共同親権制の背後で「恐ろしい法律」が2つ施行されていた?「救われるべき人がまんべんなく被害を被る仕組みができている」(後)

2024.05.11 LIFE

総務省入省後、高槻市副市長、那須塩原市副市長、政策研究大学院大学准教授、多摩大学客員教授などを歴任してきた渡辺やすゆき先生(52歳)。2010年のGW明けに突如として「子どもの連れ去り」の被害にあって以来、14年に渡って娘の居所も、消息もわかりません。

 

中編記事『「誰のための制度なの?」骨抜きにされた共同親権制は女性の社会進出を「妨げる」仕組みになってしまった』に続く後編です。【3本中の

 

それだけではない。じつはもう2つ、「恐ろしい法律」が施行されている?

こうした法案に紛れて、さらに今年の4月1日から恐ろしい法律が2つも施行されてしまいました、と渡辺先生。一つめはDV防止法改正法案です。

 

「DVに精神的DVを入れてしまったことが、女性に不利に働く可能性があります。従来の身体的DVは男性が主たる加害者でしたが、今後は、たとえば『あなたの稼ぎが低いせいで私達の生活が大変なの』という妻の発言を夫が録音して裁判所に持って行くと、DV認定されて子どもへの接近禁止命令が出てしまうおそれがあります。ある日帰宅すると鍵が交換されていて家に入れず、精神的DVを理由として妻が接近禁止命令を受ける、こんなことが横行するかもしれません」

 

もうひとつは不同意性交罪。それって、性行為に同意があったかどうかを記録するアプリがリリースされるかもと報道され、みんなが困惑していた件ですよね?

 

「はい、まさにそれです。当該行為について、相手の同意があったことを、加害者とされる側が証明しないとならなくなりました。そんな証明、ほぼ不可能ですよね。なのに、ほろよいの上ではOKだけど酩酊ではNGなんて大真面目で国会で審議しています。家においでよと口説く際、女性の呼気中のアルコール度数検査をさせてもらって記録に残す必要があるというバカげた話になっているんです。しかも時効もなく、夫婦の間でも成立するので、離婚する瞬間に3年前のアレは同意なかったね?と聞かれ、ついうんと答えたのを録音されたらアウトです。美人局みたいな行為もこれから増えるでしょう」

 

いっぽうで「シンママの経済的困窮防止策」は最強に進んだ。行き過ぎというレベルに

もうひとつ、かねて問題になっていたのは「養育費不払い」です。令和3年度 全国ひとり親世帯等調査によれば、離婚した父親からの養育費を「現在も受けている」のは 28.1 %。平成 28 年度調査時の 24.3 %と比較すれば向上しているものの、いまだ70%は受け取っていません。また、養育費の額が決まっている世帯の平均月額は50,485円。前回調査時 43,707 円よりは増加しているものの、十分とはいいがたい額です。

 

「不払いは長らく大きな問題で、いわゆる『シングルマザー』の経済的困窮を招いていました。この改善に踏み込んだのは英断ですが、逆にやりすぎ、違憲のレベルにまで厳しい取り立てになってしまいました。なぜなら、離婚時に取り決めがない場合も、相手に対して養育費を強制徴収できる権利が条文に書かれたからです。何度も言いますが、連れ去りと虚偽のない公平な離婚であればそれもありかもしれません。でも、これが条文に書かれてしまうと、子どもとの親子交流はさせなくていい、でも養育費だけはぶんどれる、つまり今後は出産後に計画的に子を連れ去る虚偽結婚すら起きかねない事態になってしまったのです」

 

そもそも養育費とは親権に伴って支払いが生じるもので、名前こそ権利ではあるけれど、教育および監護をする「権利および義務」だと渡辺先生。

 

「子どもが18歳になるまでは子どもを監護する義務・責任があるというのが親権の本質です。勝手に放棄しちゃだめですよ、離婚しても親なんだから義務があるんです。会いたい、会いたくないではなく、『会わないとならない』のが親権で、その中に養育費が入っている。これがまともに考えた場合のごくごく普通の解釈です。ですので、離婚の際に養育費と子どもの監護分担をきちんと定めないと離婚できない、共同監護計画を定めなければならないとすれば済む話でした。ですが、なぜか『法定養育請求権』という、子どもの親権・監護権を奪った親からも養育費だけは強制徴収できる特権を今回新設しました」

 

つまり、ある日突然子どもを奪われてDVをでっちあげられ、子どもが生きているかどうかもわからないまま、毎月養育費の請求書が届くようになります。「子どもに会うことすらできないのに、なぜ、お金だけ払わないといけないのか」と養育費の支払いを拒否しようものなら、家に裁判所の執行官がやってきて家財丸ごと競売にかけられる仕組みができたのだそう。裁判所に訴えると隠し財産がないか地元市町村への照会も行われますが、これははっきり言って犯罪者扱い。財産権の侵害です。共同親権制度とは名ばかりで、単独親権制度を維持した上で養育費の取り立て制度だけ強化した状況です、と。

