していたことを思い出せば相手に返済を迫ることもできず、結局は不倫相手に貢いでいた事実だけが残る。万が一夫に使途不明金について説明を求められたら何と言えばいいか、不倫は終わっても結婚生活は続くのであって、この焦りが常につきまとうのだった。
夫は優しいけど 次ページ