宮川大助「あなたのうんこをじっと見つめて『これが夫婦というものだろうか』と哲学的思索にふけったこともあった(笑)」【なにわ介護男子#8】

日本を代表する夫婦漫才・宮川大助さん・花子さん。2019年に花子さんに血液のがんである「多発性骨髄腫」が発覚、今もなお闘病生活を続けています。

 

今年6月末に『なにわ介護男子』(主婦の友社刊)を上梓。完治しないこの病気を抱えながら生きる花子さん、そして自身の体調も芳しくない中でも懸命に支える大助さん。花子さんはそんな大助さんを「なにわ介護男子」と命名し、大変な闘病と介護の日々にもクスッと笑えるスパイスを忘れません。本連載では、おふたりのお話から、「生きる意味とは?」「夫婦とは?」を考えていきます。また、介護をする側・される側の本音にも迫ります。

 

前編記事『「なんでやねん!なんで俺、おしめ替えながらプーされなあかんねん」宮川大助の介護』に続く後編です。

 

愛する人がとにかく元気でいてほしい。そのひたむきな心が「介護男子」を育てる

形質細胞種が右の頭の骨に見つかり、放射線治療をしたあと、なぜだか右足が動かなくなってしまった花子さん。これを機に大助さんは「介護男子」として、妻の介護を担うことになったのです。どんなに仲のよい夫婦でも、“介護”をする側・される側になったら、それまでの関係に亀裂が生じてしまうことも往々にあるでしょう。ここでは、大助さんと花子さんに在宅介護が始まった頃のお話、そして現在の様子をお伺いしました。

 

「正直、僕も最初は『嫁はんのおしめを変えるんかあ』と思ったよ。あなたのうんこをじっと見つめて『これが夫婦というものだろうか』と哲学的思索にふけったこともあった(笑)。でも、今はむしろ便が出たら、ほっとするね。健康のバロメーターやし。よし、今日も元気やと安心できるからね」(大助さん)

 

摘便に対する大助さんの正直な感想、そして変化していった気持ち。「愛する人がとにかく元気でいてほしい」。その思いが介護の苦労や戸惑いなどを凌駕するのは、パートナーや家族を持つ立場ならきっと理解できるはずでしょう。「介護男子」として、介護することに慣れた現在の大助さんは?

 

「僕が一人で(介護を)全部抱え込んでいるわけじゃないからね。今は週3回、月水金に訪問看護師さんと理学療法士さんが来てくれるでしょ。その方たちと協力しながらリズムを合わせて介護してる。実際には、看護師さんとリハビリの先生が7割で、僕がやっているのは3割くらいじゃないかな。ほんまにプロはすごいと思う」(大助さん)

 

過去には、入浴介助に不慣れな大助さんが花子さんをお風呂に落としたというハプニングもあったとか。腰が悪い大助さんが花子さんを必死で抱え上げようとしても、うまくいかず……。今では笑い話になっているものの、お二人の介護がスタートしたばかりの苦労が伺えます。

 

「お風呂も看護師さんが入れてくださるから、大助さんに落とされる危険もなくなったしね(笑)」(花子さん) 

 

「いやあ、お風呂であなたを2回、落としたからね、石けんつけてると滑って、滑って。僕からあなたに注文するとすれば、おしめ交換は、遠慮せずに言ってくださいってことくらいかな」(大助さん)

 

「なにわにすごい介護男子がいるぞ」、私はそれを世の中に伝えたいのです

 今では笑いを忘れず、明るい気持ちで介護を受け入れているように見える花子さんですが、もちろん、最初から一筋縄ではいきませんでした。介護されることを恥ずかしがったり、負担をかけてしまうという罪悪感に駆られたりして、“介護されること”を素直に受け入れられなかったよう。

 

