「私のがんの治療法には何を選べばいいですか?」と質問する人が残念ながら命を少し縮めてしまう「納得の理由」
新見正則医院・院長の新見正則先生が40年以上の医業の集大成としてブログで無料公開した「がん治療の病院選び」。『がん治療病院の選び方』『がんの標準治療は並』『私が描く新しいがん治療』の三部構成で、書籍1冊分の内容が解説されています。
その内容について伺いました。前編記事『もしもあなたが「がんです」と言われたら、探すべき病院は「近くて普通」「遠くて最高」どっち?知っておきたい「がん治療のための理想の病院」』に続く後編です。
治療の選択時に重要なのは「どの治療方法にするか」ではなく「どのような人生観なのか」
どれもがペニシリン並みの奏功を見せればよいのですが、通常そこまでのクリーンヒットは打てず、「ランダム化された大規模臨床試験」を経て効果が確認されたものが最も信頼できる治療だと考えられています。ランダム化とは、クジ引きで治療群と非治療群を分けるもの。最高のエビデンスは1000例規模のランダム化された大規模臨床試験で得られるとされますが、本当に治療効果が明らかであればランダム化試験などしなくても著効を体感できます。その好例が種痘なのだそう。
「また、『ランダム化された大規模臨床試験を勝ち抜いた』ということは、二つに差があることを証明したことであり、差の程度、つまり御利益の程度には実は言及していません。この観点からすると、いっけん正しそうなエビデンス至上主義も、実のところそうとも言えないのです。だいいち、日本は平均的によい医療が受けられると言いますが、それだって正しくない」
なぜならば、間違いなく地域偏差があるからだと続けます。
「昨今は医療の進歩でがんは共存できる病気に変化しつつあり、通院も10年15年と思ったより長く継続することが多い。誰だっていま住んでる場所に近い病院がいちばんいいのですが、でも、いちばん近い病院でいちばんいい医療が受けられるわけではない。元気なうちは遠くても通えるけれど、いずれ通い切れなくなりますから、最後は地元がいちばんとなるのです。ドライな言い方になりますが、がんの治療とはこのように科学的根拠(エビデンス)に従い、またはそれを越え、つらい遠距離通院に耐え巨額をかけてでも最新最善を目指すか、それともゴールを見据えて『並み』で納得するか、各個人のどう生きてどう死ぬかの人生観ごとに考える必要のある問題なのです」
がんの治療は「冴えた1発逆転」ではなく「たくさんのピースの積み重ね」で行っていくもの
新見先生のクリニックを訪れる患者さんのうち、8割以上はがんのセカンドオピニオンやがんに有効な漢方薬の併用を希望する人です。
「長年セカンドオピニオンを手掛けてきてわかったのは、みなさんガイドライン的には正しい治療をされているということです。でも、それでも治療に不満を感じ、不本意に主治医に従っている人がどうしてもいる。何か手はないかと思って、ぼくは外科学、免疫学のあとに漢方の勉強を始めました。がんの治療はどうしても副作用があります。抗がん剤であれば体調の不調が起き、外科手術では命を落とすこともあります。せめて、副作用がなく生存率を上げるものがないかというのはすべての医師の願いでもあります」
新見先生は長く漢方を勉強する中で見出したフアイアという生薬の普及活動を続けています。フアイアは前述のランダム化試験を勝ち抜いた、ある意味外科医にとっては夢の生薬ですが、それにしても価格が安くはないため、経済毒性ありですと笑います。
「全員が同じものをすべて適用しなくてもいい。できる範囲のことでいいんです。運動する、睡眠をたっぷりとる、ストレスを軽減する、たんぱく質を食べる、日光浴をする、生きがいを見つける、このようないっけん当然のことでもがんの予後はかなり変わると思っています。ただし、まじめにあまりにもストイックに行うとそれがストレスになり免疫力には悪影響です。それらに加えてフアイアのようなものを足せるならさらに予後がよくなる確率が上がります」
ただし、どれもいきなり大幅な確率アップというものではないのがポイントです。経済毒性が少なく、副作用がなく、そして標準治療の機会損失にならないことは、エビデンスが少なくてもがん治療のピースとして加えるべきです。そして経済毒性があるものには、明らかなエビデンスを追求すべきです。明らかなエビデンスとは1000例規模のランダム化された大規模臨床試験を示します。
「がんの治療はこうして、自分が実行できる正解のピースを一つ一つ集めてそれを組み合わせ、積み重ねていく足し算です。どれか一つの最高の治療にたどりつこうとする必要はないし、それ一つで安心しきって他のピースを探さなくなるのもよくないのです。中には特定の白血病のように骨髄移植ができれば、またある種の固形がんのように手術ができれば、それで一発治癒というものもあります。でも、ほとんどはコツコツと『免疫力を上げる』ことで自分の体ががん細胞と戦える状態を整えていく環境整備です。身体の持ち主はその環境を整えるコーチのような存在です。そう考えると、がんの治療にもやや客観的に、かつ前向きになれるのではないでしょうか」
前編記事『もしもあなたが「がんです」と言われたら、探すべき病院は「近くて普通」「遠くて最高」どっち?知っておきたい「がん治療のための理想の病院」』
■新見先生のがん三部作
【がん治療三部作①】誰も教えてくれなかった「がん治療病院の選び方」
【がん治療三部作③】私が描く新しい/革新的な/近未来のがん治療
【編集部より】新見先生はこれらブログ記事の内容もまだ進化中であり、完全な結論とは考えていないため、医療関係者による事実誤認のご指摘は編集部または新見先生のアドレスに連絡いただきたいとのことです。ライブ対談も受け付けています。
■お話/新見正則医院 院長 新見正則先生
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。2002年より帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。20代は外科医、30代は免疫学者、40代は漢方医として研鑽を積む。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。『フローチャートコロナ後遺症漢方薬』はAmazonで三冠(東洋医学、整形外科、臨床外科)獲得。最新刊は『しあわせの見つけ方 予測不能な時代を生きる愛しき娘に贈る書簡32通』。
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