 

誰かを助けようとしたのはわかるが、「誰もが少しずつ被害を被る仕組み」になっていないか

「これらの法改正の行きつく先は、この国の少子化の更なる加速化です。婚外子率の低い日本では、婚姻率が下がれば、出生率も下がります。今後、結婚とは極めてリスクの高い行為となるので、婚姻率は間違いなく下がるでしょう。子どもが生まれたら、男性も女性も、子育てと仕事のどちらを選ぶかを決めざるを得ません。仕事を選んだ親は、万が一伴侶と不和になった場合、ある日突然子の親権・監護権を奪われ、子どもが生きているか死んでいるかも分からないまま、養育費だけは強制徴収されるリスクを抱えて生きていくことになるのです。安心安全な国とは程遠い」

 

なるほど、確かにそのリスクが上がりそうです。どうすればいいのでしょうか?

 

「俗にいう『子育て罰』どころか、『結婚罰』の世界ですよね。子育てを選んだ親は、離婚することで、もう一方の親から養育費という名の不労所得や児童扶養手当を十年以上得られる特権を享受できますが、その代償として仕事を諦めざるを得ません。また、結婚すれば、DVや不同意性交罪で訴えられるリスクも飛躍的に高まります。なお、DV被害者保護を謳う一連の法改正では、本当のDV被害者の救済は決してできません。なぜなら、これらの法改正で、貧困かつ暴力的な危険度の高い男性から女性を救うことなどできないからです」

 

確かに、本当にそこにDVがある場合、DV防止法に定める接近禁止命令など無意味、むしろそんな命令が出されようなら逆上して、その男は本当に殺しにくると聞いたことがあります。結果的に本当に凶悪な男性と一緒にいる女性は、恐怖感からDVの接近禁止命令など申し立てできないとか。

 

「本当に凶悪なDV男から被害者女性を救おうとするのであれば、その男を刑務所に入れなければいけないなのです。我々が通常イメージするDVのケースは、傷害罪などと同様、証拠がしっかりとあり、警察が十分捜査することが可能です。しかし、そのような方向での法改正が全くなされていません。では、この国はどうなっていくのか。まず、これからの若者は、結婚などというハイリスク行為はできなくなります。結婚が成立するのは、例外的に2つのケースのみになるのではないでしょうか」

 

どのようなケースですか?

 

「一つ目は、男性が暴力を利用して女性を支配し逃げられなくできるようなケース。二つ目は、お見合いや長年の家族同士のお付き合いなどで、結婚する本人達の後ろに親族という連帯保証人が集団でついてくケース。つまり、お互いに相手の財産を奪ったり、子を奪ったりするおそれがない『同じ家格』同士で結婚するケースです。このことが何を意味するのかと言えば、法の支配が不十分であった近世に日本社会が戻るということです。もはや明治民法以前の話です」

 

確かに、そこまでいけば自由恋愛などというものは怖くて、お見合いのほうが安心できそう。いずれにせよ、結婚のハードルが上がるというのは確かそうです。

 

「繰り返しになりますが、婚姻率が下がり、離婚率が上がれば、子どもの数は減ります。そうして、この国から子どもがいなくなり、やがて働き手もいなくなります。経済力も衰え、社会保障制度の維持も困難になり、我々の生活はいよいよ立ち行かなくなります。今般の共同親権制に向けた民法改正案は、その流れを反転させる千載一遇のチャンスでした。しかし、この国の国会議員と裁判所から法務省に出向している官僚達は、そのチャンスを活かすのではなく、むしろ、近世へと後戻りするような法律を作ろうとしているのです。残念でなりません」

 

どこから見ても問題点ばかりの今回の法改正、みなさんはどうお考えになりますか?

 

つづき>>>「14年もの間、娘が生きているかどうかすらわからない」連れ去り被害はこうして起きる。共同親権「推進派すら真向から大反対する」新法案の大問題

 

お話/渡辺やすゆき先生

総務省元官僚 、高槻市元副市長 、 那須塩原市元副市長。1972年生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学大学院法学研究科公法学専攻修了(修士(法学))。米国コロンビア大学大学院修了(修士(国際公共政策学))。1998年総務庁(現総務省)入省、2004年内閣官房郵政民営化準備室参事官補佐(郵便局株式会社担当)、2007年内閣官房行政改革推進室参事官補佐(国家公務員制度改革担当)、2010年大阪府高槻市副市長・大阪府特別参与、2012年栃木県那須塩原市副市長。2015年から政策研究大学院大学准教授。

渡辺やすゆき先生HP

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