「最初の頃は介護される側もおしめ交換に慣れていないから、頼むのが申し訳ないし、つらいねん。つい遠慮してがまんしてたら感染症になって、お尻が真っ白になってしまったこともあったよね。先生に『多発性骨髄腫は感染症が一番怖いんですよ』って言われて、それ以来、できるだけすぐに交換してもらうようにしてます」(花子さん)

 

介護してくれる大助さんに遠慮してしまうことは、さらなる負のスパイラルを起こしてしまうことに気づいた花子さん。それ以降、「がまんをする」ことからは卒業しました。結果的にそのことが、介護する側とされる側の心身をラクにさせたのです。

 

「うん、それでずいぶんラクになったね。便が柔らかいと、どうしても前に回ってきて女性器に入ってしまいそうでしょ。あなたの介護をするまでまったく知らんかったけど、女の人は、排便時の細菌が膣に入って膀胱炎になることが多いらしい。もし、そんなことになったら、今でも大量の薬を飲んでいるのに、さらに薬が増えてしまう。それは避けたいから、僕が一番気をつけているのは、女性器とお尻をとにかく清潔にしておくこと」(大助さん)

 

花子さんの闘病生活も今年で6年目。年数を重ねていくごとに、大助さんの「介護男子」レベルもぐんぐんアップしています。今では、花子さんはもちろん、医療従事者のみなさんからも大助さんの介護は高く評価されているのだそう。

 

「バルーンや摘便だけじゃなくて、褥瘡の治療も『とても丁寧です』って先生や看護師さんにほめられるし。白内障の目薬をさしてもらったときも、たまたまそこにいた人たちに『すごい上手!』ってびっくりされたよね」(花子さん)

 

 「スッとさすだけで、目薬が一滴もこぼれへん、と(笑)。あれは僕の技術だけでなくて二人のチームプレーやな」(大助さん) 

 

今回の『なにわ介護男子』は、面と向かって伝えても決して受け取ってくれない大助くんへ、花子さんからの感謝状のようなもの。あふれるほどの「ありがとう」と「病気になってしまって、ごめんね」というおわびの気持ちを込めたと教えてくれました。

 

「なにわにすごい介護男子がいるぞ。この人はすごいんだぞ。『なにわ男子』もカッコいいけど、『なにわ介護男子』も顔の大きさと年齢では負けてへんぞ、いや、カッコよさでも負けてないぞ、と世の中に伝えたいのです」(花子さん)

 

本当はとてつもなく大変なことが次から次に起きている闘病・介護生活なのに、花子さん・大助さんはその大変なことを“笑い”に変換してしまう天才。そして、どんなときもお互いを尊敬し、深い深い愛情で結ばれています。そんなお二人の姿はいつだって、私たちに生きる意味や真の夫婦愛を教えてくれるでしょう。現在、花子さんは「もう一度、自分の足でセンターマイクまで歩きたい」という思いのもと、よりいっそうリハビリに励んでいるそう。再び、ステージの上から花子節を聞ける日を願わずにいられません。

 

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『なにわ介護男子』宮川大助・花子 著 1,650円(税込)/主婦の友社

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<著書プロフィール>

夫婦漫才の第一人者。大助は1949年、鳥取県生まれ。会社員を経て、浪曲漫才の宮川左近に弟子入り。ガードマンの仕事をしながら100本の漫才台本を書く。漫才ではネタ作りとツッコミ担当。花子は1954年、大阪市生まれ。大阪府警に入庁後、チャンバラトリオに弟子入り。漫才ではボケ担当。79年にコンビ結成。87年に上方漫才大賞の賞受賞。2011年に文化庁芸術選奨 文部科学大臣賞 大衆芸能部門を受賞、17年に紫綬褒章を受章。19年12月、花子が自らのがんを公表。2023年5月に大阪・なんばグランド花月に復帰。徐々にステージやテレビ、ラジオ出演を増やしている。書籍は『あわてず、あせらず、あきらめず』(主婦の友社)ほか。

 